見出し画像

「オッペンハイマー」;出来るだけ他者に伝わるように書く感想文㉚

「オッペンハイマー」(映画/2024)

 クリストファー=ノーランが描く、「原爆の父」J=ロバート=オッペンハイマーの歴史映画。ノーラン自身初のオスカー受賞作となった本作は、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で栄冠を得た。日本公演が当初の予定より半年以上遅れたことでも話題になったが、(バーベンハイマー)多くの劇場でこの映画が公開されており、日本でも広く観覧できる。



 IMAXで視聴したため、音声のこだわりを感じた映像体験だった。
 様々な宇宙の演出はとても美しく、文系として文字ばかり見ている私にさえ物理の美しさを直に感じる内容だと振りかえっている。時系列がごちゃごちゃに表現されているこの内容は、まさに人生を振り返ったときの点と点が一人の人間として結びつくさまを描いているように感じ、とても魅力的な内容に思える。ぜひとも映画館で見て欲しいと思う。



 オッペンハイマーは理論家なのか。政治屋なのか。
 量子力学に魅了される学生だった彼は、「非常識な」理論家だった。一方で、マンハッタン計画のリーダーとしてニューメキシコの2200 mの高地ロスアラモスに街をつくる彼は政治屋だった。理論家だからこそ自らの成果に苛まされ、政治家だからこそ赤い波として断罪される。

 人類にリンゴを「齧る」あるいは「齧らせる」罪をオッペンハイマーは犯せなかった。彼はリンゴをゴミ箱に捨て、判断を下すことを苦悩と奮闘の末放棄した。だが間違いなくリンゴに毒を持ったのは彼である。人類はいまだにそのリンゴを手に持ったまま、それを食べるのか捨てるのか、判断を出来ずにいる。



 クリストファー=ノーランの映画ではかなりメッセージ性の強い作品で、2020年以降のこの価値観の時に、この価値観の映画を放映することにも大きな意味を持たせていそう。


「矛盾の人」オッペンハイマーは、悪魔のようでありながら、
相反する感情や思想をいくつも抱え込みながら生きるその姿に、
どこか私たちにも通じる、ひとりの人間としての
普遍的なあり方が垣間見えるからなのかもしれません。

(“矛盾の人”オッペンハイマー/NHK「映像の世紀 バタフライエフェクト」バタフライダイアログ)

 私はアフター・オッペンハイマーの世界に生きている。世界は思ったよりもサイバー戦争にならないし、ペンは剣よりも強いと言い切れない時代は続いている。だからこそ何かを考えるきっかけの映画として、与えられるテーマとして一筋縄ではいかぬものを感じてこの映画を見終えた。ウランやプルトニウムが放つ光が、重力に勝っているうちはまだまだ元気な恒星として存在しているが、その光が重力に逆らうことが出来なくなった後の人類は大爆発を齎し、その日はそう遠くないのではないかとも思わされる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?