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【"プレーに関与"ではなく"相手競技者への影響・妨害"で考えましょう】カタールW杯 グループA オランダ×エクアドル 判定分析

みなさん、こんにちは。まっつんです。
戦術分析記事を久しく書いてないにも関わらず、W杯カタール大会 グループリーグ全48試合を48人で分析しよう!という壮大な計画にお声がけいただき参加する事になりました。

担当試合はグループA 第2節のオランダ×エクアドル。対戦カードを選ぶにあたってfootbolistaのW杯ガイドブックをパラパラめくっていたところ目に留まったのがOranje(オランイェ)ことオランダ代表でした。アラフォーおじさんの私のイメージは、オランダと言えば4-3-3。オランダと言えば、 オーフェルマルスやロッベンといったウィンガーがドリブルでちぎってちぎってちぎりまくるイメージ。ところがガイドブックを見てみると、W杯最終予選が終わってから4-3-3を捨てて3-4-1-2を採用したとのこと。
どんな感じなの?と興味が湧いたので、オランダ×エクアドルをチョイスしました。

先制点はオランダ

そんな訳で実際に試合を見てみると、確かに初期配置3-4-1-2をベースに、ビルドアップで3-1-5に変化するオランダ。後ろ3枚は変わらず、アンカーにデヨング、両WBを加えた前線5枚でセット。対するエクアドルは初戦の4-4-2ではなく対オランダ用に用意していたと思われる3-4-2-1(非保持5-2-3)で対抗。

開始早々、試合を動かしたのはオランダ。後ろ3枚を中心にピッチの横幅いっぱいにボールを左右に動かし、アンカーのデヨングがボールの動きに合わせて左右に流れる。デヨングを警戒するエクアドルは"デヨング番"を設置。エクアドルはボールサイドのシャドーがオランダのCBを監視。代わりに、逆サイドのシャドーがデヨング番を担当という役割分担。オランダの右サイドにボールと人が集中すると、デヨング番のプラタが持ち場を離れてオランダの右サイドへ。こうなると、左CBアケの前には広大なスペースが出来上がり、余裕を持ったドライブからエクアドルの2ボランチの間を割り、前線のコンビネーション+ガクポの強烈な左足で先制に成功した。

同点ゴールはオフサイド

それ以降もアケのドライブからの展開が目立つものの、かつてのロッベンの様な強烈な個を持つ選手がいないオランダは、大きなチャンスを作れず時間だけが過ぎていく展開。一方のエクアドルは前半20分過ぎからワンツーやワンタッチのパスを多用する事で次第にオランダゴールに迫る。そして、前半47分に得たCKのこぼれ球をミドルシュートでネットを揺らすも判定はオフサイド。オフサイドポジションにいたエクアドルのポロソがオフサイドの反則となった。

違和感

この時、Twitterのタイムラインに流れてきた「プレーに関与したからオフサイドか~」のコメントに違和感を覚えたのである。個人的には判定まわりの言葉は正しい表現の使用を意識しているが、それは自分が審判資格を持って審判活動をしているから。そうでない人は意味が通じるなら正確でない表現でも良いと思っている。ありがちなワードで"キーパーチャージ"という言葉がある。現在の競技規則では存在しないにも関わらず、テレビの解説者が今でも使う。ただし、彼らの意図としては"キーパーに対するチャージ(反則)"という意味合いで使っているように思えるので、私としてはさほど気にならない。

そしてキーパーチャージ同様に「プレーに関与」も競技規則には存在しない。ただし、キーパーチャージとは違って、オフサイドを考えるうえで「プレーに関与」という表現は避ける事をおススメする。理由は解像度が落ちるからだ。

前半47分の事象

CKのこぼれ球を17番がミドルシュート。途中で7番がボールに触り、軌道が変わってオフサイドポジション(以下、オフポジ)にいる25番の左側を通ってゴールへ。25番は直立不動ではなく、17番のミドルシュートを打つ瞬間からボールがネットを揺らすまでの間、オンサイドのポジションに向かってゆっくり歩いて移動した。こちらの動画も併せて参照してほしい。

オフサイドが成立した理由として、17番がシュートを打った瞬間にオフポジいる25番がキーパーの視線を遮った可能性もあるが、ここでは考慮せずに25番の「ゆっくり歩く」行為にのみフォーカスを当てる。

インパクト 4要件

25番がオフサイドの反則で罰せられた理由は、キーパーに対するインパクト(影響)である。DOGSO同様に、インパクトが成立するためには4つの要件が必要となる。

  1. 攻撃側競技者がオフポジにいる

  2. ボールがオフポジにいる選手の近くを通過する

  3. オフポジにいる選手と相手競技者の距離が近い

  4. オフポジにいる選手が明らかな行動をとる

映像を改めて見ると1~3に異論を唱える人はいないだろう。全て成立している。この事象は4をどう考えるかがポイントである。25番の動きの意図としては、ボールにプレーしようとしたのではなく、オンサイドのポジションに戻ろうとした動きと考えられる。

結論は、明らかな行動と言える。現在の解釈では、ボールに対する意図がない動きも"明らかな行動"に該当すると判断される事が多い。歩いての移動以外にも、ボールを避けるために片足を上げるといった行為も明らかな行動と判断される。

ちなみに、DOGSOは4つ全てが満たされてはじめて成立するのに対し、インパクトは4つの項目を総合的に考えて判定する。1つ疑いのある項目があっても、総合的に考慮した結果 それがインパクトと判断される事もある。例えば、1~3は十分満たしている(◎)が4は微妙(△)といった場合、明らかな行動は△だけど他の項目が◎なのでインパクト成立・・・といった具合に。

また、大前提として「オフポジにいるかどうか」以外は全て主観で判断されるので、似たような事象でも審判(主審/副審)によって判定が分かれる可能性は大いにある。判定のバラつきは受け入れられない傾向にあるが、人が主観で裁くサッカーの競技特性であり、ある意味面白さであるとも言える。

"プレーに関与"ではなく"相手競技者への影響・妨害"で考えましょう

何故"プレーに関与"という表現を使うべきではないのか。それは、解像度が落ちるからと先に述べたとおり、「プレーに関与」があまりに曖昧な表現だからである。
例えば25番がキーパーの右側にいて同じ動きをしたとする。「プレーに関与」したかどうかで考えると、「関与してるっちゃしてる・・・か?」となるだろう。ぼやけるのである。

4つの要件を覚えるのがベターだが、別に覚える必要は無い。
「相手競技者に影響を与えたかどうか」
この物差しを意識しておけば、「キーパーのすぐ側だけど ボールから遠いので影響は無いのでは?」といった感じで、一歩踏み込んだ視点で判定を考えられるようになるだろう。

次戦こそ

という訳で、開幕戦を皮切りに幾多のレビュワーが戦術分析記事をアップする中、(空気を読まずに)判定分析を行ってみた。48人中1人くらい、こういう記事があっても良いだろう・・・と受け入れてもらえる事を願って、今回はこの辺で終わりにしたい。

最後に番宣としてカタール大会で使用されるVARテクノロジーをまとめた私のツイートも紹介しておくので、判定やテクノロジーに興味がある人はぜひ内容を確認してほしい。今回は半自動オフサイドテクノロジーが導入されたしね!

次回、執筆のチャンスをもらえたら次こそは戦術分析記事を書こうと思う。


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