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#2 フィッシュマンズとダンスミュージックにまつわる話

今年でフィッシュマンズがデビュー30周年を迎え、クラウドファンディングで募った費用で制作されたドキュメンタリー映画がちょっと前に公開されました。まさかの“名古屋飛ばし“で近所の映画館は1週間遅れの上映ってことに気づいた公開初日の朝、ふぅ〜って思いながら何となくイヤーパッドを耳に突っ込んで“空中キャンプ“を聴いていたら、何だかいてもたってもいられなくなってしまって、京都まで車を走らせてました。

映画はものすごく誠実に作られたドキュメンタリーで、出会いと別れを繰り返していったフィッシュマンズの歩みを、メンバーや近しい人がいろんなものに向き合いながら、ものすごく率直に語っているのがとても印象的でした。信じられないくらい最高な瞬間と、耐えられないような悲しさや切なさが押し寄せてくる、でもそれって優れたアートとか音楽そのものだよなぁ、みたいな、そんな映画でした。

実は自分自身はリアルタイムではそれほどフィッシュマンズの音楽を聴いていませんでした。いわゆるポリドール期、世田谷三部作といくつもの伝説的なライブをやってた95年〜98年頃、思い返してみるとずっと大好きだったスピッツとL⇔Rがメインストリームでブレイクする一方でスパイラルライフが解散し、サニーデイ・サービスが“東京“をリリースしたり、“世界の終わり“でミッシェルガンエレファントがデビューしたり、その辺りは熱心に聴いていたのに、もちろんいくつかのフィッシュマンズの曲は耳にしていたはずなのに(“宇宙日本世田谷“で最初のシングルだった“Magic Love”のビデオはスペースシャワーでもよく目にした記憶はあるのよねぇ)、それほど入れ込むまでには至らないうちに、佐藤伸治の訃報とともにフィッシュマンズは当時その歩みを止めてしまったんですよね。

(Spiral Life…好きやったなぁあの頃)

映画の公開日に片道2時間もかけて映画を観に行くくらい、いつからフィッシュマンズがこんなに好きになったのか、はっきりとは覚えていないんですけど、多分最初に自分で買って聴いたのは2004年のトリビュート盤と、その後の“空中““宇宙“っていう不思議な名前のベストアルバムだったと思います。だけどそんなふうに家のステレオで、CDの音源で聴いたフィッシュマンズよりも、薄暗いクラブで、アンプリファイされた低音とともに夜中に聴いたフィッシュマンズの曲たちが、フィッシュマンズを好きになっていくきっかけになったように思います。

90年台の後半頃、いわゆるロック好きの人たちが、テクノやハウスみたいなダンスミュージックを聴くのが割と普通になっていったんですよね。ゴリゴリのヒップホップヘッズで最先端のブレイクビートを叩き出しながらノエルギャラガーをフィーチャーしたりしてたケミカルブラザーズや、ロックバンドとしてキャリアをスタートさせながらDJになってThe Whoとかサンプリングしてたファットボーイスリム、トレインスポッティングのあの“Born Slippy”を始め名曲連発していたアンダーワールド、日本でも電気グルーヴが“Shangri-La”と“A”が巷を席巻してた、そんな時代で。97年から神戸の大学に通学するようになって、ようやくライブやクラブに足を運ぶようになったことで、音楽の聴き方もかなり変化していった実感があります。ロックやテクノ、ハウスとかがオールジャンルでかかるクラブイベントって、ほんとに当時めちゃくちゃあったんですよ。

多分、それまでギターやボーカル、メロディとリリック、音楽ってそういう、“歌“と“ウワモノ“を聴くものであると思ってた自分が、クラブで音楽に合わせて夜中まで踊りながらベースやリズムといった“ボトム“を聴く気持ちよさを知っていったのとシンクロするように、フィッシュマンズのことを後追いでどんどん好きになっていったんだと思います。佐藤伸治のソングライティングやリリックと同じくらい、欣ちゃんと譲のリズム隊とZAKのミックスがフィッシュマンズを構成する、とっても重要なピースであったことなんて、今みんなもうわかってると思うんですけど、そこにリアルタイムでは気づいてなかったなぁ、もし気づいてたら何とかしてあの伝説的なライブを観る事もできたのかなぁ、とか思ったり。

(このライブの感謝(驚)のアウトロがもう好きすぎて…)

映画でも欣ちゃんが語っていた通り、佐藤伸治を失った後もフィッシュマンズはライブ活動を続けていきます。僕もプレミアチケットを何とかゲットして、2011年5月の日比谷野音でのライブを体験することができました。あの日は雨で、雨に降られながら浴びるフィッシュマンズの音楽はとってもスペシャルだったのを覚えてます。多分、本当にリアルタイムでフィッシュマンズを聴いてたファンの人たちにとって、佐藤伸治の歌っていないフィッシュマンズって、受け入れられなかったりしてしまうのも想像できてしまうんですけど、リアルタイムに間に合わなかった自分みたいな遅れてきたファンにとって、そうした批判も当然想像できそうな中でもライブを続けて行くこと、その重みと強さに、いつも感動してしまいます。今になって海外からの評価が高まっている、フィッシュマンズの音楽が言葉の壁を超えて届いているのもとても素敵なことで。映画に寄せられた草野マサムネさんのコメントが、何か伝えたいこと、その全てを言い表していますよね。

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多分僕も、これからも折に触れてフィッシュマンズの音楽を聴くんだろうな。まだ気づいていない、新たな魅力に出会えるかもしれない、そんなワクワクと共に。

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