超今更演劇レビュー: 隠し砦の三悪人


はじめに

この夏に観劇した「隠し砦の三悪人」がとてもよかったのでどこかに感想を残しておこうと思いつつ早4ヶ月。今公開して何になるんだという感じですが、noteの練習もかねて記事にまとめて公開します。

あなたは誰?

櫻坂46が好きな関東在住20代男。2022年からbuddies。初Liveは As You Know 仙台。山﨑天推し。欅時代のことは後から調べた程度。
観劇経験は高校時代の演劇鑑賞教室x3のみ…
Star Wars が好き。好きなキャラクターはクワイ=ガン・ジン、サビーヌ・レン。

以下では原作・舞台双方のネタバレがあります。


予習

推しグループのメンバー小林由依が黒澤映画のリメイク舞台に出演するということで見に行くことにした「隠し砦の三悪人」。Star Wars 好きとしても黒澤映画をしっかり見なければと思っていたので、よい機会だなという動機もありました。

出演者などは公式を参照: 


原作を見てまず感じたのは、いまでは「古典」のようになっているけれども、当時は娯楽として世に出されていたのだなあということ。黒澤映画のなかでもかなり娯楽よりの作品とのことですから当然といえば当然なのですが、冒険活劇、かつかなりギャグ要素を入れ込んだ作品なだけあって、一人で突っ込みを入れながら気楽に見られたなと思います。

一方、現代の冒険活劇ではなかなかないのではと感じた部分もあり。まず何よりも、ラストの戦闘シーンにおいて、六郞太がほとんど活躍しないことです。私はラストに向かって山名の鉄砲隊に追い詰められていくなかで、ここで六郞太が起死回生の活躍をしてなんとかハッピーエンドになるのかななどと考えていました(浅はかすぎる)。しかし一行はあっけなく捕らえられ、結局雪姫の言葉と歌に感化された兵衛が裏切って状況が解決します。しかも裏切った兵衛がまず六郞太の縄を解いて武器を渡し、二人で戦闘を行うといったありそうな流れにもならず、兵衛が単独で場を制圧しきった後、雪姫一行を解放してそのまま全員で逃げる。この展開は今ではあまり見られないのではと感じました。もちろん兵衛の裏切りの根っこには、映画中盤での六郞太との一騎打ち、およびその後の山名の殿様からの仕打ちが影響しているのですが。このように見せ場を失った?六郞太は仕方なく馬上から地面に座るカメちゃんを片手で引き上げ、後ろに乗せて走り去るのです。三船敏郎すごすぎ。

さらに中盤の一つの山場である火祭りのシーンは舞台でやるとなると、映える反面結構難しいのかなと感じました。獄中で雪姫が兵衛に語りかける時、「姫は楽しかった」←ずっと城内にいて市井を見るのは初めてだったから、特に火祭りはよかった、という流れが、はじめのフックとして姫の言葉に観客を引き込ませていると思います。これは直前で面目ないと「忠義」を貫く六郞太に対して、姫が自身の立場からの「忠義」を示した発言、このように応えて六郞太をねぎらい、同時にこのように半ば強がって答える行為自体を六郞太に見せてその忠義に報いている、とも捉えられますしその側面もあるとは思いますが、本当に初めての城外は刺激にあふれ面白かったのだと思います。「本心を伝えることが忠義に報いる発言になっている」ことでこの台詞がかっこいいものになっているでしょうし。そしてここの火祭りのシーンでは、何となく「活発だけれども実は城外に出たことがない姫」が「初の市井の祭を楽しんでいる」ことがよくわかる気がするのです。

火祭りで踊り始める際の上原美佐の所作が、「祭」への戸惑い故これまでの城内の生活で培われた高貴さが反映されている、漏れ出ているように私には感じられました。そこからどんどん姫は楽しくなっていくのですが、そこでも姫のどこか統制のとれた、落ち着きのある動きが身分を感じさせるように思います。姫を写す画角に、常に荒々しく力強いカメの踊りが入っていることでよりそのように見えるのかもしれません。このような「楽しんでいるけど所作に落ち着きがあって身分が反映されている」という印象は、表情含めて上原美佐が醸し出す雰囲気によるところが大きいと思いますし、画面の中ならともかく、舞台で表現するのは大変だよなと素人ながらに感じたものです。遠目に見てはっちゃけて楽しんでいることを存分に伝えながら、所作で高貴さを出すわけなので。

このように原作を見て、想像以上に雪姫が物語を動かす要因になっているなと感じました。もちろん主役は六郞太なのですが、比較的「忠義顔」を貫いたように見える/貫かなければいけない役柄の六郞太に対して、最も物語を通して変化し、ラストの兵衛の翻意に説得力を持たせなくてはいけません。これを小林由依がやる。一抹の不安と期待を胸に劇場へ。明治座で2回観劇しましたが、慌てて券をとったのでどちらも2階席から。

感想

上川さん筆頭に、みなさん力強い! そして雪姫かっこいい!

前提として、映画版の台詞はほぼそのままで、特に重要な場面はそのままやっていました。それをベースに原作にない場面をいくつか追加したり、順番を入れ替える程度。

まず、六郞太と兵衛の一騎打ちがよかったです。舞台装置を生かしてダイナミックに。そして最後に「また逢おう」。私は知らなかったのですが、上川さんにゆかりの深い台詞だそうで。2階から見ていても武者としてのスケールが伝わってきて、すごいの一言。

又七と太平の掛け合いも原作同様面白い。アドリブも満天。

原作には登場しなかった山名の殿様・竹膳は根っからのヴィラン。ラストの戦闘シーンで六郞太に見せ場を作り、おそらく討ち取られます。

そして雪姫。気品があり、存在感抜群。その中でも、原作より優しさをより表に出す、感情を出すキャラクターになっていたと思います。原作にはなかった家臣のみの安全を慮る描写があり、また子冬の死が伝えられる場面を、映画では洞窟で六郞太に「忠義顔は大嫌いじゃ」と言い残した後に裏で泣いていたのに対し、舞台版ではそれを聞いて六郞太の前で感情を吐露する。こうして原作より起伏がわかりやすくなっていたかなと感じました。あと、台詞以外の所作等々全般的に、原作よりカメのことを気にしていた気がする。

なにより「違うぞ六郞太」。ここが一番好きな台詞です。

先述したように、火祭りの場面は舞台映えするだろうし楽しみな反面、身分を醸し出すのは割と難しいよなと思っていました。実際、2階席から見た感想としては、元気にはしゃいでいたなというのが主で、踊りに二面性を宿せていたかと言われるとよくわからなかったのが正直なところです(二面性云々自体が原作を見て私が勝手にそう受け取っただけなのですが)。ただ、原作を改変して、口がきけないという建前をこの時点で無に帰してでもここで歌う。マジできれいな歌でした。小林由依は欅時代からグループの中では歌えるメンバーだったと思いますが、想像以上だった。しかも、火祭りという鎮魂の場面と彼女の声質がよくマッチしていたように思います。記名性が高すぎないというか、歌が劇的すぎない。感動した。

これらを受けての「違うぞ六郞太」(そして以下も映画と同様に「姫は楽しかった」〜と続く)。映画での同じ台詞より、より柔らかで温かみがあり、作品を通しての冒険を力強く肯定してくれるような響きだったと思います。とても説得力があったし、作品を通していろいろ経験してきた雪姫の歩みがすべて乗っかっているように聞こえました。そしてここで改めて素晴らしい歌を披露する。兵衛は、謀反しないわけにはいかないでしょう。雪姫、そして小林由依、かっこよすぎます。勢いでチケットをとって見に行った甲斐がありました。

小林由依が出演する!がきっかけで観劇したので、雪姫中心の感想になってしまいましたが、どの出演者も素晴らしかったです。客席も演劇ファンだろうなという方あり、それぞれの演者メインのファンだろうなという方ありのごった煮で、よい空間でした。

本筋と関係ない感想箇条書き

  • 山名竹膳は「御屋形様」。守護の家格。

  • ラスト逃げた後の舘シーンで「"唖"娘じゃ」が使えないので雪姫の偽名(確か「お松」)を用意したのかな。

  • 六郞太と兵衛の一騎打ちのシーンで、六郞太が振り上げた太刀を戻したとき、そのまま脇に放り投げるのではないかと一瞬感じてしまいました。そしてなぜ首を取らないのかと問う兵衛に対し、六郞太はこう答えるのです。「儂は武士(もののふ)じゃ。其方のかつての主が、またそうであったように。」

  • 獄中でカメが私が雪姫だと発言するシーン。観劇した2回とも笑いが起きてネタシーンみたいになっていたけれど、カメの不器用さと実直さがよく出ているシーンでもあり。

  • 舞台オリジナル設定で、秋月は鉄砲を好まず、弓矢にこだわるぞとのこと。粋でないですが、だから負けるんだよ🙃

    • ただ、やっぱり銃はよくないよね。uncivilised weapon.

    • 急ぎの追跡であれだけ鉄砲隊を準備できる時代に、おそらく国衆レベルの勢力である秋月・早川が生き残っていたのはすごい。

  • 全公演終了後、小林由依があげたインスタでの一言「姫は楽しかった」に勝手にぐっときました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

#舞台感想
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