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見田宗介「鏡の中の現代社会」 解説

高校3年生向け 現代文B
論点「社会」

1. どんな話なのか

 現代人は「前近代の社会」「近代の社会」の両方を知り、よりよい社会を作っていかなければならない。
 そのためには、今「当たり前」だと思っている社会の外に出て、現代社会を眺めてみる必要がある。この行為は日常生活でいうところの「鏡を見る」行為に似ている。

2. 本文の「核」

本文の核は2つある。

① 「鏡の中」=日常における「当たり前(自明性)」の外に出て現代社会を眺めること

 タイトルにもある「鏡の中の……」とは比喩表現である。外出時に全身のコーディネートをチェックしようと思ったとき、手鏡で行う人はいないだろう。手鏡はあくまで細部(メイクや髪型など)を映す道具である。全身を眺めるには、一歩引いて、鏡に体全体を映す必要がある。作者はこの「一歩引いて全体を眺める行為」を「鏡の中」と表現している。
 この文章は「社会」がテーマなので、「全身」を「社会」に置き換えればよい。つまり、「鏡の中」とは、「日常生活における『当たり前(自明性)』の外に出て、現代社会を眺める行為」と考えることができる。

② 前近代/近代の対比

 前近代/近代の対比は評論で超頻出なので必ず覚えたい。
 本文における特徴を以下にまとめた。

 論点としての「前近代/近代」も別記事でまとめる予定。

3. 各段落の解説

A段落(問題提起)

 作者は社会を鏡に例えている。「鏡の中」とは、「日常生活における『当たり前(自明性=細部の例)』の外に出て、現代社会を眺める行為」だ。
 次に、途上国(インド・メキシコ・ブラジル)と先進国(ヨーロッパ・アメリカ)の対比を述べている。これは後の記される前近代/近代の対比の伏線となっている。

B段落、C段落前半(本論)

 途上国と先進国の「時間の捉え方」について論じている。
 先進国(近代化された社会)は「Time is money」が基本であり、時間は「生きる」ものでなく「使う」ものである。先進国は発展するにつれ、そこで生きる人々が多忙になり、常に「時間を効率よく使う」ことを意識して過ごすようになった。先進国とは近代化された社会であり、合理化された社会である(我々の使う「コスパ」という言葉がよい例だ)。
 一方、途上国(前近代の社会)は「余白」のある社会である。先進国とは違い、徹底的に合理化され切り詰めるような雰囲気はない。「余白」ーーつまり、「ムダ」を残している。この余白により、外から来た人間も輪の中に入りやすい。本文中では、これを「開かれた共同体」「自由な共同体」と表現している。

C段落後半(結論)

 「近代化された社会」と「前近代の社会」は一長一短だ。
 「近代化された社会」は、目に見えるもの、言葉で表現できるもの(利益、数字、インフラ、利便性等)を獲得した。一方、目に見えないもの、言葉で表現できないもの(余白、共同体内の付き合い等)を喪失した。
 「前近代の社会」は、目に見えないもの、言葉で表現できないもの(余白、共同体内の付き合い等)を獲得した。一方、目に見えるもの、言葉で表現できるもの(利益、数字、インフラ、利便性等)を得ていない。

 筆者は、「どちらかが正しい」とは述べていない。「前近代/近代の社会の両方を知ったうえで、よりよい社会のかたちを構想・実現すべき」と述べている。

4. テストに出そうな重要箇所

① 「自明性の罠」とはなにか

「自明性=あたりまえ」から、「自分の過ごしている日常があたりまえのものだと誤解すること」をいう。

② 「旅行」と「旅」の違いはなにか

 途上国は不便で、「途方に暮れる」ことがある。筆者は途上国を訪れることを「旅」と表現している。先進国は発展しており、スケジュール通りに予定が進む。筆者は先進国を訪れることを「旅行」と表現している。
 つまり、「旅と旅行の違い」は「『途方に暮れる』か否か」である。

③ 「遠い鏡に映された狂気」とはどういうことか

「遠い鏡」が「日本から遠く離れた異国」であることをおさえる。よって、「日本から遠く離れた異国(遠い鏡)で、わずかな時間の遅れに騒ぎを起こす先進国(日本)の異常さを知ること」である。

④ 「三本針もふつう」とはどういうことか

三本針が「秒針」を示すことを踏まえ、直前の「『分』という単位は、まだ生活に必要なかった」をひっくり返して記述すればよい。
つまり、「現代人の生活に、秒という単位が必要になったということ」が答えとなる。

⑤ 「何か本質的なもの」とはなにか。同意表現を探せ。

「本質的=核」である。これを手がかりに考えると、「人間が生きていくうえでいちばん核心にあるもの」が答えであるとわかる。


⑥ 筆者の主張はなにか。

C段落後半のまとめ参照。

5. おわりに

 対比をつかむことが最重要である。先進国と途上国の具体例が交互に述べられているため混乱しがちだが、結局のところ「前近代/近代」の特徴を記述しているに過ぎない。
 この対比にさえ気づければ、難解な具体例や専門用語はサラリと読むくらいでちょうどいい。

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