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お堅い業界誌ライターが、コンビニスイーツを取材するようになった理由

こんにちは。フードライターの笹木理恵です。今回は、私がコンビニグルメ(主にスイーツ)を取材するようになった経緯について、お話したいと思います。

以前のnoteでもお話しましたが、私はもともと飲食業界専門の雑誌編集者としてキャリアをスタートしました。会社員としてはわずか4年の勤務でしたが、ここで取材のやり方から編集者のイロハまでを教わりました。そしてその後も、自然と飲食の専門誌での執筆がメインでした。ラーメン店の開業本、焼肉業界の専門誌、コーヒーの焙煎本、シュガークラフトの技術本…とにかく、あらゆるジャンルの本を担当させていただきました(と、過去形になっていますが、現在もお仕事の大半は専門誌です)。

転機となったのは、出産のため里帰りをし、三軒茶屋から横浜へ引っ越しをして、見知らぬ土地での生活がスタートしたことでした。里帰り中、私の実家は千葉の田舎で、周りには都内のようなキラキラしたケーキ屋さんもパン屋さんもありません。当時はまだ両親も現役で働いており、クルマ社会な地方で一人きり。お散歩がてら行く近くのコンビニのスイーツがこんなにもありがたかったのは、バリバリ編集者として深夜まで働いていて、ケーキ屋さんが空いている時間になんてとうてい帰れない会社員時代以来だったかもしれません。田舎にいても、スマホひとつで繋がれる時代。お取り寄せもできますし、ホテルやパティスリーの最新のケーキを検索することもできましたが、やっぱり実際に食べに行くのは難しい。そして、実際にはそういう人がほとんどなのではないだろうか?と、ふと思いました。これまでは仕事で食べ歩いていたけれども、実際に足を運べる人はごくわずかなんだなって。

そして産後、保育園に0歳の子供を預けながら働くようになった頃。それまでのように、居酒屋やレストラン、ラーメン店などに下見に行くことが難しくなり、夜の取材も難しくなりました。自然と、昼間に下見に行きやすいパン・スイーツの取材が増えてきた代わりに、大好きだった居酒屋・バルの取材は減っていきました。

allaboutの担当者さんからお声がけをいただいたのは、そんなふうに産後もやもやとしている頃でした。飲食店の専門誌出身ということで、お好み焼きとか幅広いジャンルをご提案いただいたのですが、「0歳児がいて、定期的に下見に行けるのは…」と考え、打診させていただいたのが、コンビニスイーツでした。当時はコンビニスイーツが盛り上がりはじめた頃で、「単なる実食レポではなく、専門誌のライターが分析する、という切り口でやってみたらどうか」と思ったのがきっかけです。

日ごろ取材しているパティスリーとは対極にある、大量生産のお菓子。添加物も入っているし、私も大量摂取することには正直抵抗があります。何よりコンビニそのものの営業形態が、経営者の過剰労働を招いていたりして、非難する人がいるのもわかります。でも、多忙な社会人生活や、ひとときの田舎暮らしを経験して感じたのは、「コンビニスイーツに救われる人もたくさんいる」ということ。同じく田舎暮らしをしている妹に「おねえの紹介している店はどこも美味しそうだけど、実際には買いにいけないもんなー」と言われたことも、私の背中を押したように思います。コンビニのスイーツなら、「あれ美味しかったよ!」「今度買うわ!」と、体験を共有できて、一緒に盛り上がれたから。今でも実家に帰ると、子どもが寝てからこっそりコンビニのお菓子でおやつパーティーをすることも少なくありません。

そして、実際にコンビニスイーツを取材してみると、開発担当の方はどんな思いで開発したのかを一生懸命説明してくださる。「消費者に喜んでもらえるものを作る」という思いは、個人店でも企業でも、変わらないのではないかと。

大事なのは「コンビニスイーツは毒だ、個人店の敵だ」と一刀両断して決めつけるのではなくて、どんなシチュエーションで、どんなふうに消費されているのかに目を向けることなのではないかと。SNS時代、コンビニのスイーツやアイスで全国の人が盛り上がっているのを見ると、これも一つの文化なのではと感じてしまいます。

最近はコロナの影響もあって、ECサイトや通販も発達して、生菓子のお取り寄せもずいぶんできるようになりました。冷凍技術が発達して、遠方までプロのお菓子を届けられるようにもなりました。コンビニスイーツにとっては、今後脅威になるかもしれません。そうした現状もふまえながら、今後も楽しくコンビニスイーツを取材していけたらと思っています。


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