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フードスコーレな人たち vol.3(佐藤一成篇)

2020年に開校した食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」は、今年3月で2期を終えます。そして4月からは、これまでの授業体系を一新した「2021年度前期Basicカリキュラム」がスタートします。

foodskoleでは、食について「ともに学び合う」がモットーです。米屋、海苔屋、料理人、漁師、醤油職人、かつお節問屋、麹屋、農家、畜産家、編集人、廃棄コンサルタント、大学教授、大学生や高校生など。ここではたくさんの個性豊かな人たちが、それぞれの立場で過ごしていて、ともに学び合っています。その様子はもう本当の学校のようです。

ここで過ごす人たちのことを、もっとたくさんの人たちに知ってもらうことで、わたしたちがそうであるように、読まれた方それぞれの「食」のあり方に良い変化が起きるかもしれない。そんな期待を込めて、この不定期連載をお届けしていきたいと思います。

フードスコーレ校長の平井巧から誘われ、コアメンバーとなった佐藤一成。「もし、誘われていなくても、勝手にコアメンバーになっていたと思う」と言います。コアメンバーになる前は、自らの持ち込みで食の編集者クラスを立ち上げ、クラス長も務めていました。普段は社会人として企業でも働き、多忙な生活を送る佐藤。彼はなぜここまで食にこだわり、フードスコーレにコミットするのでしょうか。

「自分がやりたいと思えることが、フードスコーレで実現できる。そして、一緒に挑戦するメンバーが最高だと思った。」

不定期連載、今回の担当はフードスコーレのオオモリノブヒロです。

佐藤一成のプロフィール
食と農のディレクター
地域で起きている社会課題をその地域に必要な解決方法を模索し提案・実施することに携わる。現在、第1次産業と食に関わる課題に「6次化・物流・新規就農・体験」などで解決できるよう取り組んでいる。株式会社良品計画に所属。

フードスコーレは自分の支えになる人がつどい、そして、想いを実現できる場。

佐藤は、おいしいものを食べて人が笑顔になるように、食という体験を通して、その人の人生が豊かになることが夢だと語ります。

佐藤
「これからは、食に関する学びによって得た、知識やノウハウが必要とされる時代だと思っていて、foodskoleはその時代をつくれる場だし、受講生が笑顔で食を学ぶことができると思っています。」

そう強く感じる理由は、校長の平井とコアメンバーの存在でした。

佐藤
「平井さん自身食に関するモノを作って売っているわけではないんですよね。でも、たくさんの人に必要とされている。自分の経験やノウハウなどを活かして生きている人なんですよ。

それなのに、自分の経験と違っても『そういう考えもあるよね。でも、ぼくはこうとも思うんですよね。』といって、ちゃんと受け入れてくれるんです。共存を目指す人なんですよ。だから、なんでも気軽に相談できるんです。コアメンバーも、ほんとバラバラなんですけど、結局、なにかをやるときに否定的にならず、どうやったらできるか?に視点が変わるメンバーばかりですね。」

平井やメンバーの存在は大きいと言う佐藤ですが、メンバーの立場で見ると、フードスコーレのさまざまなキッカケを作る中心にはいつも佐藤がいるように思います。

自身の仕事をこなしながら、なぜ佐藤はこんなにも自らが動き続けられるだろうと不思議に思っていました。今回、その疑問をぶつけると佐藤は自身の生い立ちからその想いを話してくれました。

佐藤
「母親自身が子どものころ体調がすぐれない時期もあってか、祖母や母親は、食や生活についてはものすごいこだわりをもっていました。例えば食材については、いわゆる良いものやこだわっているもの選ぶから、極力スーパーなどでは買い物をしないで、取り寄せてました。もちろん、市販のお菓子やジュースは家では出てこないし、外食もしない。おやつに出てくるのは、さつまいもや手作りのきびだんご、社会人になってようやくケンタッキーを食べたくらいです(笑)」

当時はなんでだろうと疑問を持ったり、反発心を持っていた佐藤だが、今では良い経験だったと笑顔で話します。

佐藤
「子どものころの経験は、自分の食に対する想いに生きていると思いますね。食材は、スーパーなどで買うのが当たり前でなくて、良いものを選ぶことも、自分で作ることもできるんだということを知ることができたし、振り返れば、これまでの人生を楽し めるきっかけになっていると思います。」

この話しを聞いて、佐藤の食に対するバイタリティの原点を知ったように感じました。しかし、佐藤はそれらの経験が良かったとしても、一般的なスーパーなどに並ぶ食材や調味料が美味しくないとか、良くないとは言いません。

佐藤
「すべての人が、私の母のように食材を取り寄せるとか、スーパーの食材を使わないというのは無理ですよね。それに、料理の仕方によってどんな食材でもとても美味しくなると思うんです。だから、素材はもちろんですが、技術やノウハウも同じくらい大事だと思っていて。その技術やノウハウのコツを知ってもらうことが大事だと思います」

そんな佐藤はこれまでどのように食を意識し、食に関わってきたのでしょうか。

食への想いを追及し、人の縁を大事にして進む。

そこには、自分の興味や関心を拾いあげ、楽しく進むコツを教えてくれる人との縁がありました。

佐藤は新卒で大手小売企業に就職します。最初は、あまり良い印象を持っていなかったのですが、その企業をテーマにした本を読んでから考えが変わっていきました。

その企業が生まれた背景には干ししいたけがあります。一般的には、形の良い商品がスーパーに並んでいるものですが、干ししいたけの出汁をとるという本質を考えたら、形の悪いものでも問題ないという発想から、商品選別の労力をなくし、形が良いものも悪いものも一緒に並べてしまおうとなったのです。このものづくりの考え方にとても共感した佐藤は入社を決めました。

しかし、2015年、佐藤はその会社を辞め、レストランで働くことになります。そこには循環に対する想いがありました。

佐藤
「会社の理念は好きだったんですけど、結局はモノをたくさん売らなければならないんです。それが、僕が思っていた商品は資源だということと矛盾するように感じてしまって。

顔の見えない人に売って、はい終わり。あとは、買ってもらった商品が最後にどうなってしまうのか、それこそちゃんと資源として回収されているのか、ゴミとして捨てられてしまうのか。そこが見えないことに何故か強い疑問を持っていました。今思うと考えが若かったなと思いますが(笑)。その時に、やっぱり食の道に進もうかなと思ったんです。」

佐藤は、食に対し真摯に向き合ってきた経験から、食であれば作るところから提供するまで、そして余った料理をどう扱うかまでを責任を持って関われると感じていたのかもしれません。

この年、勤務地が東京から山梨に異動となっていた佐藤。近くの山に登山に行った帰りに偶然の出会いがありました。そして、そこから食の道へ進むようになります。

佐藤
「登山の帰りにツリーハウスをたまたま見つけて、そこの管理人さんと話してたんです。そうしたら、ツリーハウスでやるパーティーに誘われて、結局参加することになったんですが参加者の中に地元のレストランで働いている人がいて、仲良くなって。それからレストランに食事に行くようになりました。

今度は、旅行に行ったフィレンツェで、お酒とご飯がめちゃくちゃ美味しい地元の食堂に出会って、値段も全然高くないんだけど、すごく満足して、こういう食文化を体験できる場所って良いな、やっぱり食は素晴らしいなって。帰国したらツリーハウスで知り合ったレストランがスタッフを募集しますってSNSで募集していたので、なんだこれ!運命じゃんって感じで働き始めました(笑)。」

レストランスタッフを通して、佐藤は食への取り組みにどんどん熱中していきます。

佐藤
「約150坪の畑を借り、レストランで提供するための野菜を育てました。自然を相手にするとやることはたくさんあって、レストランで働いていないときは畑にいることも多かったですね。レストランでは、料理やワインのスキルや知識を学ばせてもらいながら、自分が得意だった接客や経営的な部分を担当していました。」

やりたいことだった食に関わる仕事につき、日々充実した生活を送っている佐藤だったが、2年半後、また次のチャレンジを見つけることになります。それは、違和感を感じて辞めたはずの前の職場でのチャレンジでした。

佐藤
「しばらくして、地元の獣外問題からジビエの活用について相談をもらったり、町の活性化や地域おこしへの誘いが増えたりしていきました。レストランと畑という枠から、食というものを通して街に関わるようになっていったんです。」

そんな時に、前の会社が中国の複合施設にホテルやダイニング、食の販売店舗をトータルでプロデュースしていることを知り、その取り組みや内容にとても興味を持っていました。

佐藤
「実は、前職を辞める前にそのプロジェクトの担当者が、山梨に視察に来たことがあったんです。後から知ったのですが、ツリーハウスのパーティーで知り合ったコピーライターの方(前職と元々つながりのある方)がなんか面白いやつがいるみたいだと、その担当者に話していたみたいで。そのコピーライターの方には、仕事や働き方についても相談していたのですが、そういったご縁もあって、実際に担当者と繋いでくれることになったんです。」

担当者と会い、地域課題を解決するための新規事業が立ち上がることを知った佐藤は、その立ち上げと合わせて復職することになります。

行動で広がる人の縁。食を意識し続けたことで生まれた平井との出会い。

新規事業部で最初に取り組んだのは板橋区にある団地でのプロジェクトでした。

団地内の有休施設を活用して社員寮を開設したり、団地内の商店街にオープンした店舗を拠点に、自治会による夏祭りや商店街と連携したクリスマスイベントなどを開催していきました。

佐藤
「お店を出して、モノを売るだけでなく、団地や近隣住民の方々と様々な交流を創出し、ひとつのコミュニティを作ることが目的でした。一体感を作るというのか、モノを売る方と買う方という関係性以上のつながりを作ろうというプロジェクトです。」

このプロジェクトを通して、コミュニティを自分たちの手で良くしよう。自分たちが主役になろうという人が増えていったことがとても楽しかったと佐藤は言います。

そして、佐藤はこのプロジェクトを通して、ついに平井と出会うことになります。食の課題をテーマにイベントができないかと思っていた佐藤が、当時サルベージ・パーティを主催していた平井に相談したことから始まります。

佐藤
「フードシェアという視点で、多世代コミュニティできないかと考えていたんです。みんなの家で余っている材料を持ち寄って、一緒に料理教室をやったら、食材を捨てることもないし、つながりもできるんじゃないかと思ったんです。当時注目され始めていたフードロスというテーマで平井さんにお話してもらいながら、専門のシェフと一緒に実際に料理をして食材を活かす。食の問題を楽しみながら取り組める場になりました。」

平井と協力したイベントは大成功し、その後も食に関するイベントは盛り上がっていきました。平井自信も当時は仕事というより、佐藤と話しをすることが面白くて通っていたと振り返ります、そして、佐藤の取り組みに共感し、自身が主催するフードロスの学校でゲスト講師として佐藤を招へいしました。

佐藤
「地域のコミュニティが円滑になると、昔ながらおすそ分けっていう感覚が戻ってくるように感じたんです。家で余っているものを持ち寄って料理教室やお茶会をしたり、自分では使えないものを『あ、あの人なら上手に使ってくれるかも!』となって、プレゼントしあったり、これって、フードロスにも良くないですか?っていう話しをしてきました」

佐藤はこの縁をキッカケに、食に関するさまざまな想いを平井にぶつけていきます。そして、その想いが形となったひとつに、2020年のフードスコーレで実施した食の編集者クラスがありました。

フードスコーレを作る理由。ここでしかできないことがきっとある。自分にも、受講生にも。

佐藤
「自分の会社ではできないことも、平井さんとならできるという確信が当時からなぜか持ってたんですよね。だから、日常にある食べなれた食材をヨコから見てみたら面白いなと思っていて、それを 平井さんに話したら、『じゃあやりましょう』となって(笑)。たぶん、他の人や場だったら絶対こんなスピードで実現できていないと思います。」

授業では、佐藤がずっと思っていた”自身の食を豊かにする”ことで人生も豊かにできるためのコツを知ってもらうことを目的にプログラムを作成。

そのため、料理の技術やレシピだけを学ぶのではなく、食の「生産~料理」までを通してストーリーや想いを表現できるようさまざまなコツに気づける内容にしました。

佐藤
「食に関するコツをつかむと、それを人生に活かすこともできると思うんです。なにかを変えたり、ちょっとしたことが加わるだけで、食の楽しみ方が変わるように、人生もちょっとしたコツで楽しくなると思うんです。僕は、これまでの食の経験から得た自分なりのコツを活かしてきました。受講生も食に関する考え方やコツを学べば、より楽しくなるんじゃないかなって。授業はもちろんですが、部活やゼミといった受講生が主体となって立ち上げる企画にもなんとかしてそのコツを学ぶキッカケになればと思って全力で応援しています。食に夢を持つ。その理念はまさに、僕も求めていることです。だからフードスコーレを作っていくことが今の自分の食への向き合い方だと思っています。」

インタビューを終えて

佐藤は、食を食だけで見ていないんだと思いました。いろいろな目線(視点)で見ているんだなと。

それはたぶん、自分で畑をやったり、料理人をやったりしたことで、食に関わる工程を僕よりも知っているからだと思います。

普段の会話やインタビューの中で、「食に関わるすべての工程には意味がある。」という言葉はとても印象に残っています。

そして、子どものころの経験も、僕から見れば大変だと思っていても、佐藤自身は、その理由を考え、自分で納得できているから、楽しく話せるだなと
思いました。

正直、食への想いやバイタリティの背景を知り、圧倒されていますが、佐藤と作っていくフードスコーレはきっと楽しいと思います。

さあ、次にどんなキッカケを作るんだろう。わくわくしています。

ただいま、foodskole「2021年度前期Basicカリキュラム」の受講生を募集中です。ご興味お持ちの方は、ぜひこちらをご覧ください。


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