見出し画像

フードスコーレな人たち vol.5(大森愛篇)

2020年に開校した食の学び舎「foodskole(フードスコーレ)」は、今年3月で2期を終えます。そして4月からは、これまでの授業体系を一新した「2021年度前期Basicカリキュラム」がスタートします。

foodskoleでは、食について「ともに学び合う」がモットーです。米屋、海苔屋、料理人、漁師、醤油職人、かつお節問屋、麹屋、農家、畜産家、編集人、廃棄コンサルタント、大学教授、大学生や高校生など。ここではたくさんの個性豊かな人たちが、それぞれの立場で過ごしていて、ともに学び合っています。その様子はもう本当の学校のようです。

ここで過ごす人たちのことを、もっとたくさんの人たちに知ってもらうことで、わたしたちがそうであるように、読まれた方それぞれの「食」のあり方に良い変化が起きるかもしれない。そんな期待を込めて、この不定期連載をお届けしていきたいと思います。

個性的なメンバーが多いコアメンバーの中で、特に中心的なメンバーが副校長をつとめる大森愛です。

コアメンバーの中に大森という苗字が2人いるため、みんなからは「愛ちゃん」と呼ばれています。本インタビューでも、彼女の魅力がより伝わるよう「愛ちゃん」と書かせてもらいます。

愛ちゃんの最初の印象は、客観的にも主観的にもいろんな視点でヒトやモノゴトをとらえられる人。これは今も変わっていません。コアメンバーで話し合いをすると、いろんな視点でモノゴトを考えているなと思う発言で、どんどん話し合いが深まります。

自分が気になることは納得するまでとことん議論。ときにぶつかることがあっても、最後はどんな人とも仲良くなってしまう不思議な魅力があります。
現在、さまざまな地域や人のお節介をするプランニングディレクターとして活動している彼女は、どのようにfoodskoleのコアメンバーになり、どんなことを考え、活動しているのか。インタビューから愛ちゃんの想いを紐解きます。

「foodskoleの運営に関わることは一切妥協したくない。だけど、その反面ちょっと抜けてるくらいがちょうどいいとも思っています。まずはみんなで納得するまで考えて、それから実行する。それがちょっとちがうなと思ったら、そのときまたみんなで考えてアクションすればいい。正解なんてないのだから。」

大森 愛のプロフィール
1987年 岐阜県美濃太田で生まれる。三重大学教育学部音楽科卒業後、広告代理店の企画営業を経て、メーカー転職後は新規事業部にて商品開発からコンセプト立案、ブランディング、宣伝PRなど、開発から販売までを一貫して従事。その後、伝統工芸や地場産業のPRに特化した企業にて日本全国の職人や工房を訪ね歩き、それぞれの地域や工芸の歴史や文化、想いに耳を傾ける仕事に関わる。現在は地域ブランディングを中心に、「想いをカタチに」「朗々と暮らす」をモットーに地域のブランディングや日本の伝統工芸や食に関わる事業に携わっている。食のクリエイティブチームhonshoku所属。

やりたいと思った音楽の道。そこで感じた自分への疑問。

子どものころからピアノが得意で大好きだった彼女は、自身も将来ピアニストになることを夢見て、日々練習に没頭しました。しかし、ふとしたときに自分はピアニストになれないと思ったそうです。

「褒められることが嬉しくて続けていたピアノだけれど、本当に自分が能動的にやりたいことなのかなと考えてしまいました。また、クラシックにはある程度型があり、それが決められた演奏法を強いられていると感じてしまい続けられるか自信をなくした時期がありました。それでも、音楽と触れ合っている時間は大好きで、プロにはなれないと思ってからも、音楽教室には通っていました。」

音楽は続けつつ、勉強にも興味が持てないまま、大学受験を迎えます。進路に悩んでいた愛ちゃんが偶然出会ったのは「音楽療法」でした。

音楽療法は音楽のもつ特性を活用したプログラムを通してリハビリを行い、 健康の維持や心身障害などの機能回復、生活のクオリティ向上、問題行動の改善などを目的としている取り組みです。欧米ではすでに確立されていましたが、当時の日本ではまだ珍しいアプローチ方法でした。

「音楽療法と出会い、自分のためにつづけてきた音楽が、はじめて誰かのためになるかもと思いました。」

「教育」にも興味を持っていたこともあって、音楽療法のゼミがある大学に進学。入学後は音楽療法の勉強に励みながら、特定の障害がある子どもたちに、音楽によるプログラムを実践するなど、子どもたちとともに充実した日々を過ごしていました。

音楽療法は即興性を求められるため、大枠はあってもその時のセッションがすべてで正解はありません。もともと、決められた枠組みやルールに対して窮屈さを感じることがあった愛ちゃんは、教育学部の通常の講義よりも音楽療法の活動のほうが、積極的に取り組むことができたと話します。

新たな発見と希望。そして、自分に素直に働くことの大切さ。

漠然と音楽に関わる仕事をするのだろうなと進路を考えはじめた頃、ある教授から『あなたはあえて2番目、3番目に好きなこと、やりたいことに力を入れる方が向いてるのでは?』という助言をもらいます。

「最初何を言ってるんだ!?と思ったのですが、1番好きなモノに力を入れると、私ががんばりすぎて壊れてしまうんじゃないかと先生は思ったんだそう。そのアドバイスを聞いて、まずは2番目に好きなことをやってみよう。そう思いました。0か100かじゃない、ほかの選択肢を与えてくださった先生には今でも感謝しています。」

そんな愛ちゃんが選んだ卒業後の進路は、広告業界でした。

「音楽もそうですけど、広告って情緒に訴えるというか。一度見たり聞いたりしたことが記憶の片隅に残っていて、ある時その記憶が誰かの背中を押すものだなぁと。そういうことが仕事にできたらなって思ったんです。広告会社の仕事はとても楽しくて、色々な仕事を任せてもらいました。」

3年後、彼女は新たな環境に進む決意を固めます。それは、一度はあきらめた音楽業界への挑戦でした。

「広告の仕事を経験する中で、音楽の持つ力に救われたことが多々ありました。生きる上で必須ではないけれど誰かの思いに寄り添ったり、心の拠り所になったり青春を彩る一部になったり。専門的には無理かもしれないけれど、大好きな音楽の魅力を広める仕事に就きたいと改めて思いました。」

晴れて音楽事務所に入社することになりましたが、紆余曲折あり音楽を担当する部門ではなく、新規部門で働きはじめます。

愛ちゃん
「決して第一志望の部署ではなかったけれど、大好きな人たちと大好きな音楽に囲まれて仕事ができて幸せな時間でした。今振り返ると、ターニングポイント毎に色んな人が助言してくれました。その助言に抗わず置かれた場所で咲きなさい精神で、いただいたポジションの中で一生懸命全うした期間でした。配属された部署はまさかの社長直属の新規事業。辛いこともあったと思いますが、あまり覚えていません笑。それ以上にやりがいがあり充実していました。」

自分の気持ちに、直感に素直に。

いくつかの環境の変化もあり音楽事務所を退社し、様々な企業や地域のプロジェクトに参画する働き方へシフトしていく中、foodskole校長平井と出会い、親交を深めていきます。

「『ごはんフェス』がきっかけではじめて出会ったと記憶しています。そこから少しづつ仕事の相談を受けるようになりました。」

平井と愛ちゃん。校長と副校長。この2人の出会いから少しずつfoodskoleがカタチになっていきます。

当時、平井が開催していた「フードロスの学校」。foodskoleの前身とも言える学びの場に愛ちゃんが参加したときのこと、ふと感じた疑問を口にします。

『フードロスの学校って今のままでいいんですか?』

それは、とにかく色々な視点でモノゴトを捉え、本質を考え抜く愛ちゃんだから感じた疑問かもしれません。

「平井さんを見ていて、フードロスという事象について教えたいわけじゃなさそうだな。もう少しちがうレイヤーで食を捉えているように感じました。」

そして、疑問に思ったことを平井にストレートに伝えました。実は平井も同様のことを考えおり、フードロスだけにとらわれない多様な視点で学べる場を創りたいと悩んでいたタイミングでした。

「どういったことを学ぶのが良いか。どういう環境にしていきたいか、講師はどうしようとか。いつの間にかふたりで一緒に考える時間が増えていきました。」

講師も受講生も、運営も。立場や肩書きは関係ない。

今もさまざまな地域やプロジェクトに関わり、多忙な毎日をおくる愛ちゃん。foodskoleに関わる理由を、みんなにとって、そして自分にとって心地よい学び合いの場をつくりたいからだと答えます。

「foodskoleはすごくポジティブなオーラであふれています。みんなのやりたいがあふれているんです。そして、それをみんなが許容し認め合う。いい意味で好き勝手やれる場なんですよね。運営も、講師も、受講生も。これはダメっていうのはない。誰かのためとか、自分が楽しくとかって結局はエゴでしかないと思うんですけど、それでも、みんなが笑顔なら楽しいし、私はその笑顔がみたいと思っています。そういう意味では働き方は色々変わってきたし、描いていた未来ではないかもしれないけど、マインドやスタンスは昔から何ひとつ変わっていないんでしょうね。」

その言葉には、愛ちゃんが考える『自分だけの幸せなんてない。みんなと一緒に認め合って笑い合える関係性をつくりたい』という想いが強く込められていると感じました。

インタビューを終えて。

今回のインタビューのあと、正直、愛ちゃんのことをどうやってまとめていいか、ずーっと考えていました。
とにかく掴みどころがない。
話しを聞いている中で、大変だったんだろうなとか、辛かったんだろうなと聞いてみても「でも、楽しかったですよ!」と笑い、詳しく聞こうとすると「うーん、どうだったかな?」と言葉を濁す。

でも最後に聞いた話で、あーやっぱり「名は体を表すんだ」と。
それは、ちいさいころ両親に「人に愛されることを求めるのではなく、まずは自ら愛しなさい」と言われたというエピソードでした。

過去に囚われず、まわりの人を無条件に愛し、相手のためになにができるのかを常に考え実行してきたからこそ、今の彼女がいるのだなと納得しました。


ただいま、foodskole「2021年度前期Basicカリキュラム」の受講生を募集中です。ご興味お持ちの方は、ぜひこちらをご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?