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哀れなるものたちにおける女性的感覚不足とその理由


見てきたので、手短な感想。

冒頭の刺繍からエンドロールまで全ての意匠、衣装、音楽、、緻密で繊細で圧倒されながら緊張してあっという間の上映時間でした。

コクトーの恐るべき子供たち、ベニスに死す、グランドブダペストホテル、華麗なるギャッツビー、ロミジュリ、色々な映画のご馳走をいちどきに食べたような満足感。
舞台もロンドン、リスボン、船、アレクサンドリア、パリと動くし、衣装はどんどん変わるし、その上エログロだし、とにかく目がお腹いっぱいになる映像作品でした。

そのあたりは多くの人が語る通りなのですが、バービーの現代神話きた感に比べると女性の自我の確立物語としては、少し物足りなかったです。

上記のラジオで取り上げられた感想にもあるのですが、本作では意外にも生理とか堕胎とか売春とかにおける女性の身体的な感覚表現があまりみえません。

嘔吐とか、売春後に紅茶を飲むところとか、食べ物を吐き出したり、キッパーの酸味の話をしたりとか、ベラの五感に繋がる話はあるのですが、色々エログロはあるのに、そこは主観的表現が抑えられているのです。

性的なシーンもアダルトビデオ的なやや平板な表現で、女性の主観としての性の目覚めはあまり感じませんでした。

また、ベラが獲得する知性もゲーテやら社会主義やら医学やら、すごくマッチョなもので、
社会的弱者に心寄せるのもよいけど、自分の出生の秘密を知ったときのアイデンティティや母性への想いについては葛藤がないのが、そんなもんかいなという感じがしたものです。

結婚と性的快楽や冒険は別と悪びれず、男子高校生のように性的話題をもちだすベラの発言は、幼さというより、インストールされたのは男性脳だったのではないかと思うほどです。
社会的バイアスがなければ、女性も男性的な振る舞いを必ずするわけでもないと思うし、少し違和感がありました。

バービーの場合は真逆で、違和感の端緒が自分のセルライトの発見であったり、視覚的にも彼女が生老病死のある世界の美しさを発見するシーンで彼女の主観を表現しています。
お話は娯楽的ですが、感情移入しやすいのはそのあたりでした。

共感ポイントの差は、私が女性であるだけでなく、内向的かつ感覚的なアンテナが強めなせいなのだろうなと思うので、物語の優劣の話をしているわけではないことはご理解ください。

以上のような感想をもやもや持ちながら、帰宅後、以下の原作についての記事を拝読いたしまして、本作の内容は医師の助手である主人公の夫が書いた手記という形のフィクションで提示されていること、それへの主人公の反論と原作者と同名の編集者という設定での考察パートがあることを知りました。

私の感想と合致するように思われて感動いたしました。原作も目を通さねばですね。読みましたらまた補記します。ありがとうございました。





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