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【理事長コラム・人生最後の日に食べたいもの】

フードアナリスト協会の創立者ですので、よく食べ物について聞かれます。なかでも「最後の晩餐で食べたいものはなんですか」とよく聞かれます。夏と言えば「茄子」。私が一番好きな食べ物は「茄子の田楽」です。

私は高校まで鳥取で育ちました。父は大学の先生でしたが、一度離婚していて、養育費や研究のため学会などに参加するためとても貧乏な家でした。
国家公務員である父1人の給料で、「親子5人+前の家族の養育費+鳥取の片田舎から京都や東京への旅費」などがかさんで、子どもの頃に肉や魚をお腹いっぱい食べた記録がほとんどありません。

小さい肉や魚が1人ほんの少し。卵焼き1個を子ども3人で分け合うような食卓でした。
ご飯は食べ放題でしたが、2杯目はおかずがないのでいつもみそ汁をぶっ掛けて食べていました(笑)。1970年代当時、そんな家庭は沢山ありました。

当時の夢は、「大人になったら焼肉だけでお腹が膨れるくらい食べたい」「ハンバーグを2個食べてみたい」「お寿司屋さんで好きなものを好きなだけ食べてみたい」でした(笑)。

◆茄子の花言葉に込められた意味

そんなお腹を空かせた毎日において、夏に入ったばかりのカンカン照りの日の晩御飯に出てきたのが「茄子の田楽」でした。なぜか官舎の庭で茄子だけは作っていて、大量に採れました。そして収穫した日に母は、たっぷりの油を引いて茄子の田楽を大量に作ってくれました。その茄子の焼ける匂いと甘辛い田楽味噌の匂いは、今思い出しても食欲をそそります。

もちろんその日だけは「1人1個」という制限はなく、5個でも10個でも茄子の田楽を食べても叱られませんでした。

フードアナリスト学では、4級資格課程で「果物や野菜の花言葉」について学びます。
果物や野菜の花言葉を通じて、メッセージを伝えられるようになるためです。
ちなみに茄子の花言葉は、「真実、希望、つつましい幸福」。

茄子は野菜の中でも生育させやすい野菜で、素人が作るには最適でした。花から実に成る確率が高く、昔の人は「全ての花が実になる」と考えたほどです。


すべての花が実になる。つまり、確実に仕事をこなす、そういう人は真実の人だ、ということで茄子の花言葉が「真実」になったのです。

それでは「希望」というのはどうでしょう。食糧が不足しているアフリカの国々でも茄子は盛んにつくられています。食糧が足りない地域でも確実に花が実になる。そして1本の苗から30個もの実ができる茄子は「希望」の光です。

また、世界中で比較的簡単に作れる野菜ですから、茄子を食べる食卓には「つつましい幸福」があります。

最近、居酒屋や日本料理屋さんで「茄子の田楽」が食べられる店が減ってきました。
私は今でも茄子の田楽が大好きで、もしもメニューにあれば真っ先に注文します。
茄子の少し焦げた匂いを嗅ぐと、死を予感させる、官能的な危ない香りを感じます。

頬張ると、「こんなに幸せで大丈夫だろうか。こんな幸せが続くわけがない絶対に大きな不幸がやってくるに決まっている」と不安に駆られるくらい美味しい(笑)。そして、子どもの頃を思い出してついつい涙が出てしまうのです。

【日本フードアナリスト協会 理事長・横井 裕之】

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