熱出した焚石

朝、焚石から”熱出た”と、チャットがきた。
こうして連絡くれるだけでも以前の焚石より心を許してくれているのが伝わる。
梅宮は焚石の体の心配より、そっちの嬉しさが勝ってしまい、ひとり苦笑する。
焚石の家に行く前にドラッグストアで風邪薬を買った。
なんとなく焚石は薬を飲まないような気がした。
次いでにスポドリや簡単に食べられそうなものも買っていく。

合鍵で焚石の家の鍵を開けた。
かなりの豪邸に焚石は一人で暮らしている。
家の事情について詳しいことは知らない。
本人が何も言わないから、梅宮も聞いていない。

焚石はリビングのソファで横になっていた。
梅宮が来たのに気づいて、焚石は上半身だけ起こして座った。
普段より大きい息づかいで、顔が赤くほてっている焚石は、見るからに熱の症状で、ぼーっとした目をしていた。
「熱測った?」
焚石が首を振るので、梅宮は念の為自宅から持ってきた体温計を袋から取り出す。
「ん」
焚石に渡すと、素直に自分の脇の下に体温計を差し込む。
梅宮が焚石の額に手を当ててみると、やっぱり熱い。
「熱いね」
焚石は頭から少し汗を垂らしてぼーっと梅宮をみつめていた。
そのときピピっと体温計が鳴り、見ると38.1と示されていた。
「薬は?」
「飲んでない」
薬を買ってきてよかったと思いながら、梅宮は焚石に飲み薬とペットボトルの水を渡そうとしたが、焚石は水しか受け取らない。
「薬飲まないと」
「…」
焚石はわかりやすく嫌そうにして、そっぽを向く。
「薬飲んだらすぐ治るよ」
梅宮が頭を撫でながら優しく言ってみるけど、焚石はだんまりして視線を逸らしたままだ。
梅宮は焚石が頑なな奴だと知っている。
一度嫌がれば、変わらない。
だから一か八かで聞いてみた。
「ねえ焚石、オレが飲ませてもいい?」
焚石は理解していない顔で梅宮を見るので
「オレの口で」と続け
焚石の目の前で一粒の薬を口に含んでみせた。
ちょっと強引な気もしたけど、梅宮は返事も待たずに焚石をソファに押し倒す。
口元に顔を近づけると、焚石は熱い吐息を漏らして小さく口を開けたので梅宮はぽろっと薬を落とし入れた。
そのまま口付けして舌を絡めながら自身の唾液を流し込むと、焚石の喉が動き、薬を飲み込んだのがわかった。

梅宮は満足して体を離すと、焚石はもの欲しげな目で見上げてくるので、梅宮はもう一度焚石に口付けしようとした。
口が触れる寸前に、焚石は梅宮の服の裾を引っ張り
「風邪うつる」と言って視線を逸らす。
そんな焚石が梅宮にはどこかしょんぼりしているように見えて、不覚にもキュンとしてしまう。
本当はキスしてほしい。そう言っているみたいで
こういうわかりにく焚石の言動を一つ一つ汲み取るのが、梅宮は好きだった。
梅宮は焚石の顔を両手で包み込み、視線を合わせて言った。
「さっきので、もううつってる」
梅宮の言葉を受けて焚石はゆっくりと表情を柔らかくし、吹っ切れたように小さく笑った。
そのまま梅宮の首に腕を回すので、梅宮も自然と焚石に顔を近づけると、どちらからともなくキスをした。

「少し寝る?」
はあーと大きくあくびをする焚石に声をかけると、何も言わずに目をつむった。
焚石はかなり汗をかいていて、暑苦しそうに息をしていた。
ソファには焚石が体を拭くのに使っていたと思われるタオルが掛けてあり、梅宮はそれを持って立ち上がり、焚石に一声かけようとした。
同じタイミングで、梅宮の動く気配に気づいたのか、焚石がとっさに梅宮のズボンを掴む。
焚石は自分がしたことに驚いているようで、はっとしてズボンから手を離した。
そんな焚石を梅宮は愛おしく感じて、安心させるように頭を優しくなでる。
「大丈夫。タオル濡らしてくるだけだから。すぐ戻るよ」
焚石は決まりが悪そうに両手で目を隠した。

濡れたタオルを持って戻ると、焚石は目をつむっていた。
寝ているようで寝てないのかな?
「焚石?」
呼びかけても返事はない。
とりあえず、焚石の顔の汗を拭こうとタオルをそっと押し当てた。
何度かぽんぽんと拭いていたら、不意に焚石の口がゆるんで目が開いた。
焚石は梅宮を見つめて「くすぐったい」と言う。
「起きてたの?」
聞くと、焚石は少しイタズラっぽく笑うだけでまた目を閉じた。
じっと焚石を見つめていると
「なんだ?」
目を閉じたままの焚石が言う。
「わかるんだ」
感心して言うと
「視線がうるさい」と返ってきた。
別に嫌なわけではないことは、焚石の雰囲気でわかり、梅宮は焚石の右手に自分の手を添えて言う。
「早く元気になってね」
焚石は照れくさそうに反対側の手で目を隠し
「お前が風邪ひくなよ」と言った。






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