ほうじ茶パフェが好き

土曜日
お昼を食べに桜と楡井とポトスに来ていた。
二人はオムライスを、蘇枋はいつものブラックコーヒーをもらった。
コクがあり、程よく酸味が残るポトスのコーヒーが蘇枋は好きだった。
温かいコーヒーを一口飲むと、その香りと味わいに全身がじんわりと癒されていく。
美味しいな…

チリンとドアベルが鳴り振り向けば、ドアの前に多聞衆二年の級長と二人の副級長が立っていた。
向こうも自分たちがいることに驚いているようで、しばらく互いに黙って見つめていた。

「なんだぁーお前らも来てたのか。相変わらず仲良しだなぁ」
ようやく榎本が口を開く。
「そっちだって仲良しじゃん」
桜の最もな答えに、蘇枋と楡井は挨拶も込めて軽く頷く。
「オレらはパフェを食べに来たんだぁ」
「パフェ?」
「ここのパフェ、種類が多くて美味いんだぁ」
「そうなのか」
桜はパフェの存在を知らなかったようなので、会話を聞いていたことはがメニューを見せてくれた。
「わーこんなに何種類もあったんですね。オレも知りませんでした」
楡井が桜の隣からメニューを覗き込んで言う。
「パフェ…美味そうだな」
「桜さんも頼みます?」
「ん…今度にする」

榎本たちは、四人がけの席に座る蘇枋たちの向かいの席に座った。
蘇枋の位置からは、隣同士の榎本と梶が背を向けていて、楠見が正面に見える。
これはちょっとまずい気がする…
だって、蘇枋の席から楠見のことが丸見えなんだから。
蘇枋の前に桜と楡井がいて、柱を挟んで榎本と梶が座っているけれど、その隙間をぬって楠見の姿ははっきり見える角度だった。

まさかポトスで、それも休日に楠見に会うなんて思いもしなかった。
今でこそ楠見を意識している蘇枋は、気持ちがソワソワと落ち着かなくなるが、どうすることもできない。

榎本たちの席にパフェがとどいた。
榎本がフルーツパフェ、梶が桃パフェ、楠見はほうじ茶パフェ。
先輩、やっぱりほうじ茶好きなんだ
この前もほうじ茶のペットボトル買ってたし
蘇枋もお茶の中でほうじ茶が一番好きだからなんだか嬉しくなる。

隣の席だから耳をすませば会話まで聞こえてくる。
「楠見、一口ちょうだい」
榎本が言うと、楠見が自分のパフェを前へ差し出す。
「オレも」
梶も横から手を伸ばしてほうじ茶パフェをもらう。
楠見は榎本のパフェと交換し、今はフルーツパフェを食べている。
「楠見、はい、桃もやる」
梶に一口サイズの桃がのったスプーンを差し出され、楠見はパクりと口を開けて食べた。
うわぁ…
あーんされた楠見さんを見てしまった
ひかえめに言ってかわいい…
そのあとも三人はお互いのパフェを交換しながらああだこうだ言って味わっていた。

そのとき、ズボンのポケットからスマホのバイブがしてテーブルの下でチラリと見れば
「そんなに見られると食べにくいよ笑」と
楠見からメッセージが来ていた。

うそ!?そんなに見てた?
どうしよう、無自覚にガン見してたみたい
恥ずかしくて顔が赤くなるのが自分でもわかる。
恥をしのんでもう一度楠見を見たら、平然とパフェを食べている。
先輩、色々隠すの上手すぎじゃない?
オレの視線にも気づかないふりをするし、この前教室から先輩を見ていた時だって知らないふりして…

蘇枋はまた自分だけが踊らされていたような感じが悔しくて、でももう手遅れで。
開き直って素直に思ったことぶつけてみた。
「先輩ってほうじ茶好きなんですか?」
すぐに既読がつくが返事はない。
楠見を見ればスマホを机に置いて残りのパフェを食べ始めている。
なんだ、答えてくれないのか
蘇枋はまた思い通りにならなくて少し腹が立った。
楠見の前ではやっぱりうまくいかない。

「ねえ、二人とも食べ終わったみたいだしそろそろ出ない?」
気分を晴らしたくて桜と楡井に声をかける。
「そうですね、行きましょうか」
「おお」

ポトスを出るとき、もう一度楠見を振り返った。
楠見も蘇枋を見ていたようで、蘇枋と視線が合うのを確認して口を動かした。
「好きだよ」
楠見は確かにそう口パクした。

いや、わかってる
わかってるよ、先輩
ほうじ茶パフェが好きなんだよね
勘違いしないから大丈夫。
でも、そんな言い方したらダメじゃん
もうなんかずるいよ先輩
最後の最後でいつもオチをつけてくる
くやしい…

「おい」
「…」
「蘇枋さん?」
「え、あ、なに?」
「行くぞ」
「あ、うん」
桜と楡井に呼ばれて我にかえる。
蘇枋は今度こそポトスを後にした。

「なあ、さっきのなんだ、『好きだよ』って」
蘇枋とのやりとりを見ていたらしい梶が楠見に聞く。
「そんなこと言ってないよ」
スマホで打つのもめんどくさいので口パクする。
「…あっそ」
梶はそれ以上詮索してこなかった。

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