さぼり常習犯
授業開始のチャイムが鳴り、桜と蘇枋は後ろの扉から教室を出た。
「こらぁ!桜、蘇枋!サボってんじゃねぇ」
入れ違いで教室に先生がやって来る。
「やべっ、見つかった。蘇枋、走るぞ」
「うん」
オレと蘇枋は屋上に向かって駆け出す。
「待ちやがれえぇ」
廊下に先生の怒鳴り声が響いた。
「あ、杉下君もいるじゃん」
「なんでいるんだよ」
杉下は畑で水やりをしていた。
「やあ」
蘇枋と二人で近づくと、いつもの如く杉下に睨まれる。
「帰れ」
「あ?お前が出てけよ」
「まあまあ、俺たちはあっちで大人しくしてるから。杉下君は気にしないでね」
蘇枋はオレの手をとってベンチに歩き出す。
「チッ、せっかく二人きりだと思ったのに」
オレは蘇枋の膝に寝転がった。
「別に、杉下君居てもいなくても変わらないじゃん。どうせ桜君は寝るんでしょ?」
「あぁ、寝る」
「はいはい」
蘇枋の腹の方に体を向けて目を閉じる。
蘇枋の膝枕が好きだった。
こうして目を閉じるだけで落ち着く。
砂をこする足音が近づいて来る。
「杉下君、終わったのかい?」
「あぁ」
ベンチが軋む音がする。
隣に杉下が座ったのだろう。
なんでコイツが来るんだよ!
「あの…どうしたのかなぁ?」
蘇枋が戸惑いがちに杉下に聞く。
しばらく沈黙が流れてから杉下の声がした。
「コイツ、お前といるとこんななのか?」
「あ、桜君のこと?甘えてるっていうことかなぁ?」
蘇枋の手がオレの髪に触れた。
「なんで?」
杉下がつぶやく。
「なんで?」
蘇枋が反芻する。
「俺もよくわからないけど、桜君は膝枕が好きみたいだよ」
蘇枋のだけだぞ。
誰にでもするわけじゃねえし。
「そうなのか…」
杉下の小さな声がする。
コイツ何考えてんだ?
読めねえ…
「お、俺もその頭なでていいのか?」
「え?」
(は?)
杉下の問いに、俺の頭を撫でる蘇枋の手が止まる。
「えっと…桜君の頭を撫でたいってことかな?」
「…ダ、ダメか?」
「いや、ダメじゃないと思うけど‥‥うん、いいと思うよ」
蘇枋が俺の頭から手を離す。
おい待て待て待て
蘇枋、てめえ何勝手に許可してんだよ。
どこか緊張が漂う空気に、俺の体は強張る。
大きな骨ばった手が俺の頭に触れた。
なんだこれ
蘇枋の手と全然違う‥‥‥
デカい手に頭を掴まれているような感覚になる。
ん?
なんか段々力が強くなってねえか?
「だあぁぁあ!痛っえな!何すんだよ」
俺は頭の痛さに耐えきれずガバッと体を起こした。
「え?桜君どうしたの?」
振り向くと蘇枋が驚いた顔をしてオレを見ている。
「‥‥‥す、蘇枋?」
「うん?」
隣には杉下がいなかった。
畑にもいない。
「杉下は?」
「ああ、杉下君ならさっき出て行ったところだよ。少しだけ隣でお話ししてたんだけど、梅宮さんに畑の報告しに行くって言ってね」
なんだ‥‥‥夢か 焦ったぁ
リアルすぎて怖いな。
あいつが俺の頭に触るわけないけど、掴み方があいつっぽかったから‥‥‥
「どうしたの?なんかニヤついてるよね」
蘇枋が俺の顔を覗き込んでくる。
「してねえわ」
俺は蘇枋の手を取って自分の頭に置く。
やっぱり蘇枋の手は落ち着くな
「なになに〜俺の手好き?」
顔を上げると蘇枋が悪戯な目をして笑っている。
俺はまた蘇枋の膝に寝転がった。
「杉下と何話してたんだ?」
「あぁ‥‥気になる?」
「教えろよ」
俺の知らないところで二人が話していたのがなぜか腹立たしかった。
蘇枋はニコニコしながら口を開く。
「話っていうか‥‥‥杉下君が桜君の頭撫でたいって言うから触ってたよ」
「はぁ?夢じゃねえのかよ」
桜の大声を聞いた杉下はニヤッと笑って階段を降りた。
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