悪戯な二人

キーンコンカーンコーン

「蘇枋、テメーっ//何してくれてんだ」
「え〜何のことかな桜君?」

5限の授業が終わり、桜君が怒涛の勢いでオレを振り返った。

オレの席は窓際の一番後ろ。右隣が桐生君で、オレの前は桜君だ。そう、今の席順は桜君、オレ、桐生君の最高なトライアングルができている。くじ引きで決まった席がこんなに最高になるなんて思っていなかった。

桜君の後ろの席になりわかったこと。それは桜君が意外とちゃんと授業を受けているということだ。桜君は基本的にどの授業でも板書をしているようだった。どのようにノートををとっているのかはわからないが、白黒のツートンの頭がぴょこぴょこ上げ下げしているのを見ると、桜君が勉強熱心なのは見てとれる。

実際、桜は努力していると思う。

つい先日、朝のホームルームで行われた英単語の小テスト。桜君は直前まで英単語のテキストを見ていた。先生の合図で、机にかけてあるカバンにしまったそれは、カラフルな付箋がいっぱい付いていた。

終了後、前後で採点することになり桜君の答案用紙をもらった。お世辞にも綺麗とは言えない、ちょっと歪な字体で解答欄はびっしりうまっていた。結果、桜君は満点だった。オレは名前の横に「perfect!」と書いて桜君に返却した。満点なのを確認した桜君はほっとしたように目元を緩めた。きっと頑張って覚えてきんだろうな。

もちろんオレもperfect!だけどね。

キーンコーンカーコン〜

5限、クーラーが程よく効いた教室で現代文の授業が始まった。お昼を食べたあとのこの時間は眠気が襲う。前に座る桜君の様子を見ていると、珍しく下を向いていた。ノートと教科書は開いているようだが、白黒の頭は一向に上がらない。

もしかして寝てる??と思い、隣の桐生君に目配せして桜君の方をクイっと見た。桐生君はオレと違って斜めから桜君の様子を見ることができた。オレに促されて桐生君は桜君を見ると、ニヤッとして「寝てるね〜」と、口だけ動かす。

やっぱりね。オレもニヤッと笑って桐生君と顔を見合わせる。よく見てると、桜君の頭は不規則にカクん、コクんと上下に揺れていた。
完全に寝てるな〜
珍しい桜君を見られてオレは面白くなっていた。そしてちょっと悪戯したい衝動に駆られた。

オレはノートの下から下敷きを取り出す。それを桜君の頭の後ろにそっと持っていき、ヒュッと小さく扇ぐ。すると、黒白の毛先がヒューと靡いた。と同時に、桜君はハッと頭を上げて首の後ろあたりに手を持っていきソワソワと動かす。

桜君は、涼しい風を感じて目が覚めたようだ。オレはもう一度、さっきより強い風を桜君の首のあたりに送った。

すると桜君は、ばっと勢いよく首を触る。その拍子に桜君の手が机に当たり、ガタッと大きな音を立てた。

「桜、どうかしたか?」
先生の声とともに、クラス中が桜君に視線を向ける。

「…//いや、何でもねぇ」
桜君は後ろからでもわかるくらい首筋を赤く染めて、小さく返事した。

授業が再開さると、桜君はゆっくりこちらを振り向いた。オレは「どうしたの?」と不思議そうな顔を繕って、桜君を見返す。桜君は二色の瞳を見開いて驚いたようにオレを見ている。オレがきょとんとした顔をすると、今度は桜君の視線が桐生君の方へ移る。桐生君はオレと同じくきょとん顔をして、後ろの天井に取り付けられたエアコンをクイっと見上げた。

桜君は桐生君の目線につられて天井のエアコンを見る。そうしてエアコンとオレたちを交互に見る。腑に落ちないような、でもそう言うことにしようという曖昧な表情で前に向き直った。

その様子が可笑しくてオレは桐生君とまた悪い顔をする。

それから桜君はすっかり眠気が覚めたのか、いつも通りノートを取り始めた。授業が終わるまで、残り30分。オレも前の人を見習って授業に集中することにした。

残り時間5分になったところで、桐生君がこっちに視線を投げてきた。そうして、オレの下敷きを見てから桜君をクイっと見る。どうやら桐生君はもう一度あれをやれと言っているみたいだ。

まだやるのかと桐生君の悪戯好きに半ば呆れながらも、桜君の反応が面白くて楽しいからオレも悪ノリして「オーケー」と了解した。

オレは下敷きをビュンと扇いで、桜君の後頭部に勢いよく風を送った。さっきよりも強く振ったので、桜君の髪の毛はふわっと大きく揺れた。

ノートを取っていた桜君は、突如襲ってきた風にびっくりしたようでペンを持ったまま勢いよく頭を抑えた。そしてみるみるうちに、白い首が赤く染まっていった。

キーンコンカーンコーン

チャイムが鳴り起立令の挨拶が終わった途端、桜君がものすごい剣幕でオレを振り返った。

「蘇枋、テメーっ//何してくれてんだ」
「え〜何のことかな桜君?」
「…ッ。とぼけてんじゃねえ。お前がオレに風を送ってきてたんだろ」
「桜ちゃん、きっとそれはエアコンだよ」
桐生君がいたずらな顔で言う。

「ちがう!オレの真後ろから風が吹いてた。そんなことできるの蘇枋しかいない」
桜君は真っ赤な顔できっとオレを睨む。

「でもさ桜君、きみ、居眠りしてたよね」
「…あ?してねぇし」 
「嘘だね。こくんこくんしてたじゃん」
「オレの席からも丸見えだったよ〜」
「っ//…」
「ちなみに、最後のは桐生君の頼みでやったんだよ。オレは授業に参加してたのにさ」
「だって〜桜ちゃんの反応が可愛いんだもん」
「桐生、てっめえー//…もういい
おまえらとは口利かないからな」

そう言って桜君は席について前を向いてしまった。
機嫌を損ねた桜君を見て、オレと桐生君はやれやれと顔を見合わせる。

「桜君、俺たちがジュース奢ってあげるよ」
「何がいい?」
「…」
「いらないのかな〜」
「…っ//いる!苺ミルクと午後の紅茶」
「ふふ、1分で口きいてくれたね桜君」
「う、うるせぇ!さっさと買いに行くぞ」
「はいはい」

恥ずかしさで慌ただしく教室を飛び出した桜君。オレと桐生君は「ちょろいな〜」と笑って桜君を追いかけた。

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