打ち上げBBQ

国崩大火後、打ち上げでBBQを行うことになった。風鈴高校の生徒はもちろん、棪堂率いる烽や獅子頭連と六方一座のメンバーらが風鈴高校の校庭に集まった。

四つ張られた大きなタープに各衆で集まり、飲んだり食べたり焼いたりと各々楽しくBBQをしている。

多聞衆では、柊と梅宮が食材を焼いてくれていた。網で焼かれた肉の美味しそうな匂いが漂ってくる。

「おーい!一年たち、肉やけたぞ〜みんな集まれ」
梅宮の呼びかけで、一年たちが顔を輝かせてコンロの方に駆け寄る。

二年の榎本たちがお皿やらコップやらを配り、受け取ったものから順番に肉の列に並ぶ。

そんな様子を桜は一人、タープの隅に置いた椅子に座って眺めていた。桜にとって、この穏やかな光景がいまだに信じられないでいた。

「どうしたの〜?」
のんびりした声が降ってきて見上げると、十亀が笑って立っていた。手に持った二本のラムネを一つ桜に渡して、隣に腰をおろす。

「なんか不思議だなと思って。この間まで敵対同士で喧嘩してた奴が、いまは俺らと仲良く話してる…」

梅宮たちと楽しげに話している棪堂と焚石を遠目に見ながら桜が言う。

「ふふ、そうだね〜この間まで殴り合いしてた相手とは思えないよね。和解できて何よりだけど」

「…十亀、あのときは助けに来てくれてありがとな。ちゃんと礼を言えてなかったから」

十亀が横を見ると、桜が真っ直ぐな澄んだ瞳で自分を見ていた。

「オレ、カッコつけられた?」
「…あぁ、かなり」
「よかった〜かっこいい人に認められると嬉しいもんだね」
「…//」

桜は照れ隠しのようにラムネを開けようとするが、全然うまくいかない。

「貸して。ここを押すんだよ」
十亀がわかりやすいように桜の目の前で蓋を開ける。シュポという音とともにちょっと泡が溢れる。

「あ、りがと//」

キンキンに冷やされたラムネが渇いた喉を潤す。

「なんか平和すぎて気が抜ける」
桜がポツリと呟く。

「いいんじゃない、たまには。風鈴に来てからずっと騒がしかったんでしょ」
「…まあ、そうだな。色々ありすぎた」
「その分、成長したみたいだけど」
「ッ。///」

なんとも言えない声をあげた桜はまた一口ラムネを飲んだ。


「桜さーん!お肉焼けましたよ!
こっち来てください、十亀さんも」
向こうから楡井たちが手を振って桜たちを呼んでいる。

広いテーブルには美味しそうなものがたくさん並んでいた。焼肉、焼きそば、とうもろこし…その他もろもろ、梅宮の畑でとれた野菜たち。野菜嫌いの桜でもなんか美味しそうとすら感じる。

「は、うまそ」
「ははーん桜、目が輝いてるぞ。
たくさん焼いたからいっぱい食べろ〜」
皿を渡してくれた梅宮に感謝して桜は肉を取ろうと手を伸ばした。

「まてまて、さくらぁ
オレが食べさせてやるよ」
いつの間にか桜の隣に立っていた棪堂が、脂ののった肉を桜の口元にもっていく。

「あ〜んっ」
「は?う…ゎ」

目の前に差し出された美味しそうな肉に抗えず、桜は恥を忘れて口を開けていた。

「うまっ!なんだこれ!」
桜の口の中は幸せだった。

「はは、もっと食べるか?」 
「んっ!」

その後も棪堂に餌付けされる桜を見て、周りの奴らは思った。桜はちょろかわいいと。

そんな桜の様子を気に食わない顔で見ていたのは楡井と蘇枋だった。いくら棪堂たちと和解したからといって、桜が彼に懐くのは気に入らない。二人はそっと棪堂の背後に回る。

もぐもぐと口を動かす無防備な桜。タイミングを見計らっていた棪堂は、ここぞと桜の腰に腕を回し自身の方に引き寄せようとしていた。

それを待っていたと言わんばかりに楡井と蘇枋が桜の手を引っ張る。

「オレたちの級長に触らないでくれます?」

ポカンと呆気に取られている桜を挟んで両側に立つ楡井と蘇枋は、棪堂を鋭く睨む。

「桜さん、あっち行きましょう」
「えっ?オレまだいろいろ食べたい」
「桜君、向こうで桐生君たちがマシュマロ焼きを作ってるよ」
「マシュマロ焼き!?なんだそれ」
「行けばわかるよ」

そう言って、桜は二人に引っ張られて行ってしまった。

「ちぇー。いいところだったのによ。全くあの二人はほんとに邪魔するのが得意だな」

「ははは。おまえほんと桜のこと好きだな
でもまあ、アイツはみんなの人気者だから独り占めするのは難しいだろうな」
一部始終見ていた梅宮が笑いながら棪堂に言う。

「焚石もそう思わないか?」
「…興味ない」
梅宮の隣で枝豆をかじりながら焚石が答える。その様子があまりにも可笑しくて棪堂は笑ってしまう。

「くくく、たきいしぃ〜、おまえ枝豆好きなの?」
「…ん、ずっと食べてられる」
「ははは、なんだそれ。オレにもちょうだい」
「…手、出せ」

焚石は枝豆を一つとり、さやからぴゅっと豆を押し出す。それをキャッチした棪堂の手。大きな手にたった一粒の小さな豆がのっている。周りで見ていた柊たちは思った。

まさかの一粒
焚石って天然なのか?!

「やったぁ〜焚石に枝豆もらっちゃった」
「アホだろ」 
嬉しそうに喜ぶ棪堂に、柊がボソリと呟いた。


「これがマしょマロ焼き!?」
「桜ちゃん、マシュマロね」 
桐生がすかさず訂正する。

桜は初めてのマシュマロ焼きに興奮していた。竹串に刺さった白いもの。それをグリルの上にかざしてクルクルと回す。すると、白かったものがじわじわときつね色に変わる。

「なんだこれ!おもしろ!オレもやる!」

近くで見ていた楠見が、串にマシュマロを刺してにっこりと桜に手渡す。

「お、おぅ」

串を受け取った桜は、桐生たちの真似をして白いものを火元に近づける。クルクル回してみたけどまだ変化がなくてじっとそのまま待つことにした。

「あぁー桜さん!反対側焦げてますよ」
楡井の言葉でマシュマロをひっくり返すと、真っ黒になった物体が現れた。

「はぁ?なんだこれ!真っ黒じゃねーか」
「あーぁ、桜君がよそ見してるから」
「あ?してねーよ。ちゃんとじっとしてたし」
「桜君、回しながら焼くのがコツや」

「まあ、最初は難しいかもね〜」

そう言った桐生の手元を見れば、真っ白なマシュマロにキレイなきつね色の焼け目がつきはじめていた。

「クソー、もう一回やるし」

真っ黒なマシュマロを串から外した桜は、もう一つマシュマロをもらおうと楠見の方を向いた。
コツンと何かにぶつかり見上げると、ついさっき丸焦げにしたマシュマロを見つめた梶が、桜の真後ろに突っ立っていた。

「下手くそ」
「あ?うっせぇな。今からリベンジすんだよ」

桜は梶の前を通り抜けようとしたが、差し出された串に阻まれた。先っぽには、桐生が焼いていたようなキレイな焼き目のマシュマロがついている。

「これやる」
「え、いいのか?」

無言の圧で差し出されたマシュマロを桜は受け取った。まだ湯気が出ているそれに、桜はゆっくりと舌を伸ばす。

「あつ!うま!あま!」
美味しそうに食べる桜を見て、梶はフッと満足そうにして去って行った。

その後、桜は何回かマシュマロ焼きに挑戦し、コツをつかんだことで、いい感じに焼けるようになってきた。5本目をきつね色に焼き上げたところで桜は立ち上がる。

「桜君、どっか行くの?」
「あーちょっと…」

キョロキョロとあたりを見回す桜は、探していた人を見つけて歩きだした。

そんな桜の後ろ姿を蘇枋たちはにっこり見送る。

梶はタープの隅に置かれた椅子に座っていた。さっきまで桜が十亀と座っていた椅子だ。桜の気配に気づき顔をあげてヘッドホンを外す。なんだと、目つきの悪い顔で桜を見る。

「これやる。さっきのお返し」

串に刺さったマシュマロを差し出すと、梶は顔を寄せてパクりとマシュマロを口に入れた。

一瞬の出来事に、桜はびっくりして声がでなかった。
「っ////// おま、な、なに」
串ごともらってくれると思っていた桜は、まさかこんなふうにして食べられるとは思わなかった。

「うまいな」
そう言った梶は元通りヘッドホンで耳を塞いでしまう。

その場にいるのは焦ったいので、桜は梶に背を向けて歩きだした。ラスト一本のマシュマロを持って、桜は杉下のところに向かう。 

杉下は梅宮たちが話している後ろで、床に横になって寝ていた。相変わらずどこでも寝てるなと、半ば呆れる桜は、杉下の顔のそばに静かに腰をおろした。杉下の顔にかかった長い前髪を桜はそっと払う。気配に気づいたのか、杉下はゆっくりと目を開けむくっと体を起こした。

「なんだ?」
「これやる」

差し出されちマシュマロと桜の顔を交互に見つめる杉下。その時間がもどかしくて桜がグッと串を突き出すと、杉下はパクリとマシュマロを口に入れた。

「ッ//!おまえもか」
「あ、なにが?」
「…いや、こっちの話」
「顔、赤いぞ」
「う、うるせー」

はぁー…と大きくため息をついた杉下は、桜の背中にずるっともたれかかかって、また寝転んだ。

「お、おい!寝るな」 

身動きがとれなくなった桜は文句を言いながらも、杉下に背中を貸してあげた。

そんな二人を陰から見守ってみていた多聞衆の仲間たちは、にっこりと互いに顔を見合わせたのだった。




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