どっちもどっち

4限の予鈴が鳴った。
「蘇枋、サボるぞ」
椅子に座っている蘇枋を桜が引っ張る。
「え〜オレ今から授業受けるんだけど」
「いいから、来い」
桜は無理やり蘇枋を立たせようとする。
「桜さん、ダメです!蘇枋さんは渡しませんよ。サボるなら一人で行ってください」
「あ?」
蘇枋の反対の手を引っ張る楡井を、桜が睨みつける。
「こら、そんな怖い顔しないの」
蘇枋が桜の額にデコピンを食らわす。
「イッテぇな!何すんだよ」
「にれ君ごめんね。この子、かまってちゃんだから俺が付いててあげなきゃなんだ。悪いけど、先生にうまく誤魔化しといてくれる?」
「蘇枋さん…」
楡井は悲しそうな顔で蘇枋を見上げる。
「そんな顔しないで、にれ君…」
楡井の頭をなでようとした蘇枋の手は、桜によって叩き落とされた。
「痛い!」
「早く行くぞ」
不機嫌な桜が蘇枋の手を引っ張って歩き出す。
「はいはい」

「あれってどっちが飼い主なんだろうねぇ」
桜と蘇枋を見送りながら桐生がつぶやく。
「蘇枋やろ」 
筋トレをしながら柘浦が答えた。
「かなあ〜?すおちゃんが手綱を握っているようで、実は桜ちゃんパターンもありそうじゃない?」
「それもええな」
二人はニヤッと笑みを浮かべた。
「全く‥‥‥蘇枋さんは桜さんに甘すぎっす」
桐生たちの元へやってきた楡井はしょんぼりと肩を落とす。
「最近あの二人、しょっちゅうサボってるもんねぇ」
「桜さんが蘇枋さんから離れないから‥‥‥」
「ニコイチ感あるもんねぇ」

「眠いの?」
屋上のベンチに腰を下ろすと、桜が蘇枋の膝に寝転がる。
「別に眠くねえけど‥‥‥こうしておけばお前は動けないだろ」
「えっと‥‥‥それはつまり、俺を独占したいってこと?」
「ばーか、自惚れんなよ」
そっけなく言い放った桜は目を閉じた。
そのときヒューと穏やかな風が吹き、桜のTシャツが少しめくれた。
桜は気づいていないのか目を閉じたままだ。
「桜君、そんなに無防備だと襲われちゃうよ」
桜は目を開き、蘇枋を睨む。
「やってみろよ。ほら」
桜はめくれたシャツを自分でつかんでパタパタ扇ぐ。
「はぁ‥‥‥バカなの?」
蘇枋は大きなため息をついた。
「あ?誰がバカだ、ボケ」
怒った桜が体を起こす。
その拍子に蘇枋の手が桜の腹に触れた。
「ってめえ、どこ触ってんだよ!」
「煽ったのは君だろ」
蘇枋は嬉しそうに笑って桜の頭をよしよしする。
桜は口を尖らせながらも、大人しく頭をなでられている。
「バカにしてんのか?」
「う〜ん、ちょっとしてたかも」
「なっ!?」
反射的に立ちあがろうとした桜の手を蘇枋がつかむ。
「おいで」
蘇枋は桜を自分の体の方に引き寄せた。

「落ち着いた?」
桜の機嫌が悪いことに蘇枋は気づいていた。
「アレ、なんのつもりだ?」
蘇枋の首に抱きつく桜が拗ねた声で聞く。
アレが何を指しているのか、蘇枋はすぐにピンときた。
「‥‥ごめんね、意地悪しちゃって」
蘇枋が桜の頭をなでながら優しく言う。
「にれ君の頭、なでようとしたの怒ってるんでしょ?」
桜は黙り込んだままだ。
「ごめんね」
もう一度優しく言う。
「蘇枋のばか‥‥‥‥いじわる」
桜は蘇枋の肩に顎をのせて愚痴る。
「ごめんって‥‥‥許してくれる?」
「‥‥‥やだ」

ちょうどチャイムが鳴った。
少しして楡井たちが屋上に顔を覗かせる。
桜は蘇枋に抱きついているので気づいていない。
蘇枋がシーっと指で合図をすると、楡井たちは静かに近づいてきた。
「桜ちゃん寝てるよ〜」
桐生が蘇枋の後ろに回り込んで小声で言う。
「気持ちよさそうっすね」
楡井も桜の寝顔を見て微笑む。
二人は少し離れたところで昼食をとり始めた。

「桜君」
名前を呼ぶと小さく返事があった。
「‥‥‥ん」
首に回す桜の腕がゆるんだので、蘇枋は桜の体をそっと離して顔を見る。
「そんな可愛い顔、外でしないでよ」
桜は猫みたいに目をこすっている。
「なんで?」
「わかるでしょ」
桜の鼻をつまんで言うと、桜はいたずらな目をして蘇枋を見る。
「すお、おんぶ」
桜が蘇枋の背中にのしかかってきた。
桜の機嫌は直ったみたいだった。
「どこ行くの?」
「楡井のとこ」

「あ、桜さん起きたんですね」
蘇枋から降りた桜は楡井の隣に腰を下ろす。
「え、なんですか?」
桜は楡井の耳を引っ張って耳打ちする。
「……睨んで……ごめん」
楡井から顔を離した桜は、真っ赤になった顔を両手で隠す。
「もう……桜さん!不意打ちダメです。可愛いすぎます」
楡井は桜の体に飛びつこうとしたが、蘇枋が桜の手をつかんで引き離した。
「桜君もう行くよ」
二人は手をつないで屋上を出て行った。

「すおちゃんも大概だねぇ」
「ですね」
桐生と楡井は顔を合わせて呆れたように笑った。






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