ドッジボール

スーパーで買い出しを終えたことはは公園の前を通って歩いていた。

お、桜たちだ ドッジボールしてる!
ちょっと見てこうか
「ことはさーん!」
ベンチに腰をおろしたことはに気づいた楡井が手を振って喜ぶ。

「にれ君!ボール」
「う、わぁーーー」
「あはは」
「当たっちゃったねえ」
「桜さんずるいです」
「お前がよそ見してるからだろ」

「ことはさん....」
しょんぼりとうつむく楡井がことはの隣に腰をおろした。
「悪かったわね、気をそらしちゃって」
「そんなことないです!会えて嬉しいっすよ」
ぱっと顔を上げた楡井は笑顔でことはを見る。
「桜は一人なのね」
ドッジボールは桜vs蘇枋・桐生・柘浦で行われていた。
「桜さん、ドッジボール強いからみんなで倒そうってなったんです。もう全然ボール当たらなくて、全部捕ってしまうんです」
確かに、見てると桜はボールを捕るのが上手かった。
柘浦の超高速ボールをガッチリ腹で受けとめて、
桐生の低速変化球もなんなくキャッチしている。
「蘇枋は独特な捕り方ね」
蘇枋は桜の投げたボールを一旦バレーボールのレシーブで上げてからキャッチするという方法をとっていた。
「蘇枋さんのオリジナルですかね」
楡井が苦笑した。

「蘇枋、ちゃんと捕れや。ビビってんのか?」
桜が煽り始める。
「えぇ、そんなことないけど。俺にとってこれが一番楽な捕り方なだけ、だ、よっと」
「おわ!あっぶねー」
蘇枋が投げたボールは足を開いてジャンプした桜の股の下を通過して、ことはの前に転がった。
ことは軽く蹴って桜にボールを届けた。
「さんきゅー」

「んじゃ、ここから本気出すぞ」
「えぇ、まだレベル上がるの〜」
「桜君の本気見せたれ」
「ツゲちゃん、どっちの味方してんの」
「ねえちょっと、二人とも…」
蘇枋が柘浦と桐生をそばに呼び寄せてヒソヒソ話している。

「作戦会議でしょうか?」
「なんだろうね」
「おい、さっさと始めんぞ」
桜はボールをぱんぱん叩いて今にも投げ出しそうな勢いだ。
「それじゃ、二人とも頼んだよ」
「はーい!」
「了解」

「蘇枋!お前から倒してやる」
桜が投げた高速ボールは、蘇枋がレシーブして宙に浮かんだ
それを今度は桐生がレシーブして
最後に柘浦がヘディングして__

「やたー!俺らの勝ち」
「やったな蘇枋」
「どうだい桜君、これが俺らの協力プレーだよ」

ボールを挟んでしゃがむ桜を蘇枋が見下ろして言う。
「くっそ〜油断した」
「調子に乗ってるからだよ」
「るせえ」
蘇枋は桜の頭をポンポン撫でている。
「それじゃあ桜ちゃん、罰ゲームね」
「はあ?そんなの聞いてねえ」
桜が勢いよく立ち上がる。
「どんな罰にするん?」
「そうだなあ」

蘇枋が桜に耳打ちする。
後ろで桐生がニコニコしながら耳を立てていた。
「それだけ?」
桜が驚いた顔で蘇枋を見る。
「それだけって、本当にできるの?」
「たりめえだ。そんな簡単なことかよ。余裕だな」
「そう‥‥じゃあ頑張ってね」
「桜ちゃん頑張れ〜」
桜はブツブツ言いながらことはに近づいてきた。

「よっ、桜お疲れ〜」
「おぉ、__」
「え、何か言った?」
後頭部に片手を回す桜は口をぱくぱくさせて何か言おうとしている。
「いや、その‥‥‥」
「うん?」
そっぽを向く桜の顔がみるみる赤くなっていく。
「どした桜?」
「桜さん顔赤いっすよ」

耳まで赤くなった桜はついに発狂した。
「だあー!やっぱ無理」
「ほら言ったじゃん」
「やっぱ無理かあ」
桜の後ろで見守っていた蘇枋と桐生が呆れたように笑っている。

⬜︎

「あ、もうこんな時間。私そろそろ行くね」
スマホを見たことはが慌てて立ち上がる。
「なんかよくわからんけど、あんたボール捕るの上手かったわよ。じゃあ、またねみんな」
桜に声をかけ、ことはは足早に去って行った。

「さっすがことはちゃん。察しがいいこと」
「ホントだね。桜君よかったじゃん、褒められてたよ」
「‥‥」
桜は俯いたままだ。
「あの、罰ゲームって何だったんですか?」
「ことはちゃんに桜君が告白する!やろ?」
「ツゲちゃん、なわけないでしょ」
「え?!」
「『俺のプレーどうだった?』って聞くだけだよ」
呆れた顔で桐生が柘浦をに教えた。
「ああ、なるほどですね」
「あんなに余裕そうだったのに、可愛いな桜君」
蘇枋は桜の耳たぶを引っ張っている。
「あぁ?バカにしてんのか」
桜が蘇枋の手を振り払って立ち上がり、指をポキポキ鳴らす。
「おお、いいね調子戻ってきた?」
「俺はいつも通りだ」
「そっかあ、それじゃあさっきのセリフ俺に聞かせて?」
「俺も聞きたーい!」
「はあ?言うわけないだろ馬鹿か」

「ふ〜んつまらない男。桐生君もう行こうか」
「そだねえ。みんなばいば〜い」
蘇枋と桐生が去っていく。
「桜君、ワシは筋トレに行くで」

「何なんだよあいつら、勝手なこと言って」
桜は悔しそうに砂を蹴り上げた。
「まあまあ、俺たちも帰りましょうか」
さりげなく桜の手をつかんだら、桜は大人しく楡井についてきた。
桜と別れる所まで楡井は桜と手をつないで歩くことに成功したのであった。






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