俺またやらかしたみたい‥‥

朝、教室に入ると蘇枋と目が合った。
蘇枋はばつが悪そうに立ち上がり
「自販機行ってくる」と
一緒にいた楡井たちに声をかけ教室を出て行った。
オレはすかさず蘇枋を追いかける。
ここ最近蘇枋に避けられていて、こうでもしなきゃ本当に二人で話せそうになかった。

廊下に出ると蘇枋が突き当たりの角を曲がったところだった。
「おい蘇枋、待てよ」
オレの大きな声に蘇枋が走り出したのでオレも走って追いかける。
まるで鬼ごっこのようだ。
廊下には人がいなかったので二人とも全速力で走る。
足はオレの方が速かったようで、蘇枋に追いついたオレは目の前にある蘇枋の腕をつかんだ。
「離してよ」
息を切らしながら蘇枋が腕を振り解こうとするけど、オレは腕をつかんだまま近くの空き教室に蘇枋を押し込んだ。
簡単に出られないように、念のため鍵をかけておく。
「なんだよ、鍵まで閉めて」
ようやく振り解かれた腕をさする蘇枋は、明らかに不機嫌な顔をしていた。
「お前が避けるからだろ」
オレは蘇枋の目を見て言うけど、蘇枋はオレを見ようとしない。
「避けてるのは君だろ。俺と話したくないくせに」
「はあ?」
なんとなく会話が噛み合ってない気がしていると、蘇枋がズボンのポケットから紙くずを取り出して床に投げ捨てた。
「これ……」
オレがしゃがんで拾い上げたそれは、桐生に質問した付箋だった。

"蘇枋と距離とった方がいいのか?"
中を見たら、そう書かれていた。

「なんでお前が持って……」
言いながら蘇枋の顔を見て、咄嗟に口をつぐむ。
傷つけた…
今まで見たことのない蘇枋の崩れた表情に、オレは一瞬にしてそう悟った。

「ごめん蘇枋…これはその…違うんだ」
「なにがだよ」
オレが伸ばした手を払いのけて蘇枋は一歩後ろに下がる。
ダメだこりゃ…
完全に拒絶されてんな
こうなったら正直に言うしかねえか
こんなつもりじゃなかったのになあ‥‥‥

オレは大きくため息をつき真っ直ぐ蘇枋を見て言った。
「お前見てると手が出そうになる」
「はあ?」
いやわかるよ、意味わかんねーよな
オレもわかんねえから。
「その‥‥なんだ、お前がそばにいるとなんつーか、勝手に手が伸びて‥‥目の前にお前の頭があるとなんか触れたくなって‥‥わりい。こんなこと言ってキモいのはわかってる。だから桐生に相談したら、”それはキモいじゃなくて、『す』から始まる2文字だよ”って、意味わからんこと言ってて‥‥結果的にお前を傷つけた。ごめんな蘇枋」

オレが話している間、蘇枋はずっと俯いていた。
はあ、引かれたよな‥‥
どうしよう‥‥もう蘇枋と一緒にいられないかもなあ
どこか人ごとのように考えていると、蘇枋の小さな声がする。
「それで‥‥その2文字はまだわからないの?」
ああ、あれか
「すまん、わからねえ‥‥まあ蘇枋が気にすることはねえと思うぞ」
どうせ桐生がからかっているだけだろうし‥‥
オレの発言に蘇枋はため息をついてようやくこっちを向いた。
「仕方ないから俺が教えてあげるね、バカな桜君。 ”す”の次は”き”だよ」
すの次はき
脳内変換した
す‥‥き‥‥‥
すき???好き???
「はあああああ?」
大きな声が出た。
オレが蘇枋を好き?
そんなことあるわけ‥‥‥
「桜君、俺のこと好きってことでいい?」
真顔で聞いてくる蘇枋からは何も読み取れない。
「わかんねえ」
正直に言った。
「あっそ」
「え?ちょっ待てよ、おい」
オレが止める間もなく蘇枋は鍵を開けて出て行ってしまった。

「やっぱり好きかも‥‥」
蘇枋の後ろ姿を見ながらオレはそう呟いた。

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