似たもの同士

「おら、蘇枋立て!自販機行くぞ」
「えー、一人で行ってよ」
「いいから行くぞ」
だるそうな顔の蘇枋を桜が椅子から引っ張り上げて立たせた。
「すおちゃん、行ってらっしゃーい」
「もうやだ…」
桜に引きずられようにして教室を出て行く蘇枋を、桐生は手を振って見送った。

「桜さん、最近蘇枋さんにわがままですね」
そばで様子を見ていた楡井が桐生に話しかける。
「すおちゃんってさっきみたいに嫌そうな顔する割になんだかんだ優しいから、結局桜ちゃんの言うこと聞いてあげるんだよねぇ。桜ちゃんもそれを知っててわがまま言ってるんじゃない?」
「つまり、桜さんの究極のデレってことっすか?」
「うん、一見すると強引だけど、桜君なりの甘え方だと思うなぁ」
「そう思うとなんだか二人とも可愛く見えますね」
「確かにねぇ。桜ちゃんはもちろんだけど、すおちゃんも案外可愛いところあるよねぇ」
「蘇枋さんには言えないっすけど…」
二人は顔を合わせて笑った。

「俺がなんだって」
噂をすれば、本人たちが戻ってきた。
蘇枋は疲れた顔で桜をおんぶしていた。
「え、蘇枋さん!桜さん!なんで?」
楡井が驚きの声を上げる。
「何してんだあいつら」
「仲良しかよ」
クラスメイトたちも蘇枋と桜を見て騒ぎ始める。
「蘇枋の顔よ」
「目、死んでない?」
「桜君もうここでいいよね、降ろすよ」
「ダメ!俺の席まで運んで」
「はあ、もう仕方ないなあ」
駄々をこねる桜を、蘇枋はため息をつきながら席まで運んでやった。

「ほらね、すおちゃん優しいでしょ?」
桐生が楡井にささやく。
「はい優しすぎます」
桜を下ろした蘇枋は、両手をだらんと下げて机に突っ伏した。
「すおちゃんお疲れ様」
桐生が声をかけると蘇枋がいつになくだるそうな目を向ける。
「疲れたー」
「こんなんでへばるなよ」
桜は蘇枋の隣の席で買ってきた苺オレを飲んでいる。
「誰のせいだと思ってるの?」
蘇枋は机に顔をつけたまま呆れたように言う。
「ほらよ、これ飲んで元気出せ」
桜は服の下からほうじ茶を取り出して蘇枋に渡す。
「え、いつの間に買ったの?」
蘇枋が驚いて桜を見る。
「はは、びびったか?お前が好きなやつだろ、それ」
桜は得意げな顔をしている。
「蘇枋さん、嬉しそうっすね」
楡井がこっそり桐生に耳打ちする。
「にれ君、ちょっと黙ろっか」
ほうじ茶を一口飲んだ蘇枋が、目の前に立つ楡井を見据える。
「は、ひぃ!」
楡井は桐生の背中に隠れた。
「すおちゃん、そんな怖い顔しないの」
「俺はいつも通りだよ」
そう言う蘇枋は胡散臭い笑顔を浮かべる。
「ったく、お前は素直じゃねえな」
ストローを咥えた桜は余裕な笑みを浮かべて蘇枋を見ている。
「君に言われたくないし」
すました顔で蘇枋がお茶をもう一口飲む。
桐生と楡井は目配せを交わした。

「なんだよ」
蘇枋が口を尖らせている。
「ん〜すおちゃん可愛いなあと思って」
「俺は可愛くないし」
蘇枋は伏せ目がちになる。
「そういうところだよぉ〜」
「蘇枋さんって、けっこう桜さんと似てますよね」
楡井が桐生の後ろから顔をのぞかせる。
「あ?どこがだよ」
桜が眉をひそめる。
「ツンデレのところかなあ」
「蘇枋さんはツンがかなり強めですけど」
楡井が笑顔で言い放つ。
「にれ君、今度こそ黙ろっか」
「はひぃ!」
楡井がまた桐生の後ろに引っ込む。
「すおちゃん、楡ちゃんに当たり強くない?」
桐生が楡井の頭をなでながら言う。
「そんなことないよ。ただ、弟子にバカにされるのが気に食わないだけさ」
「バカにしてないです!だって蘇枋さん、桜さんといるときふにゃっとしてるからなんか可愛い‥‥‥‥ん、なん‥‥‥すか」
蘇枋の顔を見て、桐生は咄嗟に楡井の口を塞いだ。
「ごめんねすおちゃん、この子悪気はないんだよぉ。ちょっとバカ正直なだけだから許してね」
言いながら、桐生は楡井の手を引いて蘇枋から遠ざける。

「チッ、次の特訓覚悟しとけよ」
蘇枋は舌打ちしてまた机に顔を伏せた。
「なに?」
いつの間にか桜が蘇枋の椅子に割り込んできた。
「お前が可愛いのは俺が一番知ってる」
蘇枋のピアスをいじりながら桜が不満げな声を漏らす。
蘇枋は顔を机につけたまま黙っている。
「他の奴の前で可愛い顔すんな」
耳元でそう囁くと、蘇枋の肩がはねた。
「妬いてる?」
蘇枋が顔を捻って桜を見る。
「うっせえ。お前は俺だけ見とけ」
桜が蘇枋の顔に覆い被さる。
そのとき蘇枋の頬が赤くなったのは桜しか知らない。



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