告白〜蘇枋と桐生


放課後、日誌を職員室に届け終わり教室に戻ったら。すおちゃんが一人、黄昏れていた。今日は見回りがないので、他のみんなは早々に帰ったらしい。

「すおちゃん?何してるの〜」

「桐生君……特になにも」

「いやいや、
夕日見ながら絶対何か考えてたでしょ 笑」

「いや、ほんとに何もないよ。
ただぼーっとしてただけだって」

「ふぅ〜ん…」
釈然としなくて曖昧に返事をした

「まあ、強いて言えば桐生君を待ってた」

(え!?なにそれ!!!不意打ちすぎる
待って!待って!待って!マジなの?)

オレは一瞬固まってしまった。呆然としているオレが可笑しかったのか、すおちゃんはクスッと笑う。

「まぁ、冗談なんだけどね」

「えぇ〜!??なにそれ、ひど〜い
オレの衝撃返して」

さすがはすおちゃん。真顔で冗談を言うからつい信じてしまう。してやられたな〜。悔しい
ほんと、なに考えているかわからない

「ははは」

「笑わないでよ。ちょっと怒だよ」

「まあまあ、そんなこと言わないで。
それより桐生君、君に一つお願いがあるんだけど」

「なぁに〜?」

「オレ今すごく眠いんだ。
だから君に膝枕してほしいんだけど」

えぇーーーーーー?!!!!
意味わからん……これこそ冗談だよね???!
きっとそうだ。これは冗談
もう騙されない

「すおちゃん、いい加減冗談やめてくれる?
もう引っかからないよ」

「冗談じゃないよ」

そう言ったすおちゃんは真っ直ぐオレを見た。その瞬間、オレはドキッとしてしまった。

すおちゃんの目が!!!
めっちゃ眠そうなんだけど!!
普段タレ目ではないけど、いまは若干下向きになっている。

さっきまで顔を正面から見ていなかったからわからなかったけど、すおちゃんは本当に眠そうだった。

マジのやつじゃん!!!
えぇ〜どうしたらいい??わかんなーい
てか、膝枕って…オレ男だよ!?
そんなことする?ふつう……

頭の中で色々考えていたら

「ダメかなぁ、桐生君?」  
大きな瞳で上目遣いにオレを見る。

ちょちょちょ…待って!
なにその顔
すおちゃん、そんな顔できるの!?

不覚にも、可愛いと思ってしまう。
綺麗で整った顔が、いまはふにゃっと緩んでいる。

ズルいぞ、すおちゃん!
そんな言い方されたらもう……

「わかった。いいよ」

「じゃあ、ちょっと準備するから待ってて」

そう言ってオレはロッカーからブランケットを引っ張り出す。ふだん膝掛け代わりに使っているものだ。

それを床に引く。人一人分の大きさ。オレは靴を脱いでその上に正座した。

「よし、お待たせ〜
すおちゃん、おいで」

ゴロンとオレの膝に寝転がるすおちゃん。

小さくて軽い頭。こんなに間近ですおちゃんを見るのは初めてだ。改めて美形だなだと思う。すおちゃんの体温が、膝を通してオレにも伝わってくる。

膝枕なんて初めてだから、ちょっと緊張してしまう。心配になって聞いてみた。

「すおちゃん、頭痛くない?
オレの太もも硬いでしょ」

「大丈夫だよ。心配しなくても
オレ、ずっと桐生君にこうしてもらいたかったんだ」

えぇ〜!!!!???
本日3度目の衝撃
待って!待って!待って!なにそれ
これこそ冗談だよね?!!

もうわかんない……すおちゃん、真面目に言ってる??

オレはなにも言わなかった。というか言えなかった。なぜか、本気に聞こえてしまったから。

二人しかいない教室
沈黙が続く……

すおちゃんは向こうを向いて静かに目を閉じている。

手のやり場がないので、すおちゃんの頭を触る。赤みがかった茶色。艶があり、さらさらの髪。掬うとすぐに流れていく。触り心地が良くてつい上から下に撫でてしまう。

「ふふ、気持ちいい」

閉じた目が横に広がるのを見て、微笑んでいるのがわかる。

オレはこの状況を一度頭の中で整理してみる。
どうしてこうなったんだっけ?
すおちゃんはオレを待ってたって言ったけど、アレ、本当だったってことだよね
膝枕してほしいから待ってたってことでしょ!?
冗談って言ったけど、マジなやつじゃん!

オレは混乱しながらも、ちょっと嬉しくなって聞いてみた。

「ねぇすおちゃん。 
こういうこと、他の人にもするの?」

「膝枕のこと…?
しないよ。桐生君だけ。」

えぇ〜!!!!?
ほんとに?!!!
そう言ってほしくて聞いてみたけど、本当に言われたらめっちゃ嬉しい。そして、めっちゃ恥ずかしい。

オレだけなんて言われたら嬉しいに決まってる。
いつも一緒にいる桜君でもにれ君でもない。
すおちゃんの『特別』になれた気がした。

でも、何でオレ?
これはほとんど冗談のつもりで聞いてみた。

「すおちゃんって、オレのこと好きなの?」

横を向いていたすおちゃんはゆっくりとこちらを見上げた。髪の毛と同じ色の瞳が揺れている。真顔のようで少し微笑んでいるようにも見える。

「ずいぶんストレートに聞くんだね。

……

でもそうだな〜好きか嫌いかで言ったら、間違いなく好きだよ。

「好き」にもいろんな意味があるよね。恋愛としての好き、友達として好き、人として好き…。
言ってることはわかるんだけど、オレにとって桐生君はそのどれにも当てはまらない。

純粋に「君」が好きなんだ。

なんて言うか、桐生君って居心地がいいんだよね 君の前だと力が抜ける
何でもどうでもよくなってしまう

つい言うつもりがないことまで言ってしまう
不思議だね……

それくらい君の隣は落ち着けるんだ

たぶん意識してないと思うけど、オレ意外と桐生君の隣にいること多いと思うよ」

そう言って、オレに笑いかけてくる。

意外だった
すおちゃん、オレのことそんなふうに思ってたんだ。言われてみれば、すおちゃんとオレの距離は結構近いかもしれない。いつの間にかオレの隣にいたり、目配せだけでお互いの心が読めたりする。

オレもすおちゃんの隣は居心地がいい
すおちゃんに言われて初めてそう実感した。
今まで当たり前のように隣にいたから、特別意識することがなかったけど……

そういうことだったのか、
無意識にオレもすおちゃんの隣を求めてたのかな  

……

っていうかさっき、「好き」って言った!
オレのこと「好き」って……!
しれっと告白してるじゃん

まあ、そういう意味の好きとはちょっと違うみたいだけど。それはそれで、嬉しかった。中性的なすおちゃんらしいと思った。

「桐生君、大丈夫?
固まってるけど……」

オレはぼーっとすおちゃんの顔を見下ろしていたらしい。

「すおちゃん、しれっと告白しないでよ
びっくりしたじゃん
こういうとこまでスマートなんだから
全く……」

そう言ってすおちゃんの頭をかるく小突く。
すると、急に顔を隠して腕をオレの腰に回してきた。オレはすおちゃんにがっちりホールドされてしまった。

「あの……すおちゃん?」

「……っ……した。」

くぐもった声で何か言っている。

「え、、なんて?」

「ちょっと緊張した」
はっきりとそう言ったすおちゃんの横顔。白い肌が薄く染まっている。

まさか!!!!?
すおちゃん照れてる!?
見たい見たい見たい
すおちゃん、いまどんな顔してる!!?

「すおちゃん、顔見せて」

オレは腰に回されたすおちゃんの腕をほどき、こちらを向かせた。

衝撃!!!!!

すおちゃん、その顔
ヤバすぎ
何という破壊力

もうとにかく可愛かった
さっきまでの清々しい顔が、いまは赤く染まり伏せ目がちにオレを見ている。

「すおちゃん可愛すぎ…」
ぽろっと口から出てしまった

「かわいくない」
すおちゃんは拗ねたようにそう言って、またオレをホールドし、顔を埋めてしまった。

ツンデレすおちゃん!!!
可愛いすぎでしょ〜

「オレも好きだよ、すおちゃん」

別に深い意味はなかった。
純粋に今の気持ちを伝えたかった

ただ「好き」。

それで十分だと思う
「好き」な気持ちに意味なんていらない

そんな思いが伝わったのかな〜
すおちゃんは「うん」と小さく返事をしてくれた










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