一つひとつ、丁寧に積み重ねてつくる建築遺産を現代に起こすアップデート手法とは
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__今回お話をお伺いしたのは、コルゲートハウスをゲストハウスに蘇らせたデザイン事務所のモノトラムの石井さん、北里さんのお二人。お二人は東京と大阪を拠点に活躍されており、建築遺産を現代に蘇らせるスペシャリストです。前川國男氏が設計したテラスハウスを現代の暮らしに合わせてリノベーションを行った実績があります。
今回は、モノトラムのお二人にどのようにして川合健二氏の思想をデザインに落とし込んでいったのか?デザインのプロセスと難解な形状のコルゲートハウスをいかにして形に落とし込んでいったのか?お伺いしていきます。
思い込みをなくしてフラットに建物と向き合ってみる
__一番最初にお声を頂いたときって、ゲストハウスにしたいっていうような話だったんですか?
石井 : ええ。どうでしたっけ。本当の初歩的なところは、多分僕が最初電話をもらうんですね。でも、初期では本当に少しのコメントしか頂かないんです。今回も、ざっくり愛知県の豊橋っていうところで、〇〇さんっていう方の家があって、そこを宿泊施設にしたいんだ、しか聞かないんです。
最初の情報っていうのは前川國男邸のリノベーションでもそうだったんですが、毎回プロジェクトを始めるときに必要最低限の情報のみをはじめに聞いて、そこから根掘り葉掘り突っ込んでいってプログラムが見えてくる、というスタイルが多いです。
フラットな気持ちで仕事の内容も聞いて、その後の打ち合わせや現場にも同じくフラットな気持ちで行くようにしています。
コルゲートハウスでいうと宿泊施設という使い方は決まっていました。しかし、詳細の部分決まっていないので、何人泊まることができるのか?スタッフの動線だったり、そういうオペレーション的な部分も一緒に考えながら計画を進めました。
宿泊施設でもホテルと民泊では対応する建築基準法や消防法も変わるので、使用する素材や部屋の大きさも変わっちゃうんですよね。
なので、まず予算のすり合わせや、用途などの現実的な問題から具体化を進めていきました。
北里 : デザインについてですが、これは僕たちがリノベーションでよくやる手法で、既存の空間の文脈を踏襲しつつ、その意味や機能を読み替えてずらしながら新しく作るオブジェクトに落とし込んでいくような作り方をしています。
コルゲートハウスでいうと、構造であるコルゲート鋼板を保護するための亜鉛メッキ、鋼板で作られた南北の外壁や1階の床に塗られていた錆止め塗料、2階の床や階段に使われている焦茶色に塗装された木材、等が建築当初から残っていてかつ印象的な要素でした。これらの要素を、既存の空間に加え今回新しく制作した間仕切壁や建具、手摺、家具、照明といったオブジェクトにコラージュ的に展開していきました。コラージュ的な展開のさせかたは少し独特かもしれません。
例えば塗装の考え方で言うと、鋼板に使われていた錆止め塗料を、鉄材だけでなく既存の木壁にも塗ってしまう等、鉄はこの色・木はあの色、という元々の関係性を一旦切り離して、空間全体におけるコンポジション的な配置のバランスから各部材の配色を決定していたりします。
他にも、既存のオブジェクトの用途を読み替えることで、新しい機能を追加するということを試みています。例えば、1階の壁に元々設られていた稼働棚があるのですが、棚柱には既製品が使われていて、棚を取り付けるためのブラケットは平鋼を加工して特注で製作されたものが使われています。ブラケットを特注で製作することで、既製品の棚柱を使いつつ、板状の棚も、箱状の棚も設置できる様に考えられているんです。
この考え方が面白かったので、元のシステムを残しながら、さらに上書きするようなことができないかと思って、同じ仕組みで照明を作ることにしました。既存の棚柱に取り付けることができる照明用のベースを製作しそこにライン照明を設置することで、壁を照らして間接的に明かりをとるブラケットライトを製作しています。仕上げにはコルゲート鋼板と同じ亜鉛メッキを採用しています。棚柱を利用しているので、少しであれば上下に動かすことも可能です。
元々この空間にあった要素を生かし直す、ということに面白みを感じていますが、それしか使ってはいけないという訳ではなくて、壁の一部に中空ポリカーボネート板を採用するなど、既存の空間には無かった素材も使っています。大事なのは、既存の文脈と新しく加えなければいけない要素との歪な融和を図ることで、この空間独自のデザインが成立しているかどうかなんです。
__フラットな状態から建物を俯瞰し、今の建物の魅力を活かしながら建物のゴールに向けて情報を組み立て、ボリュームやプランの方向性を整えていくことで難解な今回の川合健二氏のコルゲートハウスプロジェクトを可能にするお二人の考え方をお伺いすることができました。
施工プランの次の工程として、現場での工事が始まります。しかし、コルゲートハウスは、直線の柱や壁がほとんどない建物です。現場で作業を行うスタッフとどのようなコミュニケーションを行っていったのか?お伺いしました。
図面で表現できないことは、丁寧に一緒に現場で作り上げていく。
北里 : 建物がユニークじゃないですか。カーブしかない超いびつな形状。楕円形の筒状の外壁に内壁を入れることで補強するような構造で、構造体であるコルゲート鋼板の位置は動かせないので、外壁と内壁の間を個室にしてその他を共用部とする、というように建築の形状から自ずとゾーニングは決まっていきました。後は個室化するために新しく作らなければいけない壁や建具・家具等のデザインを、先程お話ししたような考え方で、既存の空間との関係性から検討を進めていきました。
一番時間がかかったのは実際の工事に落とし込むところですね、現地の工務店さんとの擦り合わせに設計から竣工に係る時間の8割ぐらいを費やしました(笑)。我々は地域の設計事務所ではなく東京・大阪を拠点としているのである意味部外者だったこともあり、コミュニケーションの部分が難しかったり、工事の対象が特殊な建築なので出来ないことも結構多くて、、、現場で代替案を出して打ち合わせしながら進めていったので時間がかかりました。
工事が進むにつれ、私たちも現場で作業することが増えていきました。職人さんたちとのコミュニケーションの時間も増えて、結果的に良いチームワークを作ることができました。
大工さんの一人に神社をつくられるような、手先が非常に器用な宮大工さんにも入っていただいて、コルゲートハウスが持つ波型の複雑な壁に合わせ加工するなど、見事な仕事をして頂きました。
石井 : 吹き抜けに面した南側の壁に楕円形の白くて大きな幕を設置しているのですが、これは照明になっているんです。元々同じ形状でオレンジ色の生地が張られていて、割とこの建築のアイコン的な存在だったので、これをどうするのかが初期の頃から課題だったのですが、服部さん?(要確認)のアイデアで照明化することになりました。
外側から見るとわかるのですが、南北の外壁は、ハニカム構造といって六角形が連なった蜂の巣のような構造をしています。元々のオレンジの幕を撤去するとハニカムが露出していたので、六角形の中に一つ一つ照明を仕込んでいくことにしました、83個でしたっけ。新しく設置する幕の素材は重要でした、どのくらいの透過性であれば照明として綺麗に見えるのか、周囲の要素とのバランス、かなりの面積が必要だったのでそれを賄えるかどうか、等の条件を考慮して選定しています。
相乗効果で生まれるアイデアとクリエイション
__お二人の良いモノづくりをしたいという思いから様々な人がアイデアを発揮し、今回のコルゲートハウスに反映されてきました。その一部のエピソードもお伺いができました。
建物の中でなかなか印象的だったのが、客室前のドア照明を元々川合健二氏家族が使用されていたお椀を使ったものとお伺いしたのですが、どんな風にこの照明は作られたのでしょうか?
北里 : この照明は僕たちではなく、アドレックでインターンをされている武藤琴音さんに作って頂いたものなんです。今回の改修計画を進めるにあたって、川合御夫妻が所有されていた物を片付ける作業から始めたのですが、片付ける際に出てきた当時の生活道具、お椀を使って製作されています、お椀のアップサイクルですね。お椀をリフレクターとして転用していて直接光源が見えない仕様になっているので、全体の照明計画に違和感なく馴染んでいると思います。固定するためのベースの形状を3Dプリンターで作成し設置テストを繰り返すなど試行錯誤しながらベースを完成されていた様です。
また、椅子やラグ等の置き家具はプロップスタイリストの窪川さんにコーディネートしていただいています。
川合健二氏の遺した建物を現代の宿泊施設に転用するというチャレンジは、機能的な居住性の問題や、法的にクリアしなければならない課題等、多くの苦労がありました。しかし、それ以上にこの珍奇な建築に僕たち自身が魅了されていたので、先人の偉業に敬意を払いつつも、ある種の「楽しみ」として取り組んでいたように思います。その中から出てきたアイデアがこの空間独自の宿泊体験に寄与できると嬉しいです。
__今回は、コルゲートハウスを宿泊施設として蘇らせるための手法を中心にモノトラムのお二人にお話をお伺いしました。モノトラムのお二人や多くの方が実際に作られたコルゲートハウスを体感してみてはいかがでしょうか?
monotrum
北里暢彦と石井卓也が共同主宰する建築デザインユニット。大阪と東京の二拠点をベースに活動している。
osaka office
550-0001大阪府大阪市西区土佐堀2-1-15 乾商店ビル3F
tokyo office
161-0033 新宿区下落合3-20-16 151A-1A
What is the updated method of bringing the architectural heritage to the modern age, which is carefully built up one by one?
__This time we interviewed two members of monotrum, the design firm that revived Corrugated House into a guest house. They have experience working with ADDReC to renovate a terrace house designed by Kunio Maekawa to suit modern living.
In this issue, we asked the two members of monotrum how they incorporated Kenji Kawai's ideas into their designs. We asked them about the design process and how they incorporated the difficult shape of the corrugated house into their design.
Lose our assumptions and look at the building in a flat way.
___When you first heard about this, did you understand that they wanted to turn it into a guesthouse?
Ishii : Yes,I did. …But I wonder how was that part exactly? The real first step was that I probably got the first call. But in the beginning, I only got a few comments.
In this case, I only asked roughly, "There is a house of Mr. Kawai in Toyohashi, Aichi Prefecture, and they would like to turn it into an accommodation facility” The same was true for the renovation of Kunio Maekawa's residence. Whenever we start a project, we usually ask for the minimum necessary information, and from there, we dig deeper and deeper until we find the program.
I also ask them about their work in a flat attitude, and I try to go to subsequent meetings and job sites with the same flat attitude.
In terms of the Corrugated House, the use of the house as an accommodation was decided.
However, the details had not yet been decided, so we worked together to plan the operational aspects of the facility, such as how many people would be accommodated, the staff flow lines.
The Building Standards Law and Fire Service Act for hotels and private accommodations are different, so the materials to be used and the size of the rooms would also change.
Therefore, we began with a discussion of the budget and practical issues such as the intended use of the facility before proceeding with the specifics.
Kitazato : Our approach to design is to extract the materials and colors that were originally present in the building, and then develop them in a different way. For example, we used the colors that were originally in the building, and changed the materials.
In this Corrugated House, we used milky white corrugated polycarbonate for the walls of some of the rooms on the second floor. Polycarbonate is a material that is often used for carports in modern detached houses. It is a material not often seen in Japanese housing of Kenji Kawai's era, but we harmonized it by matching the colors and textures used in other parts of the house.
As we do every time of our work, we make adjustments to fit in with the modern age utilizing the original space while adding new materials. Other bricolage-like techniques are also used.
There is dark red color that was originally painted on the striped steel plates on the floor, and we newly used that color on the staircase, and we used the color of the material on the floor for the balustrade, and we created a number of patterns for the original materials and new parts to be created.
___We were able to hear about their thinking that made possible this difficult Kenji Kawai's Corrugated House project by taking a bird's eye view of the building from a flat level, assembling information toward the goal of the building while utilizing the charm of the current building, and preparing the direction of the volume and plan.
The next process after the construction plan is the on-site construction. However, the Corrugated House is a building with almost no straight columns or walls. We asked them how they communicated with the staff who would be working on site.
What cannot be expressed in drawings would be carefully built up together on site.
Kitazato : The building is unique, isn't it? It has a very awkward shape with only curves. For example, there were very few places where new walls could be built. Therefore, we kept our thinking super simple and decided the location of the walls from the planning of the room sizes, and the general positioning of the rooms was decided. To incorporate this planning into the construction work, we spent about 80% of the time from design to completion meeting with the local constructor. lol
We were not a local design firm, but a design firm based in Tokyo or Osaka, so in a sense we were outsiders, and we had difficulty communicating with the local contractor. As construction progressed, we also worked on site more and more. We had more time to communicate with the carpenters, and as a result we were able to create good teamwork. One of the carpenters was a shrine carpenter who is very skillful with his hands, and he did an excellent job of machining the corrugated complex walls of the Corrugated House.
Ishii : There is a large, impressive white curtain attached to the Corrugated House, which was originally intended as a curtain to prevent sunlight from entering the building. The curtain is so impressive that I always had the idea that it would be a good use if the area was illuminated.
As you can see from the outside, the exterior wall of the building has a beehive-like structure, with many hexagons in a row. Since there were no drawings initially, we counted all the hexagons by hand and installed light bulbs in them. I remember there were 83 bulbs. We couldn't ask the contractor to do this kind of detailed and difficult work, so we actually did the work on site.
Ideas and creations generated by synergy
__Various people have contributed their ideas based on their desire to create good products, and these ideas have been reflected in this Corrugated House.
We also had a chance to hear about some of the episodes. One of the most impressive elements of the building was the door light in front of the guest room. I heard that it was made by reusing wooden bowl that had been used by Kenji Kawai's family.
Kitazato : This lighting was actually created not by us, but by Kotone Muto, who studied lighting projects at Adrek's QWS innovation center, which provided overall direction for this project, and worked with Adrek's lighting designers. Actually, there was a huge amount of stuff when we were building this Corrugated Huse. We started by clearing out all the things that were there, and we found these so-called "upcycled" lights made from bowls and other tools from that time.
We wanted to make the light bulbs not directly visible so that guests would feel a sense of the extraordinary experience, so we completed the base through trial and error, using a 3D printer to create the shape of the bowls and the base to fix them in place, and repeated installation tests.
Finally, the interior stylist, Ms. Kubokawa, created an even better spatial design by placing the interiors in the building we designed.
This space is not our work alone, but a collaborative work created together with various people.It was a challenge to transform the building left behind by Kenji Kawai into a modern accommodation facility in its original form, as there wereproblems of habitability and legal requirements that had to be cleared.However, this project was an expression of our desire to create a building that will remain in the hearts of many people in the future, while remaining close to Kenji Kawai's wishes.
__In this issue, we interviewed two members of monotrum, focusing on the methods used to revive a corrugated house as an accommodation facility. Why don't you experience the actual corrugated house that the two members of monotrum created and many others have involved?
monotrum
An architectural design unit conducted by Nobuhiko Kitazato and Takuya Ishii. They are based in Osaka and Tokyo.
Osaka office
3F Inui Shoten Bldg. 2-1-15 Tosabori, Nishi-ku, Osaka-shi, Osaka 550-0001
Tokyo office
151A-1A, 3-20-16 Shimoochiai, Shinjuku-ku, Tokyo 161-0033
by FOOD FOREST