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🇯🇵「〜してはる」の不思議


高校生の時にクラスメートが言った。
関西弁って便利やねんで。「はる」って付けたら敬語になるんやで。

日常の敬語を全てデスマスで済ます私にはあまりしっくりとこなかった。話し相手に「元気にしてはりますか」などと尋ねたことがなかったし、父も母も敬語を使わないから遠い世界の言葉遣いだと思っていた。古いとさえ思う感覚を持っていた。当時は「してはる」に脳細胞を使わなかった。

最近になってその面白さに気づく。


「元気にしてはりますか?」

と、

「お兄ちゃんゲームしてはった」


圧倒的に有名なのは前者ではなかろうか?


私個人が母語を習得する感覚で身につけたものは後者の方で、「あの人今頃片付けてはるわ〜」「お姉ちゃん本読んではるで」という使い方だ。He/She の行為を示すもの。言語学的視点からはどのように議論されているのかわからないけれど(勉強不足)、補助動詞的にくっつけて第三者の行為であることを明確に示す、使い方。

あの人はテレビを見てはった。
お父さんはもうご飯たべはったで。
叔母ちゃん草刈りしてはった。

こういう使い方だけを知って、生きていた。17歳まではそうだった。そんな頃にクラスメートが言ったのだ。「してはる」は敬語にもなるんだよと。


ネットなどでたまに目にする関西弁方言特集。
おそらく「〜してはる」は有名で、必ず入っている印象。おそらく、敬語として紹介されている。(おそらくすぎる。曖昧度90%超)

しかし私や友人が先に身につけたのは別の用法だ。「He/She が〜してはる!」
なるほど面白い。
この母語的感覚が正しいならば、「〜してはる」の用法は、まず初めに、❶He/Sheに対して言う「してはる」が来て、その応用的用法として、❷youに対する敬語表現が出現したと言えそうだ。

ヨーロッパの言語で主語のyouを複数形にすることで敬意を表すことがよくある(ex. ロシア語のты→вы)が、関西弁* では三人称の用法を二人称に対して使うことで敬意を表すようになったのだろうか。you に対して第三者の立ち位置を表現する文法を当てはめることで、youとのほどよい距離感を示し、「敬意、あります」と。


青き頃の私と友人が話した会話「“してはる”は敬語としても使える」。
たまに目にする関西弁特集「“してはる”敬語。」

なんとなく感じてた微妙な違いと認識のズレを今になって考えてみたら案外すんなりと腑に落ちた。
「〜してはる」の用法が変化していっただけだったんだ。それだけだった。それだけだけど、キュンとする。

この「〜してはる」の用法がいつ頃から変化し始めたのか、どの地域で主に使われているのか、勉強していないしわからないけれど、これは次回図書館に行ったときの課題としよう。勝手に脳内持論を展開しまくるのも悪くない。展開しきった後でバッサリ切られるのもまた悪くない。それまでは自由に考察を続けてみる。これから面白い変化がまた現れるのかな、なんて考えてみるのも良い。ただ未来予想は好きではないし私の脳では想像できないので未来人が作ったタイムマシンで未来を垣間見てその用法をたしかめてみたい。

「あ!未来人!変な使い方してはる!」



*関西弁の中でも、一部の関西弁にだけにしか当てはまらない可能性がある。関西弁という言葉は非常に曖昧でどこからどこまでが関西弁だと断定するのも難しい。ここでは滋賀南部〜京都南部周辺の関西弁を指す。
ただし言語学者の方達がどのように議論しているのかはあまり知らない(勉強不足)。


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