君は最強の二次創作小説を読んだことがあるかい?〜ファイナルファンタジーSの世界〜
いや、当然「最強」なんて概念は二次創作小説、延いてはこの世の創作物において存在しない。正確に言えば世間において共有される「最強の小説」という概念自体が存在しないのだ。各々が心の中で抱える「一番面白いもの」こそが各々の「最強」であり、そこに普遍性は見られない。
つまり何が言いたいかと言えば、
俺がこの世で一番面白いと思ってる二次創作小説の話をすっからよ!!!!!!
という事でさあね。心して読めい。
・ファイナルファンタジーSという二次創作小説について
『ファイナルファンタジーS』(以下FFSと略称)という小説がある。これはタイトル通り、スクウェア(現スクウェアエニックス)による有名なRPG作品、ファイナルファンタジーの二次創作作品(ファンメイド小説)だ。
なぜFFSが「最強」なのか、まずは第一話を全文引用するのでそれを読んでもらおう。
え?全文っていいの?どういうこと?と思った諸君、見れば分かるからさ……
うん。
これを読んで「なにこれ……帰ってパラッパラッパーしとこ……」と思った諸兄ももう少しだけ私の話に付き合ってもらう。説明するからね、今からね。
ある程度インターネットに精通している読者諸兄ならば、上記に目を通して本小説が「インターネット上の匿名掲示板サイト、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で連載されている(いた)」ということにまず気付くだろう。
FFSは2004年に2ちゃんねるの「ドラクエ・FF板」に立てられたスレッド(掲示板)「ファイナルファンタジーS」にて、スレッドを立てた本人(後に固定ハンドルネーム◆EreM42GXZoが付けられ、通称エレム氏と呼ばれるようになる)によって執筆された、いわば2ちゃんねる小説なのである。
当時FFSは毎日1話という恐るべき執筆ペースでスレッドに投稿されていた。
そう、
毎日1話
である。
仮に執筆活動やそれに類する創作活動を行った人ならば毎日決まった量の創作物を投稿するという行為がいかに大変なことであるかを知っているだろう。FFSが2ちゃんねる上での連載を中断する第866話まで、(途中エレム氏の事情による連載ペースの低下などがありつつも)凡そ2年間もの間、FFSはその連載を続けていたのである!
これだけで先ずFFSが単なる変なトンチキ小説に留まらないパワーを持っているということを分かってもらえるのではないだろうか。
・FFSの魅力
……さて、上のFFS第1話を実際に読んでみて、皆さんはどう感じたであろうか。「小学生が休み時間に書いた稚拙な作文」?あるいはそれを紹介する私に対して、「昔のネットユーザーが匿名掲示板上に投稿した黒歴史小説を面白がる悪趣味人間」などと感じた人もいるのではないだろうか?
胸を張って言いましょう。決してそんな事はないのです!
FFSは単なる稚拙な黒歴史小説ではないし、私はFFSを心の底から面白い小説だと思って諸君らにオススメしているのです!
そんなFFSの魅力について、以下より「世界観編」「展開編」「キャラクター編」の三つに分けて語らせていただこう。
・FFSの魅力:世界観編
まず第一にFFSの持つ魅力として、その世界観が挙げられるだろう。
例えば初期の「世界分割編」では、さながら「仮面ライダーディケイド」や「テリーのワンダーランド」のように、それぞれの世界観、それぞれの理(ことわり)を持つ幾つもの「世界」を漂流することによって物語が進行していくのだ。その「世界」の中にはドラゴンや天使、帝国などが支配する如何にもファンタジーらしい「世界」や、文字通り受験戦争が繰り広げられる「世界」、なんか空にあるデカい顔が監視している「世界」など、作者であるエレム氏の抱える膨大なインスピレーションが爆発して出来た、様々な「世界」で冒険が繰り広げられていく。
また「世界分割編」以降では、亜宙(あちゅう)や異宙(いちゅう)、衛宙(えちゅう)などといった異なる「宙」が舞台となる「インベイダ編」、この世と並列して存在するあの世やその世、かの世などで冒険する「世編」、主人公たちの故郷である4次元を跳び越え、5次元や66次元、1024次元など文字通り次元の違う戦いを重ねていく「次元編」など、FFSの世界観はどんどんとインフレを重ねていき、その様は見ていて痛快に感じさせられる。
……さて、上に述べた世界観とは別に、もう一つ特筆しなければならない「FFSの世界観」が存在する。
それはこのFFSという小説作品が、「"ファイナルファンタジーS"という架空のゲームが存在する」という体で書かれたものである、ということである。言うなれば、ゲーム内のストーリーを伴ったゲームのプレイ日記こそが本小説の正体なのである。(既存の作品で例えるなら衛藤ヒロユキ氏による漫画作品『魔法陣グルグル』が近いだろうか)
冒頭に述べたファイナルファンタジーの二次創作という本作の特徴も、正確に述べるのならばゲームシリーズとしてのファイナルファンタジーの二次創作なのである。
例えばFFSでは敵との戦いにおいて、さながら攻略本のように、敵が行う技や特性、弱点、ドロップアイテムなどといった情報が当然のように記載される。当然ファイナルファンタジーの流れを汲む形ではあるものの、これらの情報は作者オリジナルのものである。
例えば上記はFFS第111話、パワーオブパワー洞窟にて待ち構えるボスの一人、パワー阿修羅との戦闘シーン。原作ファイナルファンタジーにも登場する召喚獣ゴーレムは最低でも一回敵の攻撃を肩代わりしてくれるという便利な存在であり、FFS作中でもその特性を活かして多分に活躍するが、連続攻撃を行う今回のパワー阿修羅相手には相性が悪い、というまさにゲームの攻略情報的な解説がなされている。
上記の内容を見て、特にファイナルファンタジーなどのRPGをやりこんだ人ならば、「いるいるこういう敵〜」などと頷いているのではないだろうか。FFSの楽しみ方のひとつにはこういったゲームあるあるも存在しているのだ。
またFFSでは敵の攻略以外にも、主人公パーティの強化カスタマイズ要素やオンラインでの競争要素、更にゲーム内でのバグ要素(!)まで小説として描写されている。ここまで書けば、FFSが単なる稚拙な文章ではない、寧ろ意図的な構成の下で書かれている創作作品であるという事は伝わったのではないだろうか。
・FFSの魅力:展開編
二つ目のFFSの魅力として、その異常な展開が挙げられる。例として先に引用した第1話を見てみよう。第1話では約300字程度の文字数内で、主人公の登場→ヒロインの登場→ダンジョンの攻略→ボスの攻略→世界の秘密→次の世界への移動といった、尋常の小説であれば軽く300頁程は使うような展開が目まぐるしく描写されているのである。はっきり言ってこの濃度は異常である。
こういった展開の圧縮は初期FFSに特に顕著なものであり、逆に後期FFSでは本来短く描写できる旅の行程をこれでもかと言うほど引き伸ばした話も存在したりする(これはこれでめちゃくちゃ面白いのだが……)一方、展開の唐突さ、あるいは展開の奇抜さという点で言えばFFS全編通して見られる特徴であり、また本作の大きな魅力であるとも言える。
例えば第479話にてこんな一幕が存在する。
物語上には初めて登場するが、主人公ベリュルにとっては既知のキャラクター、リリアスの登場に際しての地の文の表記、「初登場なので覚えていないプレイヤーも多いだろうが」である。
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とにかくFFSを読んでいて飽きるということはない。FFSはこの世の全てを内包している……というのは些か誇大な表現ではあるが、実際色んなことをやっている。
1話丸々ハンバーガー屋の会計の描写に費やした回もあれば、何故か突然ポケモンのパロディが始まった回もある。どこかの世界から異世界転生してきた若者が一瞬で死ぬ回や唐突に南北朝時代の武将楠木正成が登場する回、長編の大ボスの正体が聖徳太子だと判明した回など、楽しく愉快で突飛なFFSの回は枚挙にいとまがない。因みにこの文の執筆当時(2021年6月9日)での最新話では、明智光秀を自称する織田信長が古代エジプトでファラオとなり、外宇宙からの侵略者と闘っている。どういうことだ。
これだけ突飛な回だけを書き連ねれば、あるいはFFSがコメディ寄りの作品、言い方を悪くすればただ突飛さだけを狙った作品であるかのように思われるかもしれない。
しかし意外にも、FFSは決してオモシロだけの作品ではないのだ。
物語全体に散りばめられた伏線とその回収の仕方は読者を素直に驚愕させ、キャラクターの心象描写は時に読者の感情を大きく動かす。
例えば初期FFSの名エピソード、「犬編」や「森編」ではホンワカとしつつどこか物悲しい雰囲気の(普段のFFSとは一味違う)物語が描かれた他、大長編「鬼パラドクス編」では複雑な世界事情を描写しながらクライマックスに向けて全ての真相を明かしていく構成で大盛り上がりを迎えた。
FFSとは総じて、笑いあり感動あり熱狂ありと最高の展開が見られる物語なのである!
・FFSの魅力:キャラクター編
先にも述べた通りFFSは簡素な文体ながらも、キャラクターの描写がhijouに優れており、魅力的なキャラクター達がイキイキとFFSの物語を彩っている。
ここではそんなFFSの名キャラクター達を紹介させてもらおう。
・ベリュル・クラウザー
我らが主人公。26歳の成人男性である。初期FFSでは支配者を問答無用で殺戮して回るなど何処か冷徹な印象のある男であったが、物語が進むにつれてぼんやりしていった。人形や幽霊が怖い、美女を見ると態度を変える、幼女に絵本を読み聞かせしてもらう等、今ではもうどうしようもないボンクラ野郎になっちゃった。もう一度言うが26歳成人男性である。
しかしこんなベリュルでも、いやこんなベリュルだからこそ、FFSの主人公に相応しいのだ。みんなもFFSを読めば、仲間想いで、どうしようもなくコメディリリーフで、そして矢鱈と強いこの普通の人の事がきっと大好きになる筈。いやでもたまにマジでこの野郎……ってなるよ。
・ダンナーザ
我らがヒロイン。美女。第1話からベリュルに「ついて」きた。ぼんやりしてるベリュルに対して、ダンナーザさんは矢鱈と苛烈な性格の持ち主として描写されている。敵の本拠地へ強襲する作戦を提案する、記憶喪失となった敵の美少女に対してここで殺すべきと言い放つ、ベリュルへのツッコミに最上級魔法を使用する等、とにかく容赦がない。
これだけ書くとヤバい人みたいだが不思議と全体的な印象としては「可愛らしい人」位に収まっている。マジで不思議だ……。実はミミズが苦手。カワイイ。
・メリアナニー
ダンナーザさんに並ぶもう1人のヒロイン。カワイイ。ロリっぽい印象があるが確か20歳とかだった筈。ベリュルに対して(割と大っぴらに)恋心を寄せている。カワイイ。
「力」のダンナーザさんに対してメリアナニーは「知恵」が強調されている。賢くてカワイイ。たまに名探偵メリアナニー回がある。カワイイ。「えへへ」って笑うのがカワイイ。麻雀が強くてカワイイ。乗り物を運転するとスピード狂になるのもカワイイ。カワイイ。
・ファンニャー
ファンニャー姉さんは・・いいえ、今はまだ言えないわ・・・その正体は・・いいえ、今は言えないわ・・・
・シド
原作ファイナルファンタジーに登場する名物キャラ。FFSでは大体悪役として何度も登場する。というかいっぱいいる(?)
最近シドよりもDr.ワイリーに近付いてきた。
・エクスデス
ファイナルファンタジー5に出てきたラスボスの魔導師。原作では当然個人であるが、FFSにおいてエクスデスは種族名となっており、エクスデス・海の支配者やラバーエクスデスゴムなどエクスデス系のモンスターが多数出現する他、エクスレイズやエクスサンダーなど派生したエクス存在も登場。作者はエクスデスをなんだと思ってるんだ。
・その他原作キャラ
隕石に乗っ取られ理性を失ったガラフスターや、魔列車と合体して某トーマス的モンスターになったカイエン列車など、基本的に原作レイプが行われている。やりたい放題。
・アムロック・ホーラク
度々ベリュル達の前に現れて助言を与える、神出鬼没の謎の名探偵。名探偵らしくパイプ……ではなく鉄パイプを咥えている(!)
敵か味方か、素性を明かさぬこの男は一体何者なのか……?
因みに命名に際して、「シャーロック・ホームズ」という元ネタに対して、シャー⇄アムロ、ムズ⇄ラクという変換が行われたものと思われる。自由だ。
・明智光秀
織田信長。
・織田信長
アイスだったりロボだったり明智光秀だったりする。是非もないよネ!
等々、ここで紹介し切れない程魅力的なキャラクターが沢山登場するFFS。あなたの推しキャラも見つかるかも……?
・結:膨大なFFSサーガへ漕ぎ出そう!
さて、ここまでツラツラとFFSを紹介してきたが如何だったろうか?もしもFFSに対して少しでも興味を持ってもらえたのならFFSファン冥利に尽きる。
最初の方に少し触れたがFFSは866話で連載を中断している。……。
いや、正確には2ちゃんねる上での連載を、である。
長らく連載が中断していたFFSであったが、有志のSNS上でのファン活動を契機としてなんと2015年よりプラットホームをTwitterへと変え連載再開。それから現在(2021年6月9日)まで毎日1話のペースで連載が続いているのである。(FFSの連載が行われているTwitterアカウントはこちら→@bot_FFS また過去話を連載する再放送アカウントも存在している→@bot2_FFS 過去ログ自体はファイナルファンタジーSまとめWikiやTogetterの有志のまとめなどで閲覧可能)
FFSの連載数は2021年現在3000話を越えている。正直言ってこれは新規参入に尻込みする程の膨大な数であろう。FFSは別段全話読破しなくても話に着いていける構成となっているが、それにしてもハードルは高いだろう。
一応Twitter上のFFS実況タグ等にはFFSファンコミュニティが存在しており、そこで解説を受けながら現行話を読むという事もできるが、既存のコミュニティに入っていくのが苦手だという人だっているだろう。(私も事実そのような“ソロプレイヤー”である)
だがこれだけは言わせてもらいたい。FFSは狂おしい程に自由な作品だ。毎日更新されたものを読み進めるでも良し、溜めておいて気が向いた時間に読み進めるでも良し、どのような形であれきっと楽しむことはできる。きっとFFSという「易い」物語はあなたに寄り添ってくれる筈だ。
これを読んだあなたがFFSに興味を持って、そしてFFSの世界を楽しんでくれることを切に願う。
(2023/1/13追記)
ふと気付くとFFSbot連載開始から10年が経っていたという。話数にして3650話。
作者エレム氏は自身のTwitterアカウントでこれまでの執筆活動を振り返り、連載開始からの10年間、そして執筆開始からの20年間という月日を指して、
「これは恐ろしい事でして、これをあと10回は出来ないんです。どこかで終わりが来てしまう。」
と仰っていた。
なるほど、これは確かに恐ろしい。だがそれ以上に、作者の口からこのような言葉が出てくることがとても誇らしいことであると執筆者は一ファンとして感じたのだった。
「あと10回」も繰り返すことのできないこの先の月日において、ベリュルたちは一体どのような冒険を送り、我々はどのような人生をFFSと共に送るのだろうか。
そして冒険は続く。
《引用元》
・ファイナルファンタジーSまとめWiki (https://w.atwiki.jp/erem42gxzo/sp/)
・FINAL FANTASY S (https://mobile.twitter.com/bot_FFS)
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