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春烏

道端を歩く二羽のカラスのうち一羽がスキップみたいにぴょこんと跳ねた。
久しぶりの陽気が嬉しいのか。
カラスなのに雀躍している、とにやけた。

集中力がないと感じる。
集中力が、自分には。
火を通す前のホットケーキの生地みたいにすぐ崩れてしまう。

自分の字に自信がなかったけど手紙を書いたらかわいい字と褒められた。
とてもうれしかった。

思い返すと使ってないステッカーとキーホルダーが部屋にたくさんある。
それらは分散した自己のかけらのようだ。

暖かいから冷たい缶コーヒーを解禁する。
昔は苦手だった缶コーヒーを最近よく飲む。

一昨日の夜中、電話越しでしきりにカラスが鳴いていた。
そのカラスは全力でアホみたいにずっと鳴いていた。
普通寝ているはずなのに、狂ったカラスだ。
発情してるのかもしれない。
カラスの実相はどこにあるのだろうと考えてみる。
それもまた分散し複数である自己を拾い集める行為。

駅のホームには電車を待つ人たちがぽつぽついる。
だいたいみんな下を向いている。
狂騒的な春の訪れから目を背けるように。

「運命」とか「役割」というものを近ごろやけに気にするようになった。
言葉は葉叢を瑞々しくするクロロフィル。

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