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3月4日基本的対処方針分科会に提出した意見書と会議での発言内容

2022年3月4日の基本的対処方針分科会に事前意見書としてつぎの内容のものを提出しました。配布資料の中に含まれていますので、資料としてもすぐに公開されると思います。


まん延防止等重点措置期間延長について
基本的対処方針分科会構成員 大竹文雄

まん延防止等重点措置の期間延長提案に反対します。反対理由はつぎの通りです。

  1. オミクロン株は重症化リスクが低い
    第1に、第6波の中心であるオミクロン株の重症化リスクが今までの新型コロナウイルスの変異株に比べると相当程度低いことです 。重症化リスクは、高齢者と基礎疾患がある人たちに偏っています。それ以外の人の重症者はほとんど観察されていません。政府は2月中に高齢者の希望者にワクチン接種を終えるように、環境を整備したと理解しています。3月6日以降の重症者が出るとすれば、ワクチンを接種していない高齢者と基礎疾患をもっている方にほぼ限られることになります。また、高齢者であっても3回目接種を終えた方の重症化リスクは非常に低いと考えられます。
    オミクロン株の特性と2回ワクチン接種で重症化リスクが低い人と3回目接種を終えた高齢者を前提とすれば、オミクロン株の重症化リスクは極めて低いと考えることが自然です。ワクチンも治療薬もない状況であれば、オミクロン株であっても重症化リスクが高い感染症と考えることはできる可能性がありますが、3月6日の時点での高齢者に対するワクチン接種状況・接種可能な環境を前提にして重症化リスクを判断すべきです。ワクチン接種は自由意志ですが努力義務が課せられています。一方で、まん延防止等重点措置は、様々な行動制限や私権制限を伴います。重症化リスクがほとんどない子供たちの学校行事や学校生活への制限も行われます。イベントの制限や移動の自粛によって、広範な業界の人々の生活が苦しくなります。既に重症化リスクに関する情報は既に相当程度明らかになってきています。まん延防止等重点措置による私権制限を課すべきだと判断できるほどの重症化リスクがある感染症であるかということを改めて精査すべきです。

  2. まん延防止等重点措置の効果は限定的
     今までの基本的対処方針分科会、新型コロナウイルス対策会議分科会、アドバイザリーボードへの提出資料によれば、第6波で発生しているクラスターの中心は飲食店ではなく、保育所、学校、職場、高齢者施設等です。まん延防止等重点措置の対策の中心である飲食店の営業時間規制を続けることの効果は小さいと考えられます。まん延防止等重点措置を適用していない奈良県、滋賀県などの感染者数の推移は適用自治体と大きな違いがありません。また、内閣府AIシミュレーションチームの平田晃正教授の3月1日の報告資料の新規感染者数、重症者数の予測によれば、まん延防止措置が3月6日で解除された場合とされなかった場合で、新規陽性者数の差は大きくありません。まん延防止措置の継続によって新規感染者数が大きく下がるわけではありません。
    感染力が強いオミクロン株の感染を抑制するためには、クラスターが発生している保育所、学校、職場、高齢者施設での行動制限を強化することが必要になります。しかし、上述したように、オミクロン株の重症化リスクを考慮すれば、高齢者施設以外での行動制限を課す必要性は低いと考えられます。つまり、感染者数を抑えることはオミクロン株の特性を前提にすれば困難であり、重症化防止対策に集中すべきということになります。

  3. まん延防止等重点措置は財政的、社会経済的影響が大きい
    まん延防止重点措置による財政的影響、社会経済的影響は、大きなものがあります。財政的には、飲食店の営業時間規制のための協力金支給です。非常に大きな金額が協力金として支払われていますが、まん延防止等重点措置が、実施される前から夜間人流が減っているため、営業時間規制による追加的な顧客減少効果は比較的小さいと考えられます。事実上、顧客減少で所得が減った飲食店への所得補償政策になっています。行動変容を促すための政策ではなく、所得補償政策であれば、二つの問題点があります。第一に、まん延防止等重点措置の政策目標である感染拡大抑制策としての機能が小さいことです。第二に、感染拡大によって売上減少が生じたことを補償する所得再分配政策になっているとすれば、それは政策の目的ではありません。
    まん延防止等重点措置による学校、保育所などに対する様々な活動制限が、子供たちの発達や学力に長期的に負の影響を与える可能性があります。既に2年間、様々な活動制限がされていますから、学校生活、学生生活のほとんどを制限のある状況で過ごしてきている状況で、まん延防止の期間延長の追加的影響は大きなものになると考えられます。まん延防止重点措置の延長をすることは、子供たちや若者たちの人生に与えるマイナスの影響よりも、まん延防止等重点措置の感染拡大防止効果がより重要であるという政策判断をすることを意味します。
    まん延防止等重点措置は企業の活動にもマイナスの影響を与えます。イベントの制限、移動の制限により、企業活動は大きな制約を受けており、企業経営や労働者に対してマイナスの影響を与えます。また、基本的対処方針での水際対策の緩和のペースでは、企業活動への悪影響と留学を通じた国際交流への影響を十分には改善できません。

  4. オミクロン株の特性に応じた対策
     感染力が強く、重症化リスクが高いのはワクチン未接種の高齢者と基礎疾患を有する人に限られるというオミクロン株への対策としては、つぎのものが考えられます。
    第一に、高齢者と基礎疾患をもった人への3回目接種を促進することです。順調にワクチン接種が進めば、3月6日以降の新規感染者から重症になる人の比率は減少するはずです。
     第二に、高齢者や基礎疾患をもった人が感染した場合に、早期に治療につなげる体制を構築することです。高齢者施設でのクラスターが発生した場合に、その場所で治療・投薬を可能にする体制を充実することです。できるだけ多くの医療機関がコロナ患者の診療をできるようにすることです。
     第三に、高齢者や基礎疾患をもった人に対して行動制限を行うことです。重症化リスクが低い人たちの行動制限をしても感染拡大は完全には防げないのですから、重症化リスクが高い人の行動制限に集中すべきです。
     第四に、保健所による濃厚接触者の調査・特定作業、感染者の全数把握作業を中止し、高齢者等の重症化リスクの高い人への対応に集中することです。オミクロン株は感染から発症までの期間が短いため、保健所による濃厚接触者の調査・特定による行動制限では、感染拡大を抑制する効果が小さいことが明らかにされています。軽症者が大多数を占めるオミクロン株の全数把握を続けることを止め、全体の感染状況を別の手法で把握することに変えるべきです。効果が小さい対策から効果が大きな対策に保健所の人員が行う仕事の中身を変更すべきです。

本日の会議での発言内容はつぎのとおりです。

大竹です。私はまん延防止等重点措置の期間延長案に反対します。私の反対理由をまとめた意見書を参考資料10として提出しております。詳しくは、それをご覧頂ければと思います。意見書への補足とポイントを説明させて頂きます。

 第一のポイントは、オミクロン株の重症化リスクの低さです。本日の資料で、季節性インフルエンザよりも致死率が高いという専門家からの評価をお示し頂き、基本的対処方針の本文にもそれが入れられました。ただし、季節性インフルエンザでも過去を振り返ると致死率が高かった流行もありました。2005年は平均寿命が前年よりも減少するほどまでの影響がありましたが、それは比較対象に含まれていません。また、オミクロン株では、新型コロナ感染が直接的な死因でない方が多いということも知られています。アドバイザリーボードの大阪府のデータによると、約4割の方は新型コロナ以外の理由で亡くなられています。

以上のように細かい論点はありますが、判断すべきは別のことです。お示し頂いたように致死率が季節性インフルエンザよりも高いとしても、その危険性が相当程度高く、まん延防止等重点措置で私権制限を続けなければならないほどであるか、という論点です。他の2類相当あるいは5類相当の感染症と比べてもオミクロン株が相当程度危険だと言えるのかどうか疑問です。

 オミクロン株の重症化リスクが相当程度高いという議論を受け入れたとしても、重症化リスクが高い人たちの多くが3回目のワクチン接種をしてもその評価は変わらないのか否か、ということも疑問です。ワクチンの3回目接種で重症化リスクは非常に小さくなると私は理解しています。3月3日に官邸から公表された情報によれば、65歳以上の高齢者の3回目接種率はすでに55.8%です。報告遅れを加味し、本日を含めあと3日の接種進捗を考慮すれば、3月6日時点では約60%に達すると予想できます。また、クラスターが発生し、重症者が多く出ていた高齢者施設でも2月末までに74%の施設で接種が終了しているという厚生労働省の調査もあります。そうすると、3月7日以降の重症化リスクは現在のデータで得られているものよりも大きく低下する可能性が高くなります。現在、病床の逼迫を抑えることの対策として3月7日以降に蔓延防止を延長するのですから、3月7日以降の新規感染者の中での重症化リスクで判断すべきです。現在感染されている方が重症化することは対策の延長では残念ながら対応できません。ワクチン接種率のデータから推測すると今後新規陽性者の中での重症化率は低下していくはずですが、それはまん延防止等重点措置の効果でも延長の効果でもないはずです。

本日お示しいただいた致死率や重症化リスクが、ワクチン接種が重症化リスクの高い人へ行き渡った3月7日以降でも続くという政策判断をされている根拠は何でしょうか。ワクチン接種に重症化予防効果がないと判断されているとしか考えられませんが、そのように理解してよいでしょうか。もしそうだとすれば、ワクチン接種を進める意味がないことになります。逆に、ワクチン接種による重症化リスク低下効果があっても私権制限を続けるのであれば、感染者数が減らない限り私権制限を続けることになります。何を政策の目的にしているのでしょうか。ワクチン接種が進んで重症化リスクが下がった状態でも、無症状・軽症の感染者が増えることを抑えるために、重症化リスクが低い子供や若者の学校の行事や生活に制限を加えることを人々に納得してもらえるか疑問です。

 第二のポイントは、蔓延防止等重点化措置の継続に感染抑制効果が小さいにも関わらず、莫大な税金を使って飲食店への協力金を支払い営業時間規制を行う合理性がないことです。第三のポイントは社会経済へのマイナスの影響や子供や若者等の人生へのマイナスの影響が大きいことです。重症化抑制の効果と比べて判断すべきです。対策をしていることを見せる必要があるということで、効果が小さい対策に莫大な税金を使って、多くの子供や若者の人生にマイナスの影響を与えてもよいのでしょうか。この2点は、今までこの会議で何度も申し上げていることです。

 第四のポイントとして、まん延防止等重点措置を用いなくてもオミクロン株対策として効果的な対策を4つ列挙しました。第一に、高齢者・基礎疾患を持った人へのワクチン接種、第二に、高リスク感染者への早期治療、第三に、高リスク者に対する行動制限、第四に、保健所業務から濃厚接触者の調査特定作業、陽性者の全数把握を止めて感染対策に効果のある業務に集中してもらうことです。以上です。


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