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ミックスの手順(太一の場合)

 やっとまともにミックスの事を執筆していこうと思うのだが、まだ具体的なお話は先になりそうである。今回は手順の話をしていきたい。尚、今回は歌物のケースで書いていく。以下トラック。

・vocal
・guitarL
・guitarR
・Bass
・kick
・sd
・hh
・tom1
・tom2
・tom3
・top
・room
・piano

 並び順は正直な話、作業が進んでいくと編集しやすいようにその都度変えてしまうので絶対と言うのは無いのだが、例えばドラムやストリングス、コーラス等のグループチャンネルに振り分けるトラックは近くに並べておくほうが、管理しやすいように感じる

処理は低音から

 人によってはボーカルが主役だから、まずはボーカルを先に処理していくと考える人も居るし、スタンダードにキックの音から処理をするという人も居る。ちなみに私はキックの音から作るようにしている。

キックの音作りが終わったら、ベースの処理

 ここはまた人によって判断が分かれる所ではあるのだが、私の場合はキックの音を作り終えたらベースの処理を行う。ドラムの音作りをしっかり行ってから他の楽器を処理したいという人は多いだろう。

 キックとベースのそれらしい音が鳴っている帯域は63Hz〜125Hzと紹介する書籍が多い。実際その辺りをEQでブーストしてみると、やはりそれらしい音がする(まあ、スラップの音やキックの断面の音はこの音域ではないし、また必要な音でもあるのだが)。美味しい音の鳴る音域が被りがちなのである。

 曲によって、ベースのスラップが欲しいのか、ベースらしさを優先するのか、キックのリズムを大事にしたいのか。正直な話として全部の良いところを取りたくなるのだが、それをやると容量不足となり結局お互いの良い音を潰し合う事になり、結果どちらの良い音も聞こえなくなるというオチに進んでしまう。この辺りはマスキングの話で執筆していきたい。

 これらの方向性をこの時点で決めておきたいという事もあり、キックとベースの住み分けを行う為に、私は一度キックの音を処理したらベースの処理を行う事にしている。

スネアの音を処理する所から、キックとベースを鳴らす

 スネアを処理し始める頃には、キックやベースを鳴らしながら、時にはスネアのみで鳴らしたり、帯域被りを考えながら処理をしていきたい。また、ここからハイハット、タム、クラッシュとライド(TOPにマイクを立てている場合はそちらを)、そして最後にルームマイクの音の処理を行う(打ち込み音でルームマイクの音が無い場合もある)。

 この段階で一度、ドラムのパンニングと音量バランスをある程度揃えておく。理想はグループチャンネルのドラムを調整して、ドラム全体の音量を調整出来る様にしておくと楽なので、ドラムトラックは基本的にグループチャンネルに振り分けるのだが、ほぼ間違いなくギターやシンセ、ボーカルが入ってきた頃には個別の調整が必要になる事は頭に入れておいてほしい。

ギターの音の処理

 この辺りから、帯域問題を本格的に考えて処理を行なって行きたい。ギターは一番音作りの影響を受けるパートであり、一番音作りに対して揉めるパートでもある。バンドマンであれば恐らくあるあるでは無いだろうか?事実、バンドのスタイルというか、方向性というか、その辺りがハッキリ出てくるパートなので無理もないのだが、出せる音域には限りがあるので、住み分けのルールの上では、ルールに従って頂くしかないのである。ルールを破れば誰かが被害を被る、最悪全体的にパッとしない曲になってしまう。

 考え方として、楽器にはそれぞれ一番その楽器らしい音域というのがあり、そこを出す事が出来れば、ミックスの7割ぐらいは上手くいく。さらに、余計な所を削れると8割ぐらい仕上がる。案外そんなものである。それが出来たら苦労はしないと言われてしまうかもしれないが、良いミックスの出来るエンジニアや作家はこの足し引きを計算して混ぜていく事が出来るのだ。

 いつかEQの話をする時に詳しく書いていくつもりである。

シンセやピアノはボーカルより前に処理をする

 この辺りになると、中音域から高音域に属する楽器、或いはその音域を演奏する楽器の処理が始まる。ベースやギターの音作りが正しく出来ていると、ある程度纏まったサウンドになってくる。しかし、処理を失敗していると、シンセやピアノ、ストリングスの音が埋もれたり、籠ったような音になりがちになる。大体他の楽器の入る場所を埋め過ぎているので、この時点で何をしても音がちゃんと出て感じないようであれば、ベースやギター。場合によってはドラムの音作り、プラグイン、パンニング、ボリューム等を一度見直すようにする。

ボーカルの処理はしっかり行う

 ジャンルによって一番判断を誤ると困るのがこのパートではないだろうか?コンプで潰すような歌にするのか?ダイナミクスを大事にするのか?その一つでイメージも変わるし、後々オートメーションを書く時に影響を与えてしまう。

 大体一段目に軽くダイナミクスを抑えるだけのコンプを挿して、二段目にディエッサーを挿して耳に痛い音を削る。後はEQや再度コンプを挿して音作りをする。

 ちなみに私は色々な方の歌をミックスしてきたが、ボーカルトラックにコンプレッサーを挿さずにミックスを仕上げたのはまだ2曲しかないし、自作曲ではまだ一度もコンプに頼らずに混ぜる事が出来ていない。

 どのトラックもそうだが、特にボーカルはコンプレッサーに頼る場面は多くなるだろう。

各トラックにリバーブを使う

 最近はインサートに直接リバーブを入れる風潮になりつつあるような無いような、そんな音作りの考えもあるようだ。

 何れにせよ、一通りのバランスを取ってからリバーブをかけて行くと纏めやすくなる。この後にボーカルのオートメーションを行うのだが、オートメーションの作業に入る前までには、0dbを超えないバランスを目指しておくと吉。

オートメーションが一番センスが表れる

 何処までも細かく文字単位で書く人もいれば、フレーズ単位のシンプルな書き方をする人も居る。ちなみに私は細かく書くタイプのミックスエンジニアであり、恐らくミックスの作業の中で、一番時間を掛けていると思う。

 少なくとも出だしや、重要なワード、聞こえにくいフレーズ、聴かせたいフレーズは必ず調整を行う。

オートメーション後に、パンニングとボリュームの再確認

 ここまで来たら、0dbを超えていないか、理想のバランスが取れているのかをモニターしていく。作業中にちょいちょい時間を掛けてバランスを取るエンジニアは多いのだが、私的にはこの段階に到達するまで全力の調整は時間の無駄だと感じている。

 結局この段階にまで到達しないと、仕上げが出来ない(しかもマスタリングが控えている)ので、細かく作り込むより、全体が仕上がってくるこの段階で調整をした方が、間違いなく時間も無駄にならないし、結局作り込んだ音は調整を強いられるだろう。

 尚、マスタリング前のここまでで、最近はトラック数にも寄るが、私の場合は4〜5時間で終わる。

 勿論早ければ良いという訳ではないし、ミックスはやはり時間をかければかける程、仕上がりは良くなる傾向にあるのは確かだが、これが仕事となれば、やはりこれぐらいの時間でやれないと、正直フリーの人じゃないと赤字になったり、コンペがカツカツになってしまうのではないだろうか?そして、段々何をしているのか分からなくてなるだろうし、何より耳が持たなくなるだろう。

 一曲の限界作業時間は6時間ぐらいではないだろうか?それを超えたらもう次の日に回したほうが判断力は戻るのではないだろうか?プロでもやはりミックスとマスタリングは別の日にやるという人は多い。

まとめ

 これでもザックリな流れであり、どの楽器にどのプラグインを使うかまでは書けなかったが、ミックスには正解は無いので、これ以上の具体的な事は控えさせて頂きたい。というより、音源によって変わる答えをここに書く事は出来ない為、今後は具体的にプラグインの効果や、楽器ごとの処理例などを執筆して、各自で自分のスタイルを構築出来るような内容を目指していきたい(尤もそれを目指して執筆をしているのだが)。

 また、これはあくまでも私の手を付けていく順番なので、自分なりの手順を探してみてください。

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