今考察するアパレルファッションDX
IT活用が本格化しはじめた事によってファッション業界の産業構造が変わって行く機運が高まっている。業務用IT分野の先端技術は、マーケットや単品規模の大きなものから実用化される傾向があり、建築業界や自動車業界で先行している。そこで今回は、CADシステム活用が先行している建築業界や自動車業界での実用事例を参考に、アパレルファッション業界での将来的な活用を考察してみたい。
これまでの工業製品の3次元CADモデルは、2次元の図面を作ってから3次元の形状を組み立て、CAE(※1)試作シミュレーション等次の工程へと繋がって行くのが主流であった。時に、修正が入ってしまうと関連する2次元の図面から全てやり直す必要があり、非常に手間がかかった。この部分を解決するために最近の建築業界ではBIM(※2)が実用化されている。同様にアパレルファッション業界でもBIMのようなシステムが実用化され、モデリングデータの編集や、様々な属性データが追従した3次元CADで設計された3Dデータが使用されるとCAM(※3)での生産機器のコントロールから、PLM(※4)に必要なデータを組み込んだ企画設計、生産、流通、販売、マーケティング、リサイクルに迄及ぶBOM(※5)データの管理まで可能となる。このBIMの様な3Dモデルデータは、部分的な修正であっても生産から販売まで関係する部分へ広く自動で反映される。クラウドシステム上でサービスや取引を全て運用管理する事が可能になる為、全行程のデーターベースが共有化され、一つのモデルを構成するあらゆるデータが連動編集するシステムが出来上がる。ここまでは現行の、ストレージを共有する事がメインのクラウドシステムの活用であるが、高速通信と併用する事でCPUを共用するシステムに今後は進んでゆくことになる。そうなると、クラウドレンダリングストリーミングのように現場の端末に荷重の高いタスクを、クラウドサーバーへのリモートアクセスとストリーミングによるフィードバックで端末と通信出来る様になり、現場端末のスペックに依存しないハードウェア環境が実現できる。それを全ての現場が同一環境で共有可能となるように整えれば、ハイレベルなデータの運用も可能となるのだ。各工程が連動した運用が進むと、様々な作業や製品、情報の往来に費やす時間と資材の圧倒的な削減になるだけでなく、作業の数値化にも繋がるのでAIの介入も容易になっていく。これまでは各現場の全てに立ち会わなければ、原材料や製品の生産状況、完成流通予想の全体をイメージする事は難しかったが、商品企画段階からバックデータも含めたデジタルツイン(※6)が完成し、それを最終的にECの商品イメージ画像まで展開出来れば一早いプロモーションを促す事も可能になる。そこにブロックチェーンを応用して原料からのトレーサビリティー を担保し、各工程のトランザクション の安全性を消費者まで伝える事を組み合わせると、商品への信頼性やブランディングの向上にも活用出来る。つまり、従来のサプライチェーンは商品企画段階から販売現場でのPOS(※7)データまでの情報は有るものの、一方通行で次の工程に至るデータをバトンタッチして共有しているのに対し、ECのユーザー情報まで含めたデータの回流、逆流も利用出来るサステイナブルなサプライチェーンへ進化していく事が可能になる。
IT業界には既にこのような技術が溢れている。しかし、こうした技術をアパレルファッション業界に安易に持ち込んでも上手く行かない。過去に無いスキルを持った人材の確保を始め、幾つかの課題をクリアする必要があるからだ。CAD設計ができ、デザインもできる、デザインエンジニアと呼ばれる人材を採用することが課題となる。しかしAIによる自動生成ツールとアセット群が出揃えば、ある程度3Dモデリストと呼ばれる人達の敷居も下がるだろう。ここで重要なのは今ディープラーニングで必要な、ユーザーからのフィードバック等のデータの収集や蓄積を初期段階から整える事だ。また、この過渡期では旧来のビジネスの慣習や成功体験を見直す意識改革も不可欠だ。大手ITプラットフォーム運営業態や通信業態等と連携し、業界全体で一つになって進歩させていく施策が必要である。
文責:小畑正好
注一覧(全てwikipediaより)
※1)CAE(英: computer-aided engineering、シーエーイー)は、コンピュータによって支援された、製品の設計・製造や工程設計の事前検討などといったエンジニアリングの作業のこと。[1][2][3]あるいはそのためのソフトウェアやツール等を指す場合もある。計算機援用工学(けいさんきえんようこうがく)[4]とも呼ばれる。
※2)BIM(Building Information Modeling)は 建築物や土木構造物のライフサイクルにおいてそのデータを構築管理するための工程である。典型的には、3次元のリアルタイムでダイナミックなモデリングソフトウェアを使用して建築物及び土木構造物の設計、建設及び維持管理の生産性を向上させる。この工程でBIMデータを作成し、そこには形状、空間関係、地理情報、建物部材の数量や製品エネルギー消費量など特性が含まれる。
※3)CAM(キャム)とは、コンピュータ支援製造(英: Computer-aided manufacturing)の略語。製品の製造を行うために、CADで作成された形状データを入力データとして、加工用のNCプログラム作成などの生産準備全般をコンピュータ上で行うためのシステムである。
※4)製品/商品のライフサイクルを考慮したマーケティング手法のこと。
※5)BOM(英: Bills of materials)とは、製造業で用いられる部品表の一形態である。製品を組み立てる時の部品の一覧と、場合によっては階層構造を表す。製品の見積もり時点から、設計、調達、製造、メンテナンスにまで利用され、多岐にわたる近年のものづくりにおいて、BOMは極めて重要である。
※6)デジタルツイン(英: Digital twin)とは、はさまざまな目的で使用できる物理的資産、プロセス、人、場所、システムおよびデバイスのデジタル複製を指す。
※7)小売業において商品の販売・支払いが行われるその場(販売時点)で、その商品に関する情報(商品名、価格、売れた時間など)を単品単位で収集・記録し、商品売り上げ情報を把握し、それに基づいて売り上げや在庫を管理するためのシステム、または経営手法である。
英語の「Point of sale」の頭文字をとって「POS」と呼ばれる。