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ダンジョン飯の斬新さってなんだろう

最近、アニメのダンジョン飯を見て面白かったので漫画版を最後まで一気に読んでしまいました。他のファンタジーものでは覚えたことのない新鮮さを感じたので言語化してみました。

本記事では、この作品が持つ独自の進行と、その魅力について考察します。

物語の進行における独自性

『ダンジョン飯』の序盤は、通常のファンタジー作品とは一線を画しています。
多くの作品が、主人公に明確な動機付けを与え、その目的に基づいて物語を推進していくのに対し、『ダンジョン飯』はその手法を取っていません。
主人公たちには確かに目的(妹の救出)があるものの、その目的に対する強い推進力は序盤ではそれほど強調されていません。深刻な目的があるのに、主人公達の冒険はノンキなもので、彼らは冒険と料理、食を楽しんでいます。

不思議なグルメ漫画

これについては散々語られていると思いますが、「ダンジョン飯」は魔物を対象にしたグルメもの漫画としての楽しさに焦点を置いています。
私はゲームを普段作っていますが、料理もののゲームは結構難しいと言われることが多いです。
なぜなら、「味を体験できないから」です。料理には「調理する面白さ」はあるものの、同時に「味わう面白さ」もあります。ゲームだと後者が体験しにくいです。なのでそこの再現までは難しい。とはいえ、前者の面白さがあるのでゲームとして成立している作品は沢山あります。
ですがダンジョン飯の場合、料理対象が魔物であり、通常のグルメもの漫画のように味を想像しにくそうで、ダンジョン飯のコンセプトを聞いたとき「面白いのか?」と正直思ってしまいました。
ですが、ダンジョン飯は魔物を我々の現実世界にある料理に似せることで、「どんな味なんだろう」と想像できる楽しさがあります。しかも、普通の料理と似ていながら違う魔物の料理なので、我々の想像力も飛躍します。「普通の料理と似ているけど違う味を想像してしまう楽しさ」もあるのかと思います。

魔物を料理するという困難を乗り越えていく面白さが物語の推進力を生んでいる

また、主人公たちがダンジョン内でモンスターを料理するという行為自体が、読者にとって楽しさを提供します。
「どう考えても食えない」料理の素材としてはあり得ない魔物を、意外な方法で料理として攻略していく過程が、物語の一つの大きな魅力となっており、その障害を乗り越えていく過程が自然と読者を引き込んでいきます。

ダンジョン飯は一見、「グルメもの漫画」のカテゴリに見えますが、ここにはきちんと物語上の主人公の目的とそれに対する障害が設定されています

  •  主人公の目的

    • ダンジョンを深く潜り妹を救出すること

  • 物語上の障害

    • そのための手段として魔物を調理する必要があり、調理が困難な魔物をいかに調理していくか?という困難を乗り越えていく楽しさ

中盤以降の物語の展開と設定の明かし

中盤を過ぎると、『ダンジョン飯』は序盤の軽快な料理アプローチから一転し、物語の背後に隠れていた設定が徐々に明らかになっていきます。
ダンジョンや登場キャラクターに隠された謎や過去が次第に浮かび上がり、物語はより深いテーマへと展開していきます。
この転換により、序盤で展開されていた日常的な雰囲気が、後に「大きな物語」の一部としてつながっていきます。
序盤で感じていたある種物語に対する「お気軽さ」に油断をしていると意表を突かれ、同時に驚きや新しさを覚えます。

特筆すべきは、序盤で提示されていた些細な出来事や日常的な要素が、後半で物語の鍵となる要素として再利用される点です。
これにより、伏線が巧妙に回収される面白さが生まれ、読者にとって予期せぬ驚きや満足感を提供します。
物語の進行がこのように緩やかである一方で、徐々に緊張感を増していくことで、読者はキャラクターや世界観に深く没入することができます。

序盤の動機付けの弱さを逆手に取った楽しさ

序盤で主人公たちに強い動機付けを与えないという手法は、通常のファンタジー作品に対するアンチテーゼとも捉えられますが、その効果は非常に新鮮です。
この「動機付けの弱さ」が逆説的に物語に独特のリズムを与え、序盤の展開を楽しむ要因となっています。読者は、強い目的意識による重圧を感じることなく、軽やかな気持ちで物語を楽しむことができるのです。

彼らは妹を助けなければなりませんが、急いでいません。お気軽です。料理を楽しみながら冒険をしています。まるで我々がゲームを楽しむようなテンションです
フォールアウト4などの作品でも主人公はメインストーリーの目的はありますが、それ以外のサブクエストなどもこなしながら冒険を楽しみます。
こういった主人公達のテンションはどこかゲーム的なリアリティの中でフィクションを楽しんできたゲーマーに刺さるものがあるのかもしれません。

結論

『ダンジョン飯』は、動機付けを強く設定せず、物語の進行をゆるやかにすることで、他のファンタジー作品とは異なる独自のリズムを作り出しています。物語の進行は深刻な主人公達の冒険の目的に対して軽快でコメディタッチで彼らは冒険そのもの、そしてその過程で生じる料理を楽しんでいます。
このアプローチは、料理というテーマを中心に据えることで可能になっており、結果的に新鮮味を生み出す要因となっています。
しかし、そのお気軽さに油断していると深く練り込まれた設定やバックストーリー、壮大な「大きな物語」につながっていく展開に驚きを覚えます。

作品が持つ独特の構成と進行が、読者に新しい体験を提供し、その魅力を際立たせていることは間違いありません。


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