【文語②のおまけ】「ならべり」の品詞分解と接続

「ならべり」か「ならびり」か。助動詞「り」の接続の例外処理

 さきの文語短歌の品詞分解の記事で、調べているあいだに知った完了の助動詞「り」の接続の特殊性についてメモします。これはほとんど自分用のメモです。

言ひ訳をまよひまよひて飲みこみしことをおぼゆる地蔵ならべり

 結句の「ならべり」は、なんとなくの語感でよんでいて、結果的にあってはいたのですが、完了の助動詞「り」の接続が複雑だと言うことを調べて知ったので、記録しておきたいと思います。文意としては「言い訳は迷い迷って飲み込んだことを思い出させる(水子)地蔵がならんでいる」という完了の意味を持たせようとしています。

 「ならぶ」はweblio古語辞典を参照したところ、自動詞「並んでいる」の意味ではバ行四段活用で、他動詞「並べる」の意味だとバ行下二段活用ということでした。ここでは「並んでいる」という自動詞の意味にしたいので、四段活用の方になります。ということは、四段活用の連用形は「ならび」、助動詞「り」につなげると「ならびり」が正しいのか?それにしては、あまり耳なじみがないですね。

 その理由は「り」の接続が特殊だというところにありました。今野先生の本によれば(p.82)、「り」は四段活用動詞とサ行変格活用動詞にしか接続せず、かつそのとき動詞は已然形(か命令形)をとるということです。バ行四段活用の已然形は「なら(れども)」なので、結果的には「ならり」で正しい。なお、同じく完了の助動詞「たり」を使いたいとすれば、「たり」は連用形接続とのことなので「ならたり」となるようです。

「ならべり」は他動詞か、自動詞かの判別

 この規則は、文語短歌作品を読むときには大事なことだと思いました。歌に「ならべり」とあった場合に、自分ではこれが自動詞の「ならぶ」と判別できるかな、ということです。なんとなく、「ならんでいた」ではなくて、「ならべた」と解釈しそうな気がします。

 他動詞の意味での「ならぶ」の場合は下二段活用ということですので、連用形は「ならべ」となります。これに「り」を連結したら、おなじように「ならべり」になってしまうのでは…という心配は、この今野本の説明によると、ないということですね。なぜなら「り」は下二段活用には接続しないからです。下二段活用の場合、完了の助動詞は「たり」一択になるので、「ならたり」しか存在しないということです。つまり、結果物として自動詞的な「ならたり(ならべた)」と、他動詞的な「ならり、ならたり(ならんでいる)」がちゃんと区別される、ということになります。

 ここで一度実例にふれられたのは大きいですが、これは、あと何回か間違えたり迷ったりしないと身につかないように思います。

 余談ですが、学生の時は、こういう例外がやまほど出てくる文法の授業では、「例外が多い」=「不完全」=「くだらない」みたいに感じてたようなことを思い出しました。たしかに物理とか数学にくらべたら例外は多いですよね。今の自分が、当時の自分に向かい合ったとして、その反発をときほぐせる気はしません(そもそも昔のひとが書いたものを読めるようになりたいという動機自体がありませんでしたが…)。が、今こうやって他人の書いたものを読むために言葉を勉強していることについて、よりにもよって英語とか中国語とか「役に立つ」言葉でない言葉に向かいあえているのは、しあわせなことだなと思いました。

「ならべり」の部分の可能性

 最後に、「ならべり」の部分について、記事を書いている間に、ほかにもとれるかたちがいくつかあることに気がつきました。

言ひ訳をまよひまよひて飲みこめしことをおぼゆる地蔵ならべり
言ひ訳をまよひまよひて飲みこめしことをおぼゆる地蔵ならびぬ
言ひ訳をまよひまよひて飲みこめしことをおぼゆる地蔵ならびき

 いずれも、過去ないしは完了の助動詞で、文法的にはおそらく正しいかたちで読み替えたものです。(例えば文法的には「ならびつ」になるとだいぶ正しくないよりになるようであります)。これらのかき分けによりなにが変わるのかについては、正直経験不足で今の自分には分かりません。また少し歌集などよんで考えられればいいと思います。

 それでは今日はここまで。

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