【文語⑧】触(ふ)るのふたつの活用について(ラ行四段とラ行下二段)
前回の推敲パートで形のかたまった、うたの日お題「白銀」の歌ですが、古語にしたため品詞分解をし、結果として修正をしました。すでに書いたとおり、もともとは結句「ふれる」にしたものを、これが古語にないということが分かったためです。
品詞分解
ふりつみ:ふりつむ [動詞, マ行四段, 連用形]
て:て [接続助詞, 連用形接続]
やがて:やがて [副詞]
熱き:あつし [形容詞, ク活用, 連体形]
に:格助詞
ふれる:!口語!ふれる [動詞, 下一段活用, 終止形]
→ふる:触(ふ)る [動詞, ラ行下二段(またはラ行四段), 終止形]
古語に「ふれる(触れる)」はありませんでした。あるのは「ふる(触る)」です。しかもやっかいなことに、weblio文語辞典で調べたところ、「ふる」には、同じ自動詞的用法でラ行四段とラ行下二段のふたつの活用形態があります。うたの日の推敲のぎりぎりのタイミングで出会うべき単語ではないですね…。いずれにせよこのままでは字足らずです。とりあえず可能そうな形をざっと書き出します。こういう候補の列挙はこの一ヶ月で早くなりました。
いや。活用がふたつある意味を分かってないと、候補が多すぎて手に負えませんね。ひとまず、うたの日は、時間がなかったので、違和感の少ない文⑦完了形の「ぬ」でいきました。ただ、ちょっと不完全燃焼なので、「ふる」の活用についてと、連体形終止について、調べたいと思います。
「触る(ふる)」のふたつの活用について
weblio古語辞典によると、「ふる」の二つの活用と意味は以下の通りです。weblioさん、いつも大変お世話になっております。
歌意としては「(かるく)ふれる」であるので、いずれの活用形でも問題なさそうにみえしたが、活用形を列挙するとラ行四段活用の音はあまり聞き慣れませんでした。
この活用の違いを理解するひとつのヒントとして、今野寿美さん『短歌のための文語文法入門』の下二段活用動詞の項に、以下の記述がありました:「下二段活用の文語動詞は、口語になるとすべて下一段活用に転じた。」。ここで例として挙げられているのは、「上ぐ」→「上げる」、「得(う)」→「得る」、「受く」→「受ける」などです。この形に乗っ取ると、口語の「触れる(ラ行下一段活用)」の原形を、古語の「触る(ラ行下二段活用)」と見ることができてしっくりきます。つまり、下二段活用の方は、比較的類型もおおく、口語と文語の関係を類推しやすいために馴染みやすいと感じたのだと思います。
一方の、四段活用の「触る」はと言えば、口語の「触れる」との関係性が希薄です。もう少しネット上で情報を探してみたところ、四段活用の「触る」は、下二段活用の「触る」の古形だという記述を見つけました。石川直樹『<ふれる>ということ 一根源的差異化の出来事ー』[※1]という文献、これ内容自体も面白いんですけど、序文の辺りに古形だという言及があります。weblio古語にも四段活用の方には「◆上代語」とありましたし、用例も万葉集でしたから、そういうことなのでしょう。
したがって、活用の変遷としては、古語の四段活用→古語の下二段活用→口語の下一段活用となり、私はおおもとになじみがなかったということのようです。自分自身の歌を、あまりなじみのなさすぎる古語で詠むつもりはないので、今回下二段活用の方を採用したのはよかったと思います。ただ、万葉集を読もうとおもったら、普段下二段活用で覚えている動詞が四段活用で出てくる可能性があるということは勉強になりました。
長くなってしまったので、連体形止めについては、記事を分けて書こうと思います。
[※1] 埼玉大学紀要 教育学部,56(2):37-47(2007)(https://sucra.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=17384&item_no=1&attribute_id=24&file_no=1)
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