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江戸前エルフを語る #1

2023年春に放送されていたテレビアニメ「江戸前エルフ」。月島を舞台にした、エルフの御神体と女子高生の巫女を主人公にした日常系コメディテイストのほのぼのしたアニメだ。

たまたまアニメ第1話を見てすぐに好きになり、ラジオの存在を知ってさらにハマり、時を置かずして原作の漫画を全巻揃えた。

僕の考える良いアニメの条件は、違和感がないこと、音楽が良いこと、次も見たいと期待させてくれること。江戸前エルフはその全てが高いレベルで満たしてくれる作品。今のところ冬に放送していた「とんでもスキルで異世界放浪メシ」と並んで今年のトップアニメだと思っている。

基本的に1話完結型でとっつきやすく、キャラクターの造形が綺麗で丁寧、江戸〜昭和〜平成のサブカルに対する小ネタが豊富かつ細かく、何回見返しても飽きない工夫が施されている。
良いところを探せば尽きないが、まだ江戸前エルフを見たことがない、という人はぜひアニメ第1話を見てほしい。
この記事を書くにあたって第1話を見返してみたが、江戸前エルフの物語、良さが全て詰まっている。余計なことを言わずとも、1話を見てもらえれば、好きな人は好きと思ってくれると思う。

蛇足的にもう少し江戸前エルフの魅力を掘り下げてみたいので、第1話のオーディオコメンタリー風に語ってみたい。


・アバン
「巫女よ、巫女よ」
これが全話を通して、エルダのテンプレの掛け声になる。静謐な空気感、厳かな声。しかし直後のエルダの横顔で耳がぴょこぴょこ揺れる。威厳はすでに怪しい。

「掛けまくも畏き高耳比売命。御君の巫女はここに」
小糸登場。ハリがあって、高めで特徴のある声。テンションが上がると少し裏声になる。一度耳にすると忘れない。小糸の声は尾崎由香さんしかいない、そう感じさせる奇跡のキャスティングだとつくづく思う。

「我にレッドブルを捧げよ」
エルダの名ゼリフ。エルダがここでどういう御神体なのか完全に分かってしまう。ダラダラしたいエルダとちゃんとさせたい小糸のお決まりのくだり。ふにゃふにゃしたエルダの話し方が最高。エルダと小糸、二人のキャラと関係性が大体どういうものか分かったところへイントロ。この入り方が早過ぎず遅すぎず、いつ見ても完璧。

・本編Aパート
「東京都中央区月島〜祀られたる御神体は、異世界から召喚され、すっかり引きこもったエルフでした」
そのセリフは全話通じて冒頭の決めセリフ。すっかり引きこもったエルフでした、が、毎回違うトーンで語られるため、そこも聴きどころ。

「私エルフだし、ご利益ないけどな」
神事のシーン。ラジオのサブタイトルになったこともあり、知ってる人にはお馴染みのセリフだが、本編登場シーンは数少なく、結構サクッと話している。気合い入れて神事しないとな、に続くセリフだからこそ生きてくる。ところで、神事の最中、エルダは御神体だから上座に座ってる描写があるが、よく考えると生きてる御神体って現実にはいないわけで、座ってるだけの本人は退屈かも。

親友こまちゃん登場シーン
はつらつとしていて、気風が良い声。たびたびイケメン発言をして小糸とエルダを翻弄させる。アニメでは収録できなかったが、こまちゃんが母親を亡くした小糸のことを心配して高耳神社に神頼みした回想シーンは漫画の神回の一つ。

「ハード渡しときゃソフトはうちで買わざるを得ないだろう」
シマデンのばあちゃん登場。小糸のことは「こいちゃん」と呼ぶ。この場面の会話は江戸前エルフの世界観をよく表している象徴的な場面だと思う。
シマデンさんはエルダの御用電器屋さんみたいな仕事をしてて、ゲーム類にも詳しい(FF7エアリス生存ルートがないことも知っていた)。エルダが人見知りで出不精なことを巧みに商売に繋げている逞しさも見え隠れする。

「みーんなエルダが大好きだからやってるだけさ。ここいらの人間は生まれた時にエルダに参拝するからねえ」
「やっぱし変わらないものがあるってのは安心するよ」
江戸前エルフのあたたかい世界観と不老不死であるエルダが背負った宿命をこの2つのセリフがよく表している。変わらないエルダと変わって行く(生まれ成長し老いていく)街の人々。あたたかい言葉ではあるが、そこにはいつか別れの時が来るという一抹の寂しさが含まれている。
シマデンのばあちゃんは原作よりも登場シーンが多い。アニメ作品としてより大事にしていきたいと制作陣が考えているキャラクターだと感じている。話し方一つにも下町っ子らしい気風の良さがある。個人的には「このあたり」を「ここいら」にしているところがざっくばらんで好きな言い回し。
原作ではヨーグルト作りにまつわる場面で拗ねてしまった精霊をシマデンのばあちゃんが慰める名シーンがあり、個人的に2期の制作がとても待ち遠しい。

・Bパート
ゴンゲムプラモ制作中のエルダ
プラモ制作時のみ見られる貴重なポニーテール&エプロンのエルダ。そして気配を察知して動く耳。耳の演出は、この後ヨルデにもハイラにも取り入れられている。

小柚子登場
みんなの妹小柚子の初登場。テンプレの漫符。監督のインタビュー曰く作画ではなく貼り付けらしい。小柚子はアニメでさらに人気に火がついたキャラクターだが、この漫符のテンプレと関根瞳さんの声があったからこそ。

「へー、ロブスターみたいだね」
エルダがエルフの良さをドヤ顔で語っているところにかぶせ気味のロブスター。小糸のストロングスタイルが垣間見える一言。

「だって…どうせ…」
もっと外に出て氏子のみんなにあったほうが良いという小糸にエルダが黙ってしまうシーン。エルダが不老不死で、みんな先に逝ってしまう、という言葉を飲み込んでいると解釈しているが、あえて演出も効果音も大げさにしていることでシリアスになりすぎない演出をしていると感じた。

「住みたい街は代官山だし、好きなお菓子はマカロンだもん!」
「あの人って誰だよ!小糸のバカー!」
お互いヒートアップして泣きながらのケンカ。尾崎さん、小清水さんの泣き怒りの演技がうますぎる…。改めて小糸の支離滅裂なセリフは先代のお母さんと比較されて本当に怒っちゃったんだなって思う。ほのぼのはしてるけど。

「もう泣くな。私がずうっと、そばにいてやる」
アニメ全話で一番泣けて、一番ゾクっときた場面。一瞬男性かと思うくらい低音の、しかし心地よく、そして気品に溢れた声。憧れの白い人のイメージそのまま、でも芯はエルダという絶妙なさじ加減。変幻自在なエルダの小清水さんの演技の中でも特筆の場面。本当に小清水亜美さんは名声優と、聴き惚れるセリフ。

「私と一緒に東京を見て回ろう。私はエルダの巫女なんだから」
変わって行く世界も悪くないよといい、その後同じ目線に立って手を差し伸べてからのこのセリフ。この一言に江戸前エルフの全てが集約されているといっても過言ではない。エルダと小糸、二人の物語がここから始まる。本当の意味での始まり。握手にはしないで、そっと手を握るエルダの仕草がエルダらしくてなんか良い。

白い人がエルダだと分かる
仲直りした翌日、エルダが10年前の白い人だと分かり動揺する小糸と変わらないエルダ。そしてEDへ。OPへの入りと同じく変に溜めない、でも被しもいない、ちょうど良い塩梅の入り。


1話だけでもこのボリューム感。加えて、主題歌まで話し出すと止まらないので、別の機会に語りたいと思う。
だらだら書いたが、第1話は江戸前エルフの全てが凝縮された珠玉の30分。
ストーリー、絵、小ネタ、声、音楽、どの切り口を取ってもレベルが高くて、笑えて、そして感動する。
大上段に構えず、気楽に、でも観る人の心に残る、そんな素敵なアニメである。

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