夢を再び。ファシリテーションルーム9
ーなんのはなしですかー
なんのはなしか、聞かせてください
物語 通称 #なんはなルーム です。
これはスタジアムに打ち上げたジェット風船、その夢の続きのお話 第9話
これまでのお話はこちら
「そろそろ三時ですね。
ちょっとお茶でも用意してお待ちしましょうか。まだ冷たい飲み物の方がいいですね。」
「あ、ちょっと待って下さい。これから来ていただくのは前回ライブにご参加いただいた中のお二人です。そのうちお一人はコニシ課長が直々に宣伝部にお迎えしたNANAさんです。喉には大変気を使われておりまして。冷たいものよりは常温のものが望ましいです。おそらくはそれも持参されていると思いますが。」
「あっ、あのNANAさんですか。」
NANAと言えばソウルを声に載せて童謡からポップス朗読まで幅広い活躍を見せ知らぬものはいないほどである。そのNANAさんをライブになんてさすがSeedさんだ。読む作品は、社内の広報誌がNANAさんが直接目を通して選ばれる。
確か前回のライブでは、そうだ森さん、森さんの出張レポートからだった。たしか雨にまつわるコラムだ。長崎には雨が良く似合う。
そう言う間にガラス扉から二人が入ってきた。
朗読をしたものされたもの、すっかり意気投合して打ち解けている。
「こんにちは。これ長崎のお土産です。」
と森さんが差し出した紙袋をみて
「ああ~、ここのカステラ、ザラメがおいしいんですよねぇ~」
とすこし残る宮崎独特の甘いイントネーションでA小町がまたホロホロと笑う。女子が集まり一気に華やかになったルームの片隅でベルはじっと眉間にしわを寄せて考えている。
「前回のライブはご参加ありがとうございました。本当は皆さんにお会いしたかったのですが、それぞれお忙しいようで。朗読の感想等お聞かせいただけたらと思います。」
それぞれがカステラをほおばりながら、口々にライブについて讃えあう。
A小町も森さんも読まれた感想は「幸せでした~!」のまず一声。
「自分以外の人に読まれることで解釈の違いがはっきり判りますね。」と発見もあったよう。
一方、朗読する側では
「私は朗読をする前に作品を読み込むのですが、そのことで相手の思考や想いが見えて、読むときにも感情が滲み出ている気がします。そうありたいともまた思います。私の勝手な解釈ですけれど。それにこうして作品を通じて相手を知れて交流が深まるのも良いかなって思いますわ。」
縁と今を大事にしてライブ活動を続けるNANAさんが語ると説得力がある。その様子を企画者であるSeedさんが嬉しそうに目を細めて眺めている。
そうだ、メモだ。
「Seedさん、この朗読に関する対談は なんはなルームにメモとして置かせて頂いていいでしょうか。」
Seedさんが皆に目配せをすると、皆、灰原に向かって「いいですよ~。」と笑いかけた。
あああ、尊い。皆と仲良くするA小町も尊い。
PCにブラインドタッチで打ち込みつつ尊い光景を眺め、灰原は議事メモを作り上げた。
「じゃあ、まだ土曜日にライブ出演があるからこれで私は失礼させていただきます。次のライブ朗読は自身でも担当するから今日は皆さんの意見を聞けて有意義な時間だった。皆さんありがとうございました。」
とSeedさんが椅子から立ち上がる。
「森さんは長崎から帰ってきて当分こっちにいられるんですか。』やっとベルが口を開いた。
「それが、福山の長崎スタジアムシティのこけら落とし公演に当たって~。プライベートでまた長崎行ってきます。降谷ちゃん、またね~。」と急いでルームを出ていった。
A小町とNANAさんはこの後ふたりで引き続きカフェに場所を移すらしい。
「みんな、今を楽しんで生きているんだな。」
そういいながら、先程のメモを壁にはり灰原はベルに話しかけた。
「本当ね。過去作品全てを朗読することに気持ちを傾けるより、一つの作品にしっかり心を傾けることに想いを注いだ方がいい気がしてきたわ。」
「あのさ、聞いていいかい。」
「ベルはさぁ、なんで朗読だったんだい。もともとボーカルなのに。」
「そうね。歌を歌うのが好きだったわ。デスボイスがさぁ決まると盛り上がるのよ。観客も私も。でも喉を傷めてしまって歌えなくなった。そんな時にね、むかし、ファンの子にもらったMDを思い出したの。」
そう手紙が入っていたわ。デスボイスでせっかくの歌詞を大事にしていなかったのは私だったの。彼女は私の書いた詩の世界を外に出して声に載せてみせてくれたの。そう思ったら泣けてきちゃって。歌は歌えなくても朗読ならできるわ。
朗読だったら、って朗読を下にみてるわけじゃなくって、声帯を大事にしながら発声できるわ、ってこと。
だからボイストレーニング教室にも通い始めたのよ。まだ、全然、先生や生徒さんたちのいうことほんと全然っ分かんないんだけど、声を出すのは楽しいわ。
それから、少しずつだけど自分が声に出して読んでみたいと思う作品を朗読させて頂くようになったの。
こんな私の企画のように短期間でじゃないわ。
週に1つか2つまで、しっかりノートに万年筆で書き写すの。どんな想いを込めてこの言葉を選んだのかな。どんな語感を大事にして文章にしたのかな、文字を書き写しながら言葉自体とリズムを体に心に沁み込ますの。
その詩と文章に合わせてバックミュージックを選んだりね。
それはそれは幸せな時間なのよ。
ベルは立ち上がってさっき貼ったばかりのメモに視線を落とした。
「私の企画では、参加してくれる方にこんな幸せな朗読体験を味わってもらうことはできないわ。エピソードは作るためにあるんじゃないわね、感動するからエピソードになるのよ。」
「ベル、君は理想を夢見たんだ。でも理想と夢は違う。夢は見るんじゃなく自分で追いかけるものさ。」
「なにそれ。あなたは本当にひとこと多いわ。まぁいいわ。Seedさんにお礼と伝言をお願いね。」
「ああ、確かに預かったよ。じゃあ最初のジェット風船にかける想い、あれをつづった日誌は朗読するんだね。」
「ええ、本当は紫陽花の日誌が気に入っていた水木さんをお誘いしてしまって申し訳なかったけど、この日誌だけは繋げて欲しかったの。引き受けてくれて本当に彼女には感謝しかないわ。私は私のパートをしっかり楽しみながら朗読してみる。まだスキルは全然だけどね。終わったらまたしっかりボイトレ教室で学びなおすわ。」
「いいんじゃないか、ベル。スキルより情熱だ。単発企画だけなんはなルームに掲載しておくよ。かろうじてプロジェクトだ。水木さんにお礼をいうんだな。」
コニシ課長記事 朗読
10月12日(土) 20時以降 各自記事掲載 (ライブではありません。)
#なんはなルーム 灰原
録音音源になりますが今から頑張ります。色々なんのはなしですか?!と皆さんを困惑させるコンタクトを取ってしまってすみませんでした。
またご協力や貴重なご意見も本当にありがとうございました。あともう1話かボイトレ教室番外編で本作終了予定です。