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【2024創作大賞応募作品】はじまりの物語 第一章

あらすじ

ヘビには水を通って天上と地上を自由に行き来することができるという不思議な力がありました。昔はよく旅をしていたのに、今では水辺のほとりに立つ木の見張り番をさせられています。木の下からなにか楽しそうな声がします。この果を取ることは禁じられているのに、そんなこと気に留める様子もありません。ふと、この木の下の者どもと地上に行きたいと思いが沸いてきました。むかしの旅の記憶が蘇ってきます。それは遙か遠い昔はじめてコトバを交わしたかの者と、その血をひくこの者。それは平安といわれる時代。一緒に濃くて長い旅をした。これはそんな旅の記憶のおはなしです。


第一章
第二章
第三章

 


ここは地上のだれもが憧れる天上の世界、天帝といわれる絶対上位の君主が治める理想郷だ。皆が天帝に認められその理想の世界に生きたいと自分磨きに余念がない。より賢くよりスマートに、向上心ある者だけがその理想郷に辿りつく。

 そんな理想郷の片隅にひっそりと立つ木があった。そよそよと風にその葉を揺らし、葉の間から差し込む光は優しく暖かい。木の幹は体を預けるのに丁度よくそこに立ち寄ったものは戻ってこなくなる、そんなうわさまで立つ木であった。うわさになるのはそれだけではなかった。その木はふしぎな果実をつける。赤くてふくよかな弧を描きそっと触れると思いのほか冷たく硬い。その果実を食べると「自己肯定感」を手に入れ上昇志向を捨てるという。みんなが同じ方を向いてこそ秩序が保たれる。この木にやってくる者たちを見張るように天帝は ヘビに仕事を与えた。
 
ヘビは木を訪れる者達を観察する。さらには食べてみるようにそそのかす。果実を食べるかどうかひとつでああでもない、こうでもない。なにかしら理由をこじつけて食べるようとするもの、しないもの、様々だ。天帝のように迷いのない絶対君主をそばで見ている ヘビの目にはその者達が滑稽に映り、いとおしくさえ感じるようになった。
 しかし食べようとしたものは天帝に報告をしなくてはいけない。報告したあとも観察をしなくてはいけない。
報告をうけ捕らえられたものは自分はなんて弱いのかと自分を責め嫌悪する。あの果実に目を輝かせ、どんなに美味しいだろうと想像しときには詩を読み曲を奏で歌い踊るそんな美しい者達がである。

ある時、ヘビは決意をした。
この者達と旅にでるのだ。

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これは『なんのはなしですか 』にまつわる物語⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆


第1章



 そうだ旅に出よう。
 
 そう決意したヘビは以前旅した頃の記憶を思い出す。昔はよく旅をしていたのだ。地上の世界とは 水の奥深くで繋がっている。水の奥深くは天上の世界と地上の世界、どちらでもありどちらでもない。水が繋がっているのか、繋がった空の映し鏡として水に不思議な力が備わっているのか。蛇にとってはどうでもいい話であった。
 湿ってひんやりとした泥の感触、それを十分に楽しんでからするりするりと水の中に入っていく。水面から頭をだして眺める景色が好きだった。しっかりと目に焼き付けて今度は水の底に潜り込む。底のぬかるみを目を閉じたままで進む。次にゆっくり頭を出したときは、もう地上の世界だ。
 地上の世界でも水辺の近くが好きだった。ひんやりとしていて静かで風ににそよぐ木々のせせらぎも心地よい。ああ、そうか、監視の役目で動けない中でもこの木が旅の記憶に連れて行ってくれる。だから木を訪れる者達と旅をしようなんて気になったのだな。そう考えるとここを動けない木というものが少し気の毒に思えてきた。

 ”天上と地上を行き来できる”
 
 
これは紛れもなく ヘビに備わったふしぎな力であった。ヘビが謙虚であれば『与えられた』というのであろうが自力なのか他力なのか、ヘビが ヘビであるということと、その特性はなんら変わることはなかった。つまりはじめから備わっていて頑張る必要がないのである。ヘビはヘビ以外の何者かになろうとも思わなかった。
 
 あくまで 我われは我われ他と交わることはない。

 これは感情においてもそうであった。たまに天帝のようにあれやこれや言ってくるものもいる。そういうときは「呑む」のだ。取り込んで変容したり 同化するのではない。ただ「呑む」そこに葛藤はない。暫くして外に出せばいいだけの話だ。しかし、水辺を訪れる地上の人間たちは違った。むすめを差し出せ、年貢を納めろ、もっと働け。いくつもの災禍を逃げ惑い、逃げ場に困って水辺までやってくる。

 ヘビは草むらに隠れて そっとささやく
 舌をチロチロするほどの ほんの小さなメロディ

 村では話せなかったことを蛇のいる木陰でぽつりぽつりと語り出す。泣くばかりで言葉にならないものもいる。そんな「おもい」も取り出すことができる。これもまた ヘビのふしぎな力であった。
 ヘビは ささやき を続ける。これもまた聞き取ることができない、ほんのちいさなものだったが素直な人間は そのささやきに従った。

 「重い」を外に出し始めた

 ヘビはよしよし、と一肌脱いだ。ここでいう肌は皮である。古い皮を脱ぎすてて柔らかな皮が現れる。新しい皮はよく伸びる。よく曲がりよく伸びる皮を飾るようにウロコがキラリと光る。

さあ、その「重い」を呑んで進ぜよう
いくつもの「重い」を呑み込んだ

 ヘビは水辺を訪れる者の「重い」を呑み込んだ。はじめは ほんの気まぐれだった。語りはじめたものをじっと観察していたら、のどの辺りに黒い固まりがみえた。あの固まりをとってみたい。

 チロチロと舌を出しながら 囁く。届いたか届いてないか、そのぐらいのところで、うつむいていたものがぱっと顔を上げる。ヘビがすっーと深呼吸するように大きく息をすったその瞬間、ぽんっと中から飛び出してくる。それをパクっとひと呑みするだけだ。

 ヘビが「重い」を呑んだあとは皆一様にすっきりとした表情でなぜだか手を合わせたりして 帰っていく。ときには 呑まずに 外に出してやるだけにした。そうしたときには顔も上げずに肩を落としたまま とぼとぼとまた当てもなくどこかに立ち去って いってしまう。

どうやら「受け取り」が大事らしい。

 また「重い」は一様ではなかった。重さも違えば 色や形も 様々だった。喉元にあるものもいれば、胸につかえているものもある、腹に溜まったものは温度まで違っていた。あるとき 夜遅く何人もの男たちが水辺にやってきた。暗くて見えにくいが皆 腹に抱えているようだ。蛇は 男たちに 囁いた。
 
するとドカーン と大きな「重い」が口の中に飛び込んできた。

 その重さと勢いで一気に中腹にまで達したかと思うと、腹の中でも四方に跳ねてよじれ に よじれる。それに熱くて熱くてたまらない。大きな「重い」で膨れ上がった躰を、熱さと勢いで身をよじらせながら空に舞い昇る。 
ヘビは 呑み込んで大きくなった躰が見つからないように姿を見えないようにする力も持ち合わせていたが、この時ばかりはそうはいかない。見られていることにも構わず精一杯の力で高く高く昇っていく。そして口を上に大きく開いたままで今度は全速力で下降した。

「重い」が落下する速さより蛇の躰が下がっていくほうが早かった。
「重い」 は腹の中でぶつかるごとに角がとれて丸く光る大きな玉になっていた。

 男たちは空に立ち昇るヘビをみてこの世ならざるものをみた、と驚き慄きおののき丸い玉がぽかりと宙に現れたのを見て奇跡がおきた、と仰天した。すっかり腹の「重い」もなくなったので奇跡に間違いはなかった。そして町に帰り この奇跡を伝えるのであった。



 その日を境に状況は一変した。

 ひんやりと気持ちの良い水辺で、優しい風に応えるようにそよぐ木の葉、そんな中で過ごす安らぎのひとときがにわかに騒がしくなった。昼夜を問わずあの奇跡の正体をあかそうと、興味本位で立ち入るもの、「重い」がなくなるように「願い」にくるもの、さらには奇跡に正体というものがあるなら留めおき、我が一族の繁栄を長きにわたらせたい、そんな権力者がかけた報奨金目当てに血眼になって探りにくるものもいる。

 そろそろ ここも潮時だ、天上に戻るとしよう。

 その前にあれを取りにいかねば。 ヘビはキレイなものがすきであった。
それを集めて水と光によってキラキラとキラめく様子を眺めるのがなによりの喜びであった。思いのほか長く住み着いてしまったのは「重い」を外に出すたびに出てくるキラキラと光る玉に魅了されていたからだ。
 
これで全部だ。ヘビはキラキラ光る玉を大切にお腹にしまい込んだ。

 そのとき、我とは異なるもののイメージが頭の中に急に流れ込んできた。
そのまま気を失っていたのであろう。白木のいい香りがして ヘビはうっすらと目をあけた。そこは縄が張り巡らされた社の中であった。

 「やあ、お目覚めかい。」
 若い男の声がする。ぼんやりとした視界に柔らかく軽やかにはねた髪の毛が入ってくる。声の主はこちらの状況に構いもせず感心した様子で言った。
 
「本当にキレイな玉に浄化できるんだね。」
「お腹に大事に持っていた玉も預からせてもらったよ」

そこでヘビはカッと目を見開いた。なんだと、あの天上に登っていくかのごとく苦労してできたあの玉をか、

「すごいよね、あの玉!びっくりしちゃったよ」

そうだろうとも、二度とはごめんだが、もう次はないと思うとひときわ大事に思えてくる。ヘビにとって 大切な宝物であった。

「でもね、僕はこっちが好きだけどね」

そういって首から下げた皮袋から取り出したのは少し翠がかったきらきらと光る透明な小さな玉であった。まだ頭が朦朧もうろうとしている。

この目の前にいる青年は ”かの者” なのか





かの者は我が初めて「重い」を取り出した者だ。

水辺にやって来ては変な術を試していた。なんだろうとコッソリ近づいたのだが、こちらを向いて二ッと笑う。
 我ヘビを見て 二ッと笑うだと大抵のものはヒッと驚いて気味わるがり石を投げてくるものもいる。なのに、二ッと笑い、
 「やあ君、こっちにおいでよ。この壺、中はひんやりして気持ちがいいよその蛇体、くねらせて入るかどうかやってみないかい」なんていう。
「なあに、簡単さ、コトバの力を使うのさ。息に思いを乗せてだすのがコトバだよ。表にでたなら見えるから。どんな姿を見たいかコトバにしてみるんだ。」

 かの者が思っていること、我に語りかけてくることは自然と理解できたしかの者も我の思っていることがわかるようだった。わかるのだから、 コトバ の良さなぞ分からなかった。だけど我に向かって 語り掛けるかの者のコトバは 嬉しかった。そういうときの目がとってもきれいですきだった。澄んだ瞳がキラキラと輝く、その中に我が映し出だされているようだった。

 けれども時折しゃべらない事があった。コトバの力を熟知しているがゆえにコトバに現わしてはいけないことに関しても敏感であった。ふと、かの者の喉元に黒いものが見えた。そのせいで明るさが陰っているのではあるまいか、そのものを取ってみたい。かの者はそれを感じでこちらを向いた。

「いいよ君になら。 でもお願いがある。こうつぶやいてみてくれないか。」
  

 これは出せない「おもい」を出せるおまじないだよ、といった。
ヘビは コトバを発してみるのは初めてだったがやってみた。頭の中で思い浮かべる。舌の先が2つに分かれていて聞くようには音が出ない。
それでも懸命に発することをやってみる。何度やっても上手く発声なんかできやしないが、できている姿を思い浮かべた。届けたい、その気持ちを息に載せた。それが通じた。

かの者は、なんのはなしですか、とそのままそこにいてくれるだけでいいんだけどね、といって話し始めた。ヘビははじめてその「おもい」「呑んだ」。そしてかの者がひとしきり話したあとなんの咀嚼もせずに出した。でてきたものはきらきらと光る玉だった。少し翠がかっているのがより透明さを増してみせる。

やあ!なんて事だ。これはすごいね!君みたいなヘビははじめてだ!
「それにすっかり軽くなったよ!」とクシャクシャの笑顔でいった。それでヘビは出したものは「重い」なのだと思った。

かの者は言った。僕の中から出てきた 「おもい」を君が受け取ってくれて出来たこの玉。君にはわるいんだけど僕に持たせてくれないか。

・代々ふしぎな力をもった一族であること
・16才になるときその秘密を伝承すること
・決して人に漏らしてはいけないということ

そんな秘密があったという。
「抱えるには少々重くてね、人じゃない君にならなんて賭けてみたのさ。」
「聞いてくれるかどうかをね。」

そうだ、これは ヘビの本来もつ力ではない、コトバの力なのか。
確かにこの取り出した玉はキレイだ。でもその玉が映り込んで輝く瞳はもっとキレイだった。ヘビはわかったというように、クルクルと体を巻いて頭をぺたんと土につけた。かの者のそばにいるのは気持ちが良かった。他の人間の様には ジャマにはしまい。近くにいれば見せてもくれるだろう。

 「それとね、僕の思い過ごしならいいんだけど君のこのふしぎな力、この玉のことは人間には知られない方がいいと思う。人間は欲深いからね。」
ふっとまたかの者の心に影が見えた気がした。
 「それにね、臆病なんだ、目に見えないものや得体の知れないものをとて  も恐れる。だから君のことを恐れて害をなすかも知れない。君のしたことは誰も聞いたことも見たこともないからね。だから秘密にしておこう。」

 たしかそんなことを言っていたのに、さっき、この者はこんなきれいな玉に「浄化」できるんだね、と申したな・・・

「やあ、やっとこっちを見てくれたかい。さっきは無理やり社に呼んで済まなかった。ああでもしないと人に見つかってしまうだろ。大きな玉をお腹にいれたヘビなんて誰も見たことないからね。」
そういって二ッと笑うこの者は、かの者の血族か、やっと朦朧としていた頭がはっきりしてきた。

 かの者以降、次の者に秘密を伝承するときに首から下げた鹿袋に入ったこの小さな光る石が渡されるようになったこと、そして我とかの者の秘密も受け継がれるようになったと語る。かの者とその子ども そしてまたその子とこの 人は不思議と人でないものと通じ合える。人と人とにおいてもそうだ。この不思議な力は、その感じたことを「名づけ」、「コトバ」にすることでみんなが生きやすくなるように使いなさいと代々教えられていた。

「コトバ」は記すことでより効力を生じる。

たくさんの人が押し寄せて疲れてるだろう。この社の四方には、まじないの文字をはってあるから安心して休むといいよ。また起きたら君としたいことがあるんだ。そういって社の別の部屋に姿を消した。
 ひさかた振りの静かな時間だ。へびはまたゆっくり目を閉じた。目を閉じたらまたかの者に会える気がした。蛇は3日3晩眠りつづけた。




 かの者は医を生業とするものであった。都の外れ草木が生い茂る水辺のほとりに煎じるための薬草を取りにきていた。壺はそのためであったが、なんでも唐ではヘビの仲間を酒につけ滋養強壮のために飲むという。
 慌てて逃げ出そうとするとアハハハハ と陽気に笑う。
「大丈夫 そんなことしないさ、ただ君の毒をたまに頂くかもしれないね。毒で制することができる病もあるのさ。中には人を廃するために使う者も いるが気が知れないね。」
 皮肉なぞいう者ではないが思いあたる人物がいるような口ぶりであった。

 目的は薬草だけではない。かの者は都の表通りを1本裏に入った筋で店を営んでいた。常日頃から子供たちが医術者を怖がらないよう軒先でする手品の練習だ。
「心と体がほぐれるだけでも随分痛みが和らぐからね。今日は運良く君に会えた。どうだい、壺から出てくるヘビの手品は。子どもたちの 笑顔 はいいよ。」

こどもは邪気がなくていい、ただ恐れもまっすぐにぶつけてくる。笑顔を向けられたことなぞ いまだかつてなかった。

「大丈夫だよ、ほら」

まあいい、そんな笑顔を向けられたら付き合ってやってもいいかと思えた。時折やってくる かの者とそうこうして過ごすひとときが楽しみになった。

あるとき かの者がいった。

「一緒に来てくれないか、君のあのふしぎな力が必要なんだ。」

 壺に草で蓋をして隙間から通りを覗きみる。都は争いごとのあとで雑然としていたが人通りが多く活気に満ちていた。路地に入った辺りから、せんせーい、せんせーーいと賑やかに声がかかる。医業だけでなくよろず相談所のようであった。文字にも通じているから命名も請け負っていた。

 人は死ぬと名を残すという。

 かの者はひとの死期も察するようであった、終には叶うことのない願い。「残していくもの 残されるもの、それぞれ悔恨ともいうべき”おもい”。
 それを取り除いてやってはくれないか」

「思い煩いを コトバにすることで恐れを手放す。その力は信じているけど、出したコトバをどこに向けるか、その方向によってかえって人を傷つけてしまう。君が受け取ってくれるなら僕の時のようにきっと上手くいくと思うんだ。」

 名を持たず、天上の世界と地上の世界を行き来するヘビには分かたれることなぞ分からなかった。いとも軽々とその者達の「おもい」を呑んだ。名を残してひとり、またひとりと旅路を終える。

 一緒に過ごす時間が長くなっても、かの者はヘビを名付けなかった。名前は現世に縛るからね。まるで天上のことを知っているようでもあった。

蛇は「重い」を取り出したあとのキレイな小石ほどの玉をときおり天上に持っていくことにした。地上と天上の世界は時間の流れが違う。というより、時を刻んでいるのは地上だけだ。ほんの僅かな間 天上にいったとしても
地上では3日たっていた。少しずつかの者との時間が少なくなっていたがいつも変わらぬ笑顔でいるのでそうとは気づいていなかった。

 静寂に包まれた社の中で、目を閉じて幾つもの記憶をめぐる。
 ヘビの目にはうっすらと涙が滲んでいた。

そちはまだ あのことを根に持っているのか

天上世界の統治者である天帝が記憶に入り込んでくる

 あのこと、、地上で人々の「重い」を受け取り出した玉たち。その置き場所は蛇のお気に入りの水辺だった。水面の上からみるとより一層輝きを増すようだ。目を細めてかの者と一緒に取り組んでいることを誇らしく思った。

 さてと、地上に戻ろう、蛇が水に潜っていこうとしたそのとき体が布ですくい上げられた。すり抜けようと胴体をよじって暴れるが抜け出すことは出来なかった。蛇は天帝の面前に連れていかれた。そうして地上の世界に介入した咎でしばらく天に留めおかれた。

 光る石なぞ天上には存在しない。懸命に伝えようとするが「重い」など天上のものに理解できるはずもなかった。

 そんな中 ひとり また ひとりと生を終えたものがやってくる。
生きている間、「重い」を抱えているものは天上に入ろうとしてもまた地上に下りて行く。しかし ヘビの語る者達は、皆「軽く」天上へ上がってきた。

  善い行いをしたのであるな・・・

 やっと咎が解かれたときにはもうかの者と会うことは叶わなかった。
 すっかり目が覚めた蛇は脳裏に浮かぶ上帝を睨みつけようとした。

まぁ そんな こわい眼で睨むな
この社に連れてきたものはかの者の縁者であろう
その者とここで励むが良い

但しだ、あの晩大きな体で天高く昇る姿を
見られた咎は重いぞ
その者との役目が終わったら、縁は断ち切る
そして わしの仕事を手伝うのだ

 そういって天帝はふっと脳裏からきえた。



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