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はじまりの物語 ⑯ 薬

一方、もう一人の祖父は典薬寮で学んだあと
宮中に医術を施しに参内しつつも
相変わらず裏通りの医師(くすし)として
衆生とともに過ごしていた

父は、母との縁があったとき
境内に住まいを設け薬房も任されるようになった
色々な薬草の芳香が入り混じる
一葉は薬房に入るのもその香りを嗅ぐのも
嫌いではなかった
生来の好奇心も手伝って色や形、匂いで
薬の効能やその作り方を理解するのに
そう時間はかからなかった

薬草が少なくなったら祖父のところに訪ねていって
一緒に川辺に詰みにいくのが楽しみだった
風がそよぎ、水面が揺らめきキラキラと光る
母のいない なんともいえない寂しさも
優しく包み込んでくれるような気がした

宮中とは違って市井のものは身なりが貧しい
貧しさゆえの苦しみを多かったが
あけすけにしゃべるコトバは実がこもっていた
ニコニコと、なんのはなしですか、と聞き上手な
好々爺が一役買っていたのも大きかった

そうそう、薬房には珍しい薬酒あったんだよ

ヘビは一葉の回想をもとにその場にいた人物たちの
想念も含めてイメージを鮮明に受け取っている

そして時々口から出るコトバに反応した

珍しい薬酒
イメージが流れ込んでくる

これがかの者のいっていた例のものか
蛇の仲間を酒につけて視るも無残なその姿に
今まで感じたことのなかった複雑な感情と
いうものを味わった
と酒瓶の中の蛇がうっすら目をあけた
こちらのことが分かるのか想念が伝わってくる

酒というものには不思議な力がある
ふわふわするぐらいがちょうどいいが
決して吞まれてはいけないぞ
そうしてまた目をつむり
ふっと語りがやんだのだった

「重い」を「呑む」ことはあっても
「呑まれる」ことなぞ想像もつかない
酒もそうだが蛇を呑もうだなんて
人間には怖いところもあるものだと
いまさらながら不思議に思う

一葉がいう
ん、酒に興味あるのかい
そうだなぁ特別な法会のときは献上されるかも
しれないね
むかしから神様への供物といえば欠かせないからね

そうだ、上帝は神として畏怖をもって崇められていた
しかし、仏とか法会とかいったいなんのことだ
それに一葉が一心に彫っているあの白木
心に決めたやりたいことと関係してるのであろうか

さあ、今宵はここまでにしよう
そういって一葉は
固い板場に綿が痩せた薄い掛物を二枚広げ
背を丸くして入り込んだ

オ ヤ ス ミ

背中に向かって
久しぶりにかの者と交わしたコトバを呟いた




盛大になんのはなしですか になってきました
ドラゴンボール読みたいです

⑮読んでいただいてありがとうございます

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