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2.ゆらぎと音楽

以前にゆらぎには主に1/f⁰ゆらぎ(ホワイトノイズ)、1/fゆらぎ(ピンクノイズ)それと1/f²ゆらぎ(ブラウンノイズ)があると述べましたが、それらのスペクトルを図にすると図1の左のようになります。ここでスペクトルというのは、ノイズ信号を色々な周波数fの正弦波(三角関数)の重ね合わせと考えた時、それらの正弦波の強さを周波数で分類したものです。もう少しわかりやすい説明は前の記事「ゆらぎの種類」の前半の部分をご覧下さい。

図1

図から分かるように普通のグラフでスペクトルを表すと、ピンクノイズとブラウンノイズの違いが分かり難いですね。そこで通常は図1右の様に縦軸・横軸共に対数目盛を使ったグラフで表します。対数目盛というのは軸の間隔が等間隔ではなく、例えば1と10との間隔と10と100との間隔を同じとするように桁数ごとに区切られた目盛のことです。するとそれぞれの違いが明確になるばかりでなく、グラフが直線となってその傾きが0、−1、−2となってゆらぎを表す周波数fのべき乗と一致します。

1/fゆらぎは、1925年にアメリカのジョンソン(J. B. Johnson)という人が真空管に流れる電流の雑音を調べている時に、最初に発見しました。その後様々な現象でこのゆらぎが見つけられました。例えば、そよ風の強さ、小川のせせらぎや波の音、ろうそくの炎の揺れ方、電車のゆれ、ヴィバルディの「四季」、バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」、「南部牛追唄」など主として人に快適感を与えるものが多いのです。その他にも気温の季節変動や脳波のアルファ波の周波数のゆらぎなどもああります。それらは下の参考資料2に示してあります。すぐ下の図2は心臓の心拍間隔(心電図)のゆらぎで、やはり1/fゆらぎを示しています。

図2

0.2-0.3Hz辺りに見える大きなピークは呼吸に由来した副交感神経の影響だと思われます。これを除くとほぼ心拍間隔のゆらぎは1/fの様相を示していますが、年齢を重ねたり心臓疾患があると低周波部分は1/fの直線からずれる様になります。

次に本日のテーマの「ゆらぎと音楽」に移ります。

図3

上の図はホワイトノイズ、ピンクノイズ、ブラウンノイズに従った乱数で音符の種類(音の長さ)を選び、楽譜上の位置を別の乱数で決めるという方法で人工的に作曲された音楽です。実際に何らかの楽器で演奏してみると分かりますが、音楽らしく聞こえるのはピンクノイズを使ったものだけです。

ホワイトノイズによるものはバラバラの音の連なりで、聴いていても次の音を全く予想ができなくて感情には訴えません。それとは逆にブラウンノイズのものは、次にどの様な音が聞こえるのかほぼ予想ができて、全然面白くありません。一方ピンクノイズによるものは、次の音を予想ができるようでいて予想通りでもないというように、次に来る音を楽しむような意識が生まれてきます。

これらの事は脳への負担という観点からも説明できます。次の音を全く予想出来ないバラバラな音を聞いた場合、それらの音の関連性を何とか見出そうとして脳はフル回転しますが、バラバラの音であれば関連性は見出せなくて疲れ切ってしまいます。また次の音を容易に予想できる場合には、脳は大した働きをする必要もなくて退屈してしまします。この様に将来への予測困難性が大きすぎても小さすぎても、感情には訴えません。程よい予測困難性こそ脳にとっては快適なのでしょう。あるいは図2の心拍間隔のスペクトルも1/fゆらぎをしている様に、人の生理的ゆらぎと同期することが程よい快適さに繋がるのかもしれません。

同じ様なことが注意力についても言えます。雑踏での意味のない雑音に注意を傾けるのは、脳の負担が大きすぎて長続きしません。しかしその中にもう少し負担の少ない知り合いの声が混じっていれば、脳の処理はそれに集中して雑踏中でもその人の声を聞き分ける事ができるのです。逆に余りにも規則的な音に出会うと、脳の処理負担は殆どなくて注意しなくなるのです。柱時計の「チクタク、チクタク……」という音は耳にはちゃんと聞こえているはずですが、気が付かないという経験をされた方は多いのではないでしょうか。

夜眠れない時に、「ヒツジが一匹、ヒツジが二匹……」と数えると眠くなるそうですが、これも脳の処理負担を軽くして眠気を誘う方法なのでしょうね。

ファー〜〜!私も眠くなってきました。次回はいよいよ1/fゆらぎのモデルについて書きましょう。

参考資料

  1. J. B. Johnson, Phys. Rev., 26, 71 (1925), https://doi.org/10.1103/PhysRev.26.71

  2. https://jokyoji.wixsite.com/website





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