インクルーシブメイカソン
今回は、私たちが2018年から日本各地で開催しているイベント「インクルーシブメイカソン」についてご紹介します。
インクルーシブメイカソンとは
「メイカソン」とは、「メイク(Make)」と「マラソン(Marathon)」を掛け合わせた造語で、「一定時間集中して物づくりをするイベント」のことです。私たちの「インクルーシブメイカソン」は、障害のある方の暮らしを便利で楽しくする道具を、使う人もチームメンバーに据え、3D プリンタなどのデジタル工作機械も活用しながら行うイベントです。似通った暮らしの困難を持つ世界中の人が使えるよう、つくった道具のデータをオープンソースにすることが一つの特徴です。
全ての参加者が「世界中の誰かのために、目の前の人のぴったりをつくる」という共通の目標を持ち、共に創る体験を共有することで、インクルーシブな社会と未来への希望を作ることに、「データ」と「ラピッドプロトタイピング(その場ですぐに試作と試用を繰り返すこと)」を活用します。
ファブラボ品川のディレクターである林が、TEDxGotanda でのプレゼンテーションでも、インクルーシブメイカソンについて紹介と説明をしています。
メソッド
以下がインクルーシブメイカソンのプロセスです。
障害のある「道具を使う当事者」の方を、ここでは「ニードノウア(ニードを知る人)」と呼びます。
「ニード」は、「今、できないけど、できるようになりたいこと」。その背景や状況を、全員で丁寧に理解することからイベントは始まります。
1〜10を、通常、1日〜3日間で実施します。
1. コンセプトの説明と事例紹介
2. ニードノウアとニードの紹介
3. チームビルディング
4. ニードを深める
5. ニードを解決するためのアイディアをデザインする
6. 3D プリンタなどのデジタル工作機械を活用して、すぐにアイディアを形にする
7. 試行錯誤を繰り返す
8. 製作プロセスとデータをインターネット上で記録し、オープンソースにする
9. 記録を用いて成果を共有する
10.(必要に応じて)成果を表彰する
1. コンセプトの説明と事例紹介
参加者全員のコンセプトの理解が非常に重要です。(よくある)商品開発の場ではないことを理解していることが必要です。
2. ニードノウアとニードの紹介
それぞれのニードは、可能であればチーム内だけでなく、イベント参加者全員で聴く時間を設けましょう。最後の成果発表が盛り上がること間違いなしです。
3. チームビルディング
チームはなるべく多様なスキルや背景を持った仲間と結成しましょう。できれば作業療法士などのセラピストが2人いると、「身体に負担が少なく、使いやすい道具」に早くたどり着くことが出来ます。チームビルディングの際に、リーダー、サブリーダー、記録係、発表係などを決めて進めます。
4. ニードを深める
もう一度、チーム内でニードを聴いて深めましょう。「できない」背景だけではなく、「できる」ことが、ニードノウアの体験をどのように変化させるかにも想いを馳せてみましょう。
5. ニードを解決するためのアイディアをデザインする
アイデアスケッチに挑戦しましょう。情報科学芸術大学院大学(IAMAS)で開発された、「アイデアスケッチシート」を使います。
6. 3D プリンタなどのデジタル工作機械を活用して、すぐにアイディアを形にする
出たアイデアは、遠慮なくすぐにその場で形にします。なるべく早く手に取れるよう、3D プリンタなどの機器は複数あるとスムースです。誰でも即興的にイメージを形にできるよう、紙粘土や段ボールなども用意しておきます。
7. 試行錯誤を繰り返す
ラピッドプロトタイピング(素早く試作と試用を繰り返す)のプロセスです。アイデアや修正点が、すぐに形になり、手にとって試して見れることで、ニードノウアの気持ちが更に引き出しやすくなると同時に、チームの一体感が強まります。
8. 製作プロセスとデータをインターネット上で記録し、オープンソースにする
開始時に、チームの中で「記録担当」を決めます。慶應義塾大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボが運営する、ものづくりとものがたりの統合プラットフォーム「Fabble」を用いてイベント中に記録をしていきます。Fabble は、画像やテキストのみならず、動画や 3D プリンタで出力可能な STL などの各種データもアップロードすることが可能です。
9. 記録を用いて成果を共有する
上記、Fabble の記録を活用して、チームごとに成果を発表します。道具の実演やチームでのパフォーマンスを入れると、盛り上がります。
これまで開催したインクルーシブメイカソン
チームが記録した Fabble のリンクはそれぞれ、下記になります。
第1回
日程:2018年9月29日 (土)
会場:おおたファブ
・『MESHタグで作る』活動スイッチ作り 肉球編
・片手で料理が楽しめる道具づくり
第1回の作品の1つは、「FAB 3D CONTEST 2018 」にて 特別賞を受賞しました!
第2回
日程:2018年12月22日 (土)
会場:おおたファブ
・電動車いすの電源ボタンを押しやすくする
・ハンズフリーの杖カバー
・シークレットじゃないブーツ
第3回
日程:2019年3月24日 (日)
会場:横浜コミュニティデザインラボ+ファブラボ関内
・チケとん
・床に落としたものを拾うマジックハンドの代替
・Universal wheelchair HOOK
・PCのキーボード入力を快適にしたい!
第4回
日程:2019年6月29日 (土)
会場:IID 世田谷ものづくり学校
・キーボードポインター「チンカマ」と「ユニコーン改」
・『足で切れるぞい』プロトタイプ?
・包丁
・Nabe Hack Project: EZ Slider(まな板の拡張)とSukui-no-Te(おたまの拡張)
・自分仕様にカスタマイズした電動車いすのコントローラーカバー!3Dプリンターで作りませんか?
第5回
日程:2019年9月14日 (土)~15日(日) 2DAYs
会場:奈良県香芝市 Good Job! Center KASHIBA《グッドジョブ!センター香芝》
・かっこよくギターが弾きたい!
・マスカラを綺麗に塗りたい!!
・胡粉塗りの作業を5分で!ー張り子を作る道具がつくりたい!!
・2WAYsナースコールプロジェクト!
第6回
日程:2019年10月20日(日)
会場:東京都品川区品川産業交流支援施設(SHIP)
・牛乳パックの注ぎ口を開けたい
・Speaker & Fitting
・手袋をスムーズにはめたい!
・文字を重ならずにかけるようになりたい!
第7回
日程:2019年12月21日(土)
会場:東京工科大学 蒲田キャンパス
・東京都作業療法士会会長田中勇次郎賞
「音以外でニードを伝える道具」
・東京工科大学作業療法学科賞
「スマートフォンを安全にしっかり把持できるための道具」
・ファブラボ品川賞
「飲み物をこぼさず運ぶ道具」
・ソシオネット株式会社賞
「車椅子でもぶれずに撮影できるための道具」
・ICTリハビリテーション研究会賞
「足関節サポーター」
考察 - つくることで、つくる -
ウイーン生まれの思想家、イヴァン・イリイチ(Ivan Illich,1926-2002)は、その著書『コンヴィヴィアリティのための道具』の中で、産業主義的な道具の支配による危機から逃れなければ、一部の人は一時的に利益を得て栄えるが、やがては全てが滅びると説いています。
「人々は自分のかわりに働いてくれる道具ではなく、自分とともに働いてくれる新しい道具を必要としている。 ー 各人がもっているエネルギーと想像力を十分に引き出すような技術を必要としているのだ。」
「よりよい知識への過剰信頼により、人々はまず自分の判断に頼ることをやめ、ついで自分たちの知っていることが真実かどうか教えてもらいたがる。’よりよい意思決定’への過剰信頼はまず、人々の自分で決定をくだす能力を狂わせ、ついで、自分たちは決定をくだせるのだという彼らの信念を掘り崩してしまう。」
インクルーシブメイカソンの取り組みは、「YouFab Global Creative Awards2019 テーマ:Conviviality」にて、FINALISTを受賞しました。
ともにつくる<作業>を通してつくっているものは、「道具とそのデータ」に留まりません。
「自分たちで工夫して、作れる・良くしていけると信じることができる」
を、インクルーシブメイカソンではつくりたいと考えています。
これから開催するインクルーシブメイカソン
次回のメイカソンは、オンラインで、約1ヶ月間かけて開催予定です。
日本全国からお申し込み頂けますので、是非ご参加ください。
2020 TOMメイカソン TOKYO (オンライン開催)
日程
1月23日(土) 13:00-16:00 アイデアソン
16:30-18:30 体験学習会①
1月30日(土) 13:00-15:00 体験学習会②
15:30-17:30 体験学習会③
2月06日(土) 13:00-16:00 中間発表
2月27日(土) 13:00-18:00 成果発表会/アフターパーティー
※ 期間中の平日夜(20:00-22:00)に、自由参加のフェスおよびお悩み相談会を複数回開催予定
場所(開催形態):オンライン開催
参加費:5,000円
お申し込み方法:下記フォームよりお申し込みください(2021年1月9日まで)
https://forms.gle/hWCN4TQS4GftL4GW6
参加募集枠:40名(4~5チーム:障害当事者含む)
主催:2020 TOMメイカソン TOKYO 実行委員会
共催:慶應義塾大学SFC研究所ソーシャルファブリケーション ラボ/
一般社団法人ICTリハビリテーション研究会/ファブラボ品川
協賛:ユニチカ株式会社/ソシオネット株式会社/SchooMy/Primal.Design.lab
協力:TOM global/NPO法人ICT救助隊/エイチタス株式会社
後援:一般社団法人日本作業療法士協会/一般社団法人東京都作業療法士会/品川区/大田区
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