見出し画像

【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 5/27号」

米経済は強いのか、弱いのか
23日は特に明確な悪材料が出たわけではないが、NYダウ600ドル安の思わぬ下落となった。印象では前日の「年内利下げなし」観測を織り込み、27日のメモリアルデー休場前の換金売りが早めに出た可能性がある。
元々”セルインメイ”の季節だが、NYダウ4万ドル乗せで搔き消されていた。前日好決算のエヌビディアは9%高と一人気を吐いたが、ナスダック指数も0.39%安と売りに押された。

エヌビディアの時価総額は2兆5500億ドル、アップルの2兆8700億ドルに迫った(1位はマイクロソフト3兆1700億ドル)。年初からの上昇率110%近く。23日の同社株価は9.3%高、翌24日も2.5%高、その結果24日のナスダック指数は1万6920と史上最高値を更新している。

資産運用会社ダブルラインのガンドラックCEOが「高金利圧迫で米経済は年内にもリセッション(景気後退)に陥る」と述べたことも売りを誘った可能性がある。「景気後退を示す兆候は多い」とし、「物価上昇観よりも景気後退感の方が強くなっている」とした。企業の債務不履行が急増すると予想し、高リスク社債を避け、米国債に投資していると述べた。

20日、レストランチェーン・レッドロブスター、21日にLNG輸出プラント建設のザカリーHD(カタールとエクソンのLNGプラント建設が停止、千代田化工建設が影響を受けている)が相次ぎ破産法申請。かねてから不振の商業不動産関連で、AAA格債で損失が発生、FRBは10日発表の半期報告書で、商業用不動産ローン延滞率上昇を警告した。

23日の米株下落を牽引したのは(NYダウは605ドル安、1年3か月振りの1日の下げ幅)、総合PMI(購買担当者景気指数)が54.4(前月は51.3)と22年4月以来の高水準で利下げが遠のいたとの見方によるもの。個別銘柄ではボーイング7.5%安、テスラ3.5%安など。ボーイングは中国向け航空機の引き渡しが追加文書提出要求でできなくなっており、1-4月の納入機数はエアバス203機に対し107機に留まる。
米市場は28日から決済期間が1日短縮され、「取引日後1営業内」に変更される。31日にはMSCIの四半期銘柄入れ替えが控える。需給調整的な側面もあると考えられる。

エヌビディア好決算も押し上げ限定的か
22日のNY市場引け後に発表されたエヌビディア決算は、市場予想を上回り,株式分割(1株→10株)も発表し、約6%高。既に、年初来90%以上上昇しており、利食い圧力も強いと見られるが、当面AIブームを支えると見られる。稼ぎ頭のデータセンター部門の第一四半期(2-4月)売上高は前年同期比427%増の260.4億ドル(市場予想213.2億ドル)。ハイテク大手のデータセンター関連の活況を裏付けた。第2四半期売上高見通しは280億ドル±2%(市場予想266.6億ドル)。脅威的な調整後粗利益率は第1四半期の78.9%から75.5%±0.5%とやや低下見通し。

22日の時間内の米株はエヌビディアの決算発表前の警戒もあって軟調だった。圧迫要因となったのは、米GSのデービット・ソロモンCEOが「FRBは年内利下げしない」との発言。「これから、より粘着的なインフレが始まろうとしていると思う」。この日公表されたFOMC議事録(4/30-5/1)で「ディスインフレ確信も、予想より時間がかかる」としたことと符合した。市場の大勢は「年内利下げ開始」で変わっていないが、年2回は消えつつある。

米GSは「さらなるドル高」を予想する。6月にも、カナダ、英国、EUの利下げを想定している。その流れか、22日の東京市場で新発10年物国債利回りが関門の1.0%(2013年5月以来)を付けたが、円高に振れなかった。一部、モルガン・スタンレーのアジア地区CEOが「日米金利差縮小から円相場は140円台に近付く」との見解を表明したが、市場は反応しなかった。

24日は日本の4月CPI(消費者物価指数)が発表された。総合CPIは前年同月比+2.2%。関心は+2.8%程度が見込まれるサービス価格に集まっていたが。1.7%の上昇で前月の2.1%からプラス幅が縮小した。

衝撃ニュースとなったのは6月電気料金の大幅引き上げ。政府の補助金終了、再エネ賦課金引き上げなどで、前年同月比で、低かった関電が+46.4%,九電+43.8%,中部+25.1%、東電+20.9%などが続く。
猛暑予想もあって、消費マインドを圧迫、6月所得税減税効果を吹き飛ばすと見られる。この先には、ガソリン補助金廃止でリッター200円乗せも噂されている。岸田政策批判が一段と強まる恐れがある。日銀は6月か7月にも小幅利上げ姿勢に動くと見られているが、当面、何処まで容認するか注目される。

ドル円は156円台後半から157円の攻防となっているが、膠着感も漂う。どちらにも動く可能性のある不透明感が株式市場の重石になっている可能性がある。一応、半導体関連中心の戻りが期待されるが、勢いを欠く可能性が考えられる。

中東情勢注視しつつもエヌビディア決算期待
20日、イラン大統領と外相のヘリ墜落死、サウジ国王の療養入院(サウジ皇太子の訪日ドタキャン)で中東情勢に模様眺めムードが広がったが、今のところ影響は出ていないようだ。ヘリ墜落は悪天候・濃霧によるものと見られ、米国務省報道官が「イランから支援要請、輸送問題で協力できず」と明らかにしたこともあって、政治的緊迫には至らなかった。イランは5日間喪に服し、50日以内の大統領選実施に向かうが、ハメネイ師指導体制に変化はないと見られている(ただし、85歳で後継問題が燻る)。

先週最大材料だったエヌビディア決算。
22日の発表前から既に前掛かりになっていた。週明け証券会社3社が目標株価を引き上げたことで20日の同社株価は+2.96%、SOX(フィラデルフィア半導体)指数は+2.15%。つれてナスダック指数は終値ベースの最高値更新。ただし、AI関連は利用が急速に拡大し始めるとともにトラブルも急増しており、やや注意感も必要と見られる。20日のNYダウが0.49%安となったのは、JPモルガン4.5%安が主因。ダイモンCEOが自社株買いに消極姿勢を示したことが失望を招いたようだ。

下半期に向けての証券会社の相場見通し修正が相次いでいる。ドイツ銀は年末S&P500指数予想を5100から5400ポイントに引き上げた。4500ポイントへの下落も有り得るとしていたモルスタ。ストラテジストは弱気撤回、来年6月までに5400ポイントとした。相場見通しは後追い的であまり意味はないが、暴落論なども翳を潜めている印象だ。その分、売りポジションが圧縮されていると思われる。

農林中金が7800億円の最終赤字見通し(ダイヤモンド・オンラインより)

農中ショック、大幅損失処理、市場圧迫要因だったか
先々週末、ダイヤモンド・オンラインがスクープ。「農林中金が7800億円の最終赤字見通しで、農協などに増資に向けた協力要請、5年間は無配の見通し」。農中は巨額資本の割に有力融資先がなく、外債運用傾斜で知られる。

とりわけ、CLO(ローン担保証券:複数のレバレッジドローンを束ねた商品でリーマン・ショックで問題となったサブプライム証券に似た商品。18年末市場規模82兆円、日本勢保有シェア18%で農中が保有残高で世界トップ)投資で知られ、昨年12月末残高7.5兆円、運用構成比14%。全てAAA格債、満期保有でリスクは限定的と説明してきたが、値ぶれリスクへの対処を欠いたと見られる。米高金利が長期化し、円安で損失が膨らんだと見られる。一般的に資産評価70%で減損処理が求められる。昨年9月末「その他有価証券」評価損は2.53兆円だった(3月末9462億円)。

15年前のリーマン・ショックの時、6000億円の損失、1.9兆円の増資を行ったが、今回も1.2兆円の増資を計画、10年余で再び苦境に追い込まれたことになる。続報は日経、読売などから出ており、「5000億円超の損失、1~1.2兆円増資」。一次案から2000~3000億円の益出しで損失圧縮を図っていると見られる。資本増強が難航しているのかも知れない。

NTT株11連敗など、株式市場で決算ラリーだけでは説明できない妙な売りが出ているとの噂があったが、”農中犯人説”が出てもおかしくない。投信やファンド解約だと実態は掴み難いが、先週取り上げたグロース株不振なども関連している可能性がある。NTT株は信用買い残の投げを誘発しているとされ、買い残は5月に入って3000万株減少、2億株になっており、2次被害が混在している可能性もある。

全国489農協中、実に4割強が赤字に陥るという衝撃的な結果である。

ダイヤモンド・オンラインは約500の農協のうち、200強が経営危機に追い込まれる可能性があると予測している。共益事業などの収益が低迷、人件費などのコスト増に「農中無配」が圧し掛かる。岸田政権に農業改革のビジョンがなく、”農協離れ”が加速するか注目される。

あおぞら銀行(米商業用不動産ローン)に続く巨額損失で、米金融市場の脆弱性を示唆している可能性がある。「5%高金利」からの離脱を求める声が強まる可能性も考えられる。
相場的には、「知ったらしまい」になるか注目される。

中国の回復色何処まで。中国不動産苦境続く
21日付ブルームバーグは非公開情報としつつ、「中国恒大創業者の許家印会長の香港豪邸が売却された「と伝えた。売却価格は4.7億香港ドル(約94億円)、1年前の評価額8.8億香港ドルの半値近い水準。22年に中国建設銀行が差し押さえ、競売に掛けられていた。許氏の購入は2009年、当時の価格は分からないが、下落率は5割処ではないと見られる。今年1月、別の高級物件が希望価格の3割安で売却と報じられていたが、曰く付きの物件とは言え、下落感が一段と強まっている。

政府発表の4月不動産統計も厳しい。地方政府の土地売却収入は前年同月比21%減の約5.17兆円、前回チャイナ・ショック時の2016年5月以来の低水準。下方硬直で下がり難いハズの新築住宅価格は前年同月比3.1%下落、2015年7月以来の下落率。1-4月の不動産投資は前年同期比9.8%減、床面積ベースの不動産販売は同20.2%減、同新規着工は24.6%減。

中国政府は5月17日、総合的不動産対策を発表。地方政府の一部住宅買い入れ、住宅ローン等規制緩和、未完成住宅の建設促進など。これに合わせ、中国人民銀行は住宅ローン金利の引き下げ、頭金比率の引き下げ、2軒目購入の規制緩和を発表した。政府発表の4月末住宅在庫面積は3億9088万㎡、21年末から1.7倍に膨らんでいる。住めない鬼城を除いても一説では10億人分の住宅が余っていると言われる。

中国株はやや調整色も見られるが、上海総合指数で言えば、2月末の2700ポイントから3100ポイントの攻防、香港ハンセン指数は1月下旬の1万5000ポイント割れから19500ポイント前後。国家隊の出動に加え、4月以降は中国株ETFへの資金流入、ヘッジファンドの中国売り日本株買いの巻き戻しなどが背景と思われる。中国金融当局は22日パリ、23日ロンドンで投資家説明会を開催する。欧州や中東マネー取り込みに動き、持続的上昇を意図しているようだ。

中ロ首脳会談で、相互経済協力を謳い、台湾新総統に対しては周辺圧力を掛けるにとどまっている。中国回復演出が何処まで持続するか、日本株の行方にも影響しそうだ。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
■■■ 公式LINE ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/23771

■■■ Instagram ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/33771

■■■ TikTok ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/43771

■■■
X(旧Twitter) ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/63771