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準備不足の「手戻り」と、過剰準備の「オタク化」のバランス

プロジェクトマネジメントにおいて、遅れの原因を定量分析してみると、多くの場合、見切り発車による「手戻り」の修正作業に時間の無駄な時間が費やされていることが分かります。

「走りながら考えろ」

と言えば、良いニュアンスで使われることが多いのですが、こと複数の人が関わるプロジェクトにおいては、もっとも大きなムダを発生させている原因となっているのです。

さらに手戻りで無駄な作業が発生している工程が「ボトルネック」の場合、プロジェクト全体の遅れに直結しますので最悪です。

だからこそ前工程が後工程にタスクを送る際に、後で

「これが足りない」
「これはどういう意味かわからない」
「間違っているのでやり直し」

と言われて、余計な工数がかからないように、完了条件(良品条件)を明確にし、手戻りが絶対に発生しないように、十分に準備する(軍事用語で英語では「フルキット」と言います)し、その上で行動する(=後に人に任せる)ことがプロジェクトをスムーズに進めるための肝になります。


さて、「準備」と「行動」のバランスを図で書き表すと下記のようになります。

図解「いつ行動すべきか」

準備しすぎのリスク

前述の通り、準備が足りない状況で行動(図の緑線)すると、失敗や手戻りが発生します。

ただ、もう一つ重要なのが逆のパターン(図の赤線)です。適切なタイミングで行動に移さず、準備しすぎて時間をロスしてしまうケースです。

何かを新しくやろうとすれば不確実性が高いのは当然であり、失敗のリスクはゼロにできません。ところがリスクをゼロにすべく、延々といつまでも準備をしていると、時間という貴重なリソースを無駄に消費するというリスクを犯してしまいます。

以前MBA事務局を運営していたときに、半年に一度、必ず説明会に来る人がいました。はじめは知り合い2名で会社帰りに参加されたのですが、片方の方は、すぐに入学され無事2年で卒業されました。

ただ、もうお一人は、なかなか入学されることなく2年が過ぎ、説明会で卒業生をゲストにお迎えしたときに、一人は卒業生、一人は説明会参加者として鉢合わせする形になりました。説明会の終わりに、会場のビルの1階レストランで3名でご飯を食べ、みんなで「人生は有限であり、時間のロスは致命的だ」ということを、あらためて実感したのを思い出します。

準備沼にハマる

ビジネスでも人生でも、最も重要なリソースは「時間」です。ところが、リスクを恐れて、準備のための勉強をしすぎていると、それをロスしていることに気づきません。もちろん、失敗したときの金銭的ロスもありますが、それはあくまで時間の価値(機会費用)と比較して考えるべきです。

準備不足で失敗するリスク<時間を失うリスク

であれば、やはり行動すべきなのです。

実際には、勉強(=準備)しているうちに準備沼にハマりすぎて、それ自体が知的趣味として目的化(オタク化)するケースはよくあります。

「無知の知」ではないですが、勉強すればするほど、知らないことがわかるは良いことですが、欠乏動機を満たすために、ずーっと準備してしまうのです。

もう知ってます?

もちろん、勉強は勉強で悪くはないですが、あまりに机上の勉強をやりすぎて、

「わかっているので、行動しなくてよい」

という妙な結論になってしまう人もいます。これはかなり重症です。

企業研修をやっていると、講師の私自身が、コンテンツに対して「そういう意味だったか」と毎回新しい発見をすることがあります。その一方で、研修のアンケートに「もうすでに知ってました」「新しい情報はなにもなかった」「もっと新しいことを知りたい」というコメントを見ることがあります。

もちろん教え方の技術もあるんだと思いますが、やや複雑な気持ちになります。

五感の伴わない勉強は、どうしても「これ知っている」という過去の自分の経験に照らし合わせ、その範囲内で解釈する作業になりがちです。したがって、リアル体験がないのに、バーチャルで知識だけを吸収することには自ずと限界があります。

同じ勉強をするにしても、リアリティに圧倒されながらもがき、切れば血が吹き出るような生々しく、良質な実体験は意味づけるような勉強は、深いレベルで洞察を与えてくれます。

さらに、それは「次にこうやれば、うまく行くんじゃないか」という良質な仮説へと導いてくれます。行動と勉強は常にセットなのです。

最大リスクに備えたらやってみる

もちろん何ヶ月〜何年も掛け、大勢が参加して億十〜数百億円単位で投資がかかるプロジェクトを、準備不足で見切り発車するわけには行きません。
また一回失敗したら、二度と立ち上がれないようなリスクは慎重にコントロールすべきなのは言うまでもありません。

ただマーティングをはじめ、小さくやってみて経験を蓄積し、そこから知見を得て高速で改善していくほうが、よいことも多くあります。

書籍や研修、ネットの情報に基づいた準備である程度までリスクのレベルを下げることができますが、待っていても不確実性はゼロにすることはできません。また世の中の「変数」(トレンド)は常に変化しますし、やってみて初めてわかる事も多いのです。

情報はあくまで、他人がある時点で得た情報であり、いまの自分(自社)に完全に当てはまるものはありません。さらに体感して解像度が上がることで、初めて分かることもたくさんあります。

「これで準備は完璧にできた!もう学ぶことはない」

という状態になることは一生ない事を自覚し、どこかで飛び込んで実験してみるしかないのです。

一定以上は準備でリスクは下げられない

さきほどのMBAの例で言えば、入学して「やっぱり違う」と思えば、退学することができます。1科目あたりで受講費がかかるので、1科目=30万円でやめてしまえば、最大のリスクは30万円ほどですが、それを2年かけて考えるのと、まずはやってみて、判断するのがどちらかよいかという判断になります。結論は明白でしょう。

何でもかんでも、失敗0を目指して頑張るのではなく、「時間」という最も希少なリソースの有効活用を念頭に、リスクと準備のバランスを見極め、しなやかに行動するほうが、トータルでリターンが大きいと思うのです。



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