「人を妬む」から「人から学ぶ」に変えるための思考法〜変化のマトリックス(4象限)、認知的不協和からシャーデンフロイデまで
「***さんが成功した」
「****が新しく始めた事業でめちゃくちゃ儲けているらしい」
など、他人がうまく行った、景気が良い、といった話を聞いたとき、人のリアクションは、大体2つに分かれます。
ポジティブ:「それはすごいな。どうやっているか教えて」
ネガティブ:「いつか失敗するよ。何か悪どい事をやっているのかも」
この極端なリアクションの差はどこから生まれるのでしょうか?
今回は、人の心理状態を、
縦軸に「変える」「変えない」
横軸に「プラス」「マイナス」
をとって、4つのボックス=4象限(マトリックス)で整理してみます。
まず「それはすごいな。どうやっているか知りたい」というポジティブなリアクションの場合、第1象限(新しいアクションを取るメリット)が、強いと感じている状態です。そこから学んで自分も変化したい、という願望の表れでもあります。
逆に
「いつか失敗するよ」
「何か悪どい事をやっているのかも」
といったネガティブな反応になってしまうは、第2象限(変えるリスク)
を強調することによって、相対的に第3象限(現状維持のメリット)を正当化して、心の安定を維持しようとしている状態と言えます。
自分に近しく、影響力のある他人が成功する、ということは、「自分も変化しなくてはならないのでは?」という心理的プレッシャーを与えます。
また、その人が評価されることによって、「何もアクションしない自分」の評価が相対的に下がることが予想される場合は、よりこの傾向が強くなります。(これを「妬み」といいます)
逆に言えば、特に自分の日常生活に影響しない遠い世界の話だと直感的に感じられれば、ポジティブな感情も、ネガティブな感情も特に起こらないのです。
「心理的不協和」を解消しようする人が陥りがちなこと
社会心理学で「心理的不協和(cognitive dissonance)」という理論があります。これは自分の心の中で、葛藤(ジレンマ)が生じた場合、その状態を解消しようとする行動を取ったり、態度を変えたりする状態を言います。
たとえば、知人が起業して大成功したとします。そして、自分も起業したいという願望を持っていた場合、
・自分はサラリーマンである
・起業して成功したい
というジレンマを抱えることになります。この不協和状態を解消するためには
1)自分も起業して成功を目指そうと考える
2)起業のようなリスクを取れば、大失敗する可能性が高いと考える
(「起業なんてろくなもんじゃない」と認識を変える)
という2つの方向性があります。
ここでヒントになる考え方があります。ノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンの「プロスペクト理論」よれば、人は何かの行動を起こして「損する(ダウンサイド)リスク」を、「得する可能性(アップサイドリスク)」を多く見積もります。
したがって通常は「損するリスク」を回避する(=安全を優先する)方向に意思決定します。
つまり、認知的不協和が発生した場合、一般的には「2)起業のようなリスクを取れば、大失敗する可能性が高い」と認知を修正することで、不協和を解消する、つまり「行動を変えない」方が自然な選択なのです。
人は食べられて進化した
世の中の多数派は、リスク回避型なのですから、それを正当化するような情報が求められるのは当たり前です。「変わらない自分」と同じ考え方の仲間が大勢いる、自分が多数派に属しているということは安心感をもたらしますので、ビュー数で稼ぎたいメディアがその種の情報がばらまくのは自然なことです。また「リスクが高い」という考え方を普及させることによって、そのリスクを取らない自分も得するのですから、大勢がそれを支持するような情報をSNSで拡散させるのも、想定の範囲内です。
文化人類学的にみても、現在生き残っている人類の祖先は、臆病で、リスクを高く見積もってサバイバルしてきたグループであると言われているので、大多数がリスク回避型になるのは、当たり前なのです。
大衆向けの情報は「リスク回避型」(安全思考)グループ向けのものですから、ここから脱出しようと思えば、普段から情報を取得しているソース(情報源)を、自ら自分の行きたい方向で成功しているグループ向けのものに意図的に変えることが必要です。
何かのアドバイスを貰うなら、自分が行きたい道で成功している人からもらうべきなのはいうまでもありませんし、SNSでフォローする人や、ニュースメディアを自分でコントロールすれば自然に情報のフローは変えられます。(自然に入ってくる情報はリスク回避型なのですから、それを変えるに意思が必要です。)
他人の不幸を喜ぶ感情「シャーデンフロイデ」
「認知的不協和」「プロスペクト理論」に加え、最近は心理学や神経科学における研究対象として「シャーデンフロイデ」という心理状態の学術研究も進んでいます。
この「シャーデンフロイデ」は、誰にでもあるダークサイドの感情(「暗い」格特性)です。他人の幸福に対する「嫉妬」や、不当な扱いを受けたことに対する「恨み」とは少し違う感情で、単純に「他人の不幸を喜ぶ感情」を言います。(正確には切り分けるのは難しいのですが)
ネットで有名人の発言が炎上しているのを見て、そこに自分も乗っかって燃料投下する行動などは、まさに「シャーデンフロイデ」が影響しています。
「シャーデンフロイデ」度を測るフロリダ大学の研究ではその質問項目を下記のように設定しています。
このシャーデンフロイデも意思決定に大きく影響しますが、その発動は3つの条件があると言われています。
1)その不幸から自分が何らかの利益を得られる場合
→例:ライバルの挫折:自分が積極的に「変わる」行動をしなくても、相手の不幸によって棚ぼた式に、自分が昇進などのメリットを得られることが予想できる場合は「他人の不幸を喜ぶ感情」が生まれやすくなります。
2)他者の不幸が当然の結果である場合
→例:自業自得だと感じられる場合(例:オリンピック選手の「生意気」な言動が炎上する。)いわゆる「ざまあみろ」の感情で、自分が正しい、こうあるべきだ、と思う物事の判断基準を、世の中が間接的に承認してくれる形になるので嬉しくなる状態です。現在の自分の認知を「変える」努力をしなくて良いことと同義であり、「他人の不幸を喜ぶ感情」を生みやすくなります。
3)羨ましい人に不幸がおそった場合
→例:成功者の不幸(いわゆる「人の不幸は蜜の味」状態。)羨ましい人が、成功し続けてしまうと、定期的に「自分も変化しなくてはならないのでは」という思いに駆られるためストレスだと感じてしいますが、その人が失敗すれば、その人を羨ましいと思う感情に向き合わなくて良くなるため、気持ちよくなってしまう状態が発生します。
まとめ
私もそうですが、我々は「聖人」ではないので、他人の不幸をこそっと喜んだり、妬んでしまうようなダークサイドの感情が生まれることは避けられません。むしろ「シャーデンフロイデ」的な感情が持った人類のグループが生き残って、現代社会を構成しているのですから、その感情がない人は原理的にいないのです。
このダークサイドの感情をなくすことはできないものの、そういう感情を持ったときに、
「ヤバイ。私は罠に落ちてるな」
と俯瞰的に自己認知することには意味があります。このコラムの最後として、人気噺家、立川談春の自伝的小説「赤めだか」から、家元の談志師匠が、修行時代の談春さんを諭すシーンをご紹介します。
だいたい年令を重ねると「守るもの=現状維持」のウェイトが自然に大きくなってしまうのは仕方がないことなので、談志師匠に「馬鹿」と言われないように、いつもしなやかに変われる自分でいたいものです。
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