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映画『ライファーズ』&『トークバック』を見て

先日、プリズン・サークルについてUPしましたが、

坂上香監督の過去の作品を観たい!と思って調べていたら、田端のCINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)で期間限定公開していたので、先日観に行ってきました。

『ライファーズ』について

まずは映画の概要。映画館のサイトから。

受刑者が300万人を超える米国。Lifersライファーズとは、終身刑、もしくは無期刑受刑者のこと。
彼らは殺人や強盗などの深刻な犯罪を犯し、更生不可能というレッテルをはられた人びとであり、社会から忘れられた存在である。
民間の更生団体「アミティ」が行う更生プログラムでは、加害者である自分、また被害者であった自分をさらけ出して語り合う。
刑罰でも矯正でもなく、対話を通して、「自分がなぜ犯罪を犯すようになったのか」の問いに徹底的に向きあう。
そして、それぞれが罪の償いを模索し、「どのような未来を生きたいか」というビジョンを作りあげていく。
監督は、初めて日本の刑務所にカメラを入れた『プリズン・サークル』が公開間近の坂上香監督。TV番組の取材で「アミティ」を訪れ、長年にわたり取材し新しい生き方を模索するライファーズの姿を捉えた。

ちなみに、島根あさひ社会復帰促進センターのTCは『ライファーズ』を参考にしており、受刑者全員にこの映画を見せているそうです。

『ライファーズ』に出てくるのは、終身刑の受刑者なので、非常に重い罪を犯しています。過去に「更生不可」と思われてきた彼らが、アミティのプログラムに参加することでドラスティックな変容を遂げていきます。1年~1年半のプログラムに参加した受刑者の出所後の再犯率は27%、参加していない受刑者の75%と比べると目に見えて低くなっているそうです。

さらに、出所が認められた後も、1年間住めるという共同生活の場所があり、社会で孤立しない支援の体制があります。

プログラムに参加している受刑者同士、出所してからも、お互いの存在が、ある種の重しになっているというか、ふわふわと飛んでいかないように、足を踏み外して崖から落ちないように、支え合っていける基盤があるということは、とても大切だと思いました。

さらに、印象的だったのは「サンクチュアリ(安全な場)」という言葉が何度も何度も出てくること。彼らは壮絶な虐待をサバイブしてきた過去を持つ人がほとんどなので、おそらく人生の中で「サンクチュアリ」を経験したことがない。

だから、このプログラムの中で、実際に何を言っても、否定されずに受け止めてもらえるという体験、さらにもっと大きな意味で、「あなたという存在を、まるごと尊重します」と受け止めてもらえるという体験をすることでやっと、自分の罪の大きさに向き合うことができるのだということが、映像を通してよくわかりました。

『トークバック』について

こちらもまずは映画の概要。映画館のサイトから。

『トークバック』とは、『声をあげ』、人々と『呼応しあう』こと。
米サンフランシスコの刑務所で誕生し、元受刑者とHIV陽性者の女性たちが自身の人生を芝居にして上演するアマチュア劇団「メデア・プロジェクト:囚われた女たちの劇場」を追ったドキュメンタリー。1989年、女性受刑者たちが人生を取り戻すためのワークショップとして演出家のローデッサ・ジョーンズが創設した「メデア・プロジェクト」は、2008年からHIV/AIDS陽性の女性たちとのコラボーレションを始める。
受刑者やHIV/AIDS陽性者たちが自ら声をあげることで、彼女たち自身が偏見や恥にどのように対応していくのか、そうした姿が観客や周囲にどのような影響を与えるのかを見つめていく。

こちらの方がどちらかというと、自分事として考えてしまう映画でした。
映画を観ているあいだじゅう「さあ、あなたはどうするの?」と問われているような気持ちになりました。何か動かなくちゃ、というか、背中を押されているような。今の自分のステータスがちょっと立ち止まっている状態だったからかもしれません。

さらに、依存ではなく、自分の足で立っていながら、支え合う女性たちの姿があって、そういう彼女たちの語りにふれながら、人とつながること、痛みを語ること、受け止めてもらえること、表現をすることの重要性についても、あれこれと思いが巡る映画でした。

ひときわ印象に残っているのは、話をするときに、ずっとにこやかに笑顔で話している女性(名前を忘れた)。その人を私は、「HIV陽性なのに、そのことを受け入れて、すごく前向きに生きているなあ」と思いながら見ていたのですが、それは表側だけしか見ていなくって。最後にその裏側が、ちゃんと描かれていました。

映画の撮影をした(たしか)一年後の、追加インタビューの映像。家族に感染を話していなかったけれど、やっと勇気を出して話をしたことで、なかったことにしていた記憶が蘇ってきた。そして、HIVウイルスに感染する前の、その自分の傷を癒してあげる必要があったということに気がついた、と。

彼女は、その過去の傷について詩を書きました。
彼女が読み上げたその詩は、「私は見ている。 ~をされた女の子を」というくだりがいくつも出てくる詩。

詩の中に描かれていたのは、彼女の笑顔からは想像もできないほどの壮絶な記憶でした。
でも、彼女はそれを、詩という形で表現をし、客観視して、その痛みを抱えきれなかった自分をいとおしんで、受け入れて、癒しのプロセスに進むことができた。その姿は、同じような状況にで苦しんでいる人にとっての光になると思いました。

『ライファーズ』や『プリズン・サークル』は、

「加害の語り」には、「被害の語り」が欠かせない。
責任をとるためには、むしろ自らの被害体験に「徹底的に」向き合うことが不可欠であるという。

ということを伝えてくれる映画だけれど、『トークバック』は

「被害」と付き合っていくには、自分の「傷」「痛み」と向き合うことが欠かせない。そしてそれは、当事者同士の呼応(トークバック)によって、可能になる。

ということを、教えてくれました。


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