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田舎とは

だいぶ前のことだが、長男がぼそっとつぶやいたことがある。

「田舎がある人を、うらやましいと思うことがあるよ」

うちは、東京都にぎりぎり近い埼玉県の端っこである。映画『翔んで埼玉』は自分事として大笑いしたけど、でも何をするにも東京の方が近いので、ほとんど埼玉県のことを知らないし県内で行ったことのあるところも少ない。

典型的なベッドタウン。交通の便も、乗り入れがあるので不便がない。都心だったらほぼ1時間以内でどこでもいける。マンションも雨後のタケノコのように増え続けている。待機児童は多いものの、子育てはしやすい環境だ。公園が多く、買い物の不便はない。

でもそこに、田舎とか故郷という面影はまったくない。

私が子どもの頃はまだ、雑木林がそこかしこにあった。一番特徴的だったのは、米軍基地の跡地だ。ここには、公園ができたり学校が建ったりしたが、今でも一部残っている。映画『シンゴジラ』でも出てきた場所だ。一帯が金網に囲まれており、鬱蒼とした木々で覆われ、金網から中をのぞくと英語の看板が立っていたり、道路にも何やら英語の表記があった記憶が残っている。ただ、まわりに明かりがないから、「ぜったい何かいるよね、なんか出るよね」と思う、夜には近づきたくない場所だった。

そんな街も、今ではすっかりどこもかしこも整備されて、きれいになっている。そもそも自分が育った実家があった場所も、道路の拡張のため立ち退きとなり、今はただの道路でしかない。

生まれ育った町にすでに実家はないというのに、なぜかその町にうちの4人家族は住み続けている。住んでいてなんの不満もないというのが、消極的だけれどその理由だ。

息子たちには、田舎のおじいちゃん、おばあちゃんちもない。それぞれ東京か埼玉だから、そのあたりの景色は、コピーをしたように似たり寄ったりだ。

彼らが大人になったときに思い出す「田舎」は、どんな景色なのだろうか。よく遊んでいた公園か。休みの日に遊びに行った海や山や川か。



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