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#8 (podcast クリップ) 1人で4役:ライター&ガーデナー&フラワーデザイナー&フォトグラファー

こんにちは。

今回のポッドキャストのクリップは、アメリカ、ジョージア州在住の、スコット・シェファード(Scott Shepherd)さんの「ザ・フラワー・ポッドキャスト (The Flower Podcast)」から。

スコットさんは、フラワー・ビジネスの世界に携わって26年。卸売業をやっていた時期が一番長いそうですが、今はこのポッドキャストをご自分の仕事の中心とされています。

このポッドキャストの目的は、
* フラワー・ビジネスに携わる人(そうでない人も)のインスピレーションとエデュケーション(教育)に役立つような内容を伝える
* 最初は、ちょっとハードルが高いな、と思うようなことにも「イマジネーションを広げていくための話題」を提供すること

今日は、2019年にスコットさんご本人のポッドキャストの中で、ベスト10入りしたエピソードの一つをコンパクトにまとめた内容をお届けします。

コンパクト、とは言え、ベスト10入りを果たしたこの回は、「本」「花」「ガーデニング」「フラワーデザイン」「写真」と多岐にわたり、かなり濃い内容になっています。
どれも互いにオーバラップしたり、繋がったりしているので、ご自分の強みのある分野から、キャリアを広げて行くことができるという元気をもらえるお話です。
ぜひ、ご参考になさってみてください。

それでは早速、ポッドキャストを聴いてみましょう。
今回のポッドキャストのゲストは、カナダのブリティッシュコロンビア州の、日本ではブシャート・ガーデンでおなじみ、ヴィクトリア島に住む、クリスティン・ギールさん(Christin Geall、サイトはCultivated by Christin)(以下、クリスティンさん)。
期せずして、前回のポッドキャストと同じく、カナダ在住の女性のお話を2回続けてお届けすることになりましたが、比較されるのも面白いかと思います。

クリスティンさんの肩書きは、「ライター、ガーデナー、フォトグラファー、フラワーデザイナー」

スコットさんに「どういう肩書きになりますか?」、と聞かれて、
1番:ライター(本を出したばかりだから)
2番:ガーデナー
3番:(駆け出しの)フォトグラファー
4番:フラワーデザイナー
が、今現在の順番、とクリスティンさん。
順番はともあれ、どれも絡んでのクリスティンさんのキャリアとなります。

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(クリスティンさんのインスタグラムより)(@cultivatedbychristin)

ライターとして3月に本を出版したばかり

クリスティンさんは、この3月に本を出版されたばかり。
本のタイトルは、『Cultivated: The Elements of Floral Style』。
表題の、「Cultivate」には、耕す、知る、養う、磨く、など深い意味合いが含まれています。フラワースタイルの要素についてが副題。

「まだ、ガーデニングと写真のキャリアは浅いのに出版させていただけるなんて、光栄です」と謙虚におっしゃっていますが、その写真の美しさは、インスタグラムでも9万3500人のフォロワーを持つことからもおわかりかと思います。

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(Instagram@cultivatedbychristin)


書く方は、大学で、クリエイティブ・ライティングのクラスを教えたり、ガーデン・コラムニストとして記事を書いたり、お手のもの。
「多くのレシピ本(花材は、これこれ、生ける順番は、こうこう、という種類のビジュアル系の本)に比べると、4万2000文字ですから、かなり文字が多いです。美術史、観る眼を養うこと、花について、デザイン、エコロジーなど、フラワー関係の本にしては、かなり濃い内容です」。

ガーデナーの経験

ガーデニングは、20代の頃、イギリスのキューガーデンでインターンシップをした経験があるそうです。

クリスティンさんのガーデンは、小さめで1215 平方メートル。
「宿根草の庭など、デザイン計画が必要なものは、仕事を持つ私にはちょっと手に負えなかったから、カティング・ガーデン(cutting garden=切り花にするための花を育てるガーデン)みたいに、順番に並べて植えるのが手軽だったみたいです」。ということで始まった切り花のためのガーデン。

写真に映る数々の珍しい植物、美しい色合いの品種。でも、そうした欲しい植物が、そう簡単に手に入るわけでもないようです。
というのもカナダ国外から、植物を輸入することは、たとえアメリカからであっても、厳しく、植物の検疫証明も必要になってきます。
「アメリカで注文したものは、一旦、シアトル(アメリカ)に住む友人のところに送ってもらって、それを取りに行った時に検疫証明を持ってカナダに入国するんです。でも、病害虫の問題があるダリア(Dahlia)やアイリス(Iris)は、とっても難しい(注:日本でも1年間の隔離栽培が義務付けられています)」。

というわけで、「今欲しいなと思っている植物がありますか」、という質問に、「私が大好きだった、ダリア、’シニアーズ・ホープ(Senior's Hope)’は、球根(球塊)が枯れてしまって。これだけは何としてでも手に入れたいです。いくらでもお支払いします(笑)」。


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(こちらが、その 'Senior's Hope')
(photo credit @Ilovedahlia.com)


他に,緑色で、巨大なチューリップ、’エバーグリーン (Evergreen)' も育ててみたいのだとか。「モダンなデザインでもない限り、アレンジメントに組み入れるのは、難しいんですけどね。切り花の寿命は2週間半もあるそうです。球根がたくさんあるオランダに いずれ住みたいわ(笑)」。

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(Photo credit @dutchbulbs.com)



植物の話をする間に、クリスティンさんの植物好きの面がどんどん表に出てきました。
ジョージア州出身のスコットさんに「聞きたいことがあるんですけど、そちらがネイティブ(原産)の食虫植物、サラシニア(Sarracenia)って、どういう風に販売されているのかしら。興味がある植物なんです。」と質問。
「種子から育てるのは、長くかかるし、難しい。自然に生えている土地を持っている人が、良識の範囲で販売するのが多いようです」、とスコットさん。

「サラシニアに限らず、野生に生えている植物を採集してアレンジメントに使うフォレイジング(foraging)、というのが最近は流行していますが、よく考えて採集をしないと、自然環境を破壊してまうこともありますからね。教育も大切。」と鋭いご指摘。

写真のコツ: フラワーアレンジよりも「光」をアレンジすること

クリスティンさんのアレンジメントは、ご自分のお庭から摘み取ったものがほとんど。
その花で作ったアレンジメントをどうやって写真に綺麗に映し込むか。
「最初の頃、実際の花はこんなに綺麗なのに、どうして写真だとうまく表現できないのかしら、と思って、この実物と写真とのギャップを埋めることがきっかけでした。
色々勉強しましたが、今は写真の方がいいくらい(笑)」

インスタグラムのためだけに アレンジメントを作ることもあって、「30分後には解体して花束に戻すなんて、どうなんだろう、と恥ずかしく思ったこともありますが、今は本に挿入する写真ができたからよかった、と思います」。

「フローリストが花を生けるのに15分、その写真を撮るのに20分として、その20分が取れない方もたくさんいらっしゃると思います。
でも、少しでもお役に立てるよう、本にも書いてありますが、『できるだけ自然の光を使うこと』『カメラで撮影するときは、三脚を使って』、など」。

写真を撮る時、いつも頭に入れているのが、一緒にワークショップをやったトロント在住のフォトグラファー、クリスティン・スジャールダ(Kristin Sjaarda)さんから学んだこと。
それは、『アレンジするのは、フラワーじゃなくて、光」。

インスタグラムの写真のバック(背景)

スコットさんの質問「インスタグラムの写真のバック(背景)や色の使い方についてお話を聞かせてください」、に対して、以下の2つが、クリスティンさんの回答。

「印象派のアート、特に花を描いた絵画から学ぶことが多いです。
花のあしらい、色使い、テーブルや空間の使い方も含めて。
バックの色は、いくつかの板に色を塗ったものを使いますが、皆さんが思うほど 種類は持ってないんです(笑)」。

「うまく作品に視線が集まるようにするために、光を上手にアレンジします。暗いところには、赤い花を使わない、みたいな感じです。
色は、カラー・ホィール(ピザの形をした色彩のチャート)からひとつ選んで、っていうのもあるけど、私は、今、庭で、一番輝いている花を選んで、その花の色を分析してその色から始めることがほとんどです」
クリスティンさんは、色彩学について4ヶ月みっちり学んだのだそうです。

例えば「今、私の庭に咲いているバラ、'ディスタント・ドラムス (Distant Drums)'をよく観ると、キャラメルのようなブラウンで、外側の花弁の縁がホットピンク。その間が明るい、白っぽい色になってて、 全体がうまく混ざっているんですね。一つの花にこれだけの色があるんだから、そこからパレットを広げていけばいいんです」。

同じような例がチューリップ、‘ブライト・パロット (Bright Parrot)’。ラズベリーにゴールデンイエローが混ざっていく色合い。

「このように 多くの色とつながれる色彩を持った花が、これからのトレンドになるかもしれませんね」。

クリスティンさんが、アレンジメントで考えること

スコットさんが、「クリスティンさんのアレンジメントは、動きや流れがとても自然ですが、どういうコンセプトでなさってますか? 私はユリ、特にマルタゴン・リリー(Lilium martagon)が好きなんですが、ああいう動きのないまっすぐな植物はどうされますか?」と質問。

「その日のメインの花を主役にして、そこから始めることが多いです。
動きのある枝物や花をそこに添えて行きます。思ったようにいかないけれど、反り返っちゃったり、曲がった花びらもいいと思うし。
ユリは、茎がまっすぐですよね。茎の途中をカットして短くして使うかしら。(途中で切れない)グラジオラスよりは簡単ね(笑)」。

もっと知ってもらいたい植物は、との質問に「頭に浮かぶのはホップかしら。ビールのホップ。違った色味のものがあるんです。ドライにしても使えますし。ツルの表面がちょっと毛深い感じだから、他の植物が、うまくくっついたりするんですよ。
ただし、このホップが、アメリカのクズ(注:日本の葛は、タフな植物ということで、ハイウエイ沿いなどに植えられたのですが、その後、他の木々まで埋め尽くしてしまうことで、問題になっています)みたいな問題になるかどうかは、わかりませんが」。


サステイナビリティ(自然と人との継続可能な共存)のトレンド

ブリティッシュコロンビアでも、スロー・フードの動きはもう20年以上前から起こっています。
フラワービジネスもエコロジカル(ecological 環境にやさしい)でサステイナブル(sustainable=人と自然が共存し、環境を循環、継続的に保てるようにすること)な方向へ向かっているそうです。

「正直言って、この『エコロジカル・スタイル』、って私にはまだよくわからないんです(笑)。
でも、こういう新しいコンセプトに出会ったら、それを探っていって分かってくるものだと思うんです」。両者、同意で大笑い。

「エコロジーはギリシャ語のオイコ(家)とロゴ(知識)。
家とは何か。誰にとっての家なのか。例えば、蝶々にとって花は家みたいなもの。
花粉が出ないような(品種改良された)花を育てても、虫たちには何の役にも立っていないのね、と思います。
私のモノ・カルチャー(単一品種栽培)ガーデンも考えますね。
草原(meadow)に引っ越さなくちゃいけないかしら(笑)」

少なくとも、クリスティンさんが考える、今できるエコロジカルなこと。
そのひとつは、『フラワーデザインは、今、ここ、にあるものですること』。
「アレンジメントの寿命にしたって、スイートコーンの美味しい寿命は2、3日とわかってるんだから、花が2、3日しか持たなくても同じことじゃないかしら。
それに朽ちていく姿、虫食いの葉っぱも美しいわ。
そんなこと思うのは、私の年のせいかもしれないけれど(笑)」。

植物のライフサイクルを知れば、その生長するステージごと(葉、花、実、枯れた枝、など)に使い回すことで、アレンジメントにも変化が出てきます。

ドライフラワーにして使うのも、エコロジカル。
花の咲いていない時でも、長い期間に渡ってフラワー・ファーマーをサポートすることができるからです。
ドライ・マテリアル(ドライフラワー)も最近のトレンドだそう。

フローリストへ一言

「デザインは、クライアント主導ではあるけれど、あなたが、季節の花を使って、どのような色やデザインをするか、ということを知っているはずです。
クライアントは、あなたの審美眼を求めて依頼しているんですから、自信を持って」。

「もし、アレンジの途中でスタックして(stuck;頭が働かなくなって、行き詰まって)しまったら、ちょっとその場から離れて、作品に背を向けて間を置く、アレンジしている部屋の周りのものを除く、アレンジメントをターンテーブルに載せているみたいにして見る角度を変えみる、などしてみたらどうでしょうか」

「怖がらないで、新しいことにチャレンジ。
広い分野を視野にクラスをとってみるのもおすすめです。とにかく練習。
画家のゴッホの絵だって、実験したり、試行錯誤を重ねてようやくできたスタイルなんですから」。

これからの抱負

2020年は、本の出版があるのと、スコットランドでのワークショップもあるので、旅行が増えると思います。
スコットランドのワークショップでは、イギリスでは本当はやらないことですが、プレニアルボーダー(宿根草のボーダー花壇)の植物を花材として切らせていただく予定になっています。
以前は、家にいるタイプでしたが、180度変わって、いまは人と話したりするのも大好きです。

「アート、絵画、花」を一つにまとめた内容を、アレンジメントも入れながら、パワーポイントを使って講義をしてみたいと思っています。

まとめ

クリスティンさんのように、
花を育てて、アレンジして、写真を撮って、本を書く、というように
花を通して違う分野に思えることが一つに繋がって、複数の肩書きを持つ人が、これからは増えていくような気がしています。

ソーシャルメディアが盛んな今、発信の仕方も様々になっていますからなおさらですね。


長くて濃い内容となりましたが、最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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(これは、昨年6月の私の鉢植えガーデンの、「今、ここ、ディスプレイ」。偶然にもディスタント・ドラムスのバラ。散りかけも含めて(笑))


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