上書きされたビデオテープは母の愛だった
実家に帰ると、母がニコニコしながらビデオを出してきた。
幼い兄と私の、無邪気な姿がビデオテープには焼き付けられていた。
夜な夜な夢中になって母とビデオを見ていると、不思議なことにいつも途中でプツッと映像が切れて、次のシーンに移り変わってしまう。
何の脈絡もなく終わる映像が、少し寂しかった。
すると、母はこう言った。
•••なるほど。次々に切り替わる映像の訳が分かった。この切り替えの数が我が子に対する母の想いだった。
消えてしまった映像も沢山あるけど、
全部全部頭の中に鮮明に覚えているからいいのよ。もちろん形として残ってないのは寂しい気持ちもあるけど。
そう話す表情は、子育てに奮闘し、やり切ったという清々しい母親の顔だった。
今は、スマホ1台で写真も映像も簡単に残せてしまう。よく言えば手軽に、悪く消えば何も考えなくても形にできてしまう。
上書きされたビデオテープに勝る母の愛は、どこにあるのだろう。
改めて、素敵な母親のもとに生まれてきたことに感謝したいな。そう思った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?