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【R18小説】#5 急接近。そして初めての疼き

彼のライブの手伝いが当たり前になったことがうれしくて仕方なかった。
彼のバンド仲間にも一員として受け入れてもらえるようになった。

ライブ終わり、ライブ会場から帰るメンバーを待っているファンがいる。
プレゼントや手紙を渡そうと手を伸ばし、中にはツーショット写真を撮ろうとメンバーの腕を引っ張る強者までいる。

「そんなことして彼の繊細な指に傷でもできたらどうするの!」

私は不安で不安で、ついファンの人を睨みつけてしまう。
そんなときの女の嫉妬に狂った目ほど冷ややかなものはない。

ライブ終わりはバンドメンバーの先輩が経営する居酒屋で軽い打ち上げをするのが恒例になっていた。
強者たちはライブ会場を後にしたメンバーたちが乗るタクシーを追いかけ、打ち上げ会場にまで押しかけてくるようになった。

「ハイハイハイ。貸し切りだからね。入れませんよ。」

店主が強者たちを追い返してくれる。
ブツブツと文句を言う強者たちの怒りと嫉妬の目は、メンバーと一緒に居酒屋に入っていった私に向けられる。

「お疲れー!いやぁ、今日の客入りすごかったね。過去一だよ。」

ライブ後の軽い興奮状態とお酒でみんな饒舌になっている。
彼もとても楽しそうに輪の真ん中にいる。
ビールジョッキをグイっと持ち上げる大きな手、フライドポテトを口に運ぶ指、指についた塩をペロッと舐める舌、時々いたずらっこのように微笑む目。

あぁ、これらを全部私にだけ向けてほしい・・・。

大きな手で触れられたい。
しなやかな指でかき乱してほしい。
私の肌の上でその舌を転がしてほしい。
その目に見つめられたら、私・・・。

彼と親しくなればなるほど、私の妄想は激しくリアルになっていく。
そんなこと考えるなんて、私はダメな女だ。
こんなこと考えてるとバレたら、彼に軽蔑されてしまう。
過る妄想を振り払い、意識は打ち上げに戻る。

2時間ほどでお開きになった。
会計も任されている私は、一足早く立ち上がりレジへ向かう。
先輩後輩のよしみでいつも割引をしてくれる。

お釣りとレシートをもらい、店の外へ出た瞬間のことだった。

ドンッ!!!

何か強い衝撃が加わり、気がついたら道路に倒れていた。

「イタタタタ・・・。」

転んだ拍子に足首を捻ったみたいだ。
ふと顔を上げると、女が3人私を見下ろしていた。
居酒屋まで追いかけてきて、店主に追い出された3人だった。

「あんたさ、何なの?彼女気取らないでよ。」
「何であんたが当たり前の顔して打ち上げに参加してんのよ。遠慮しなよ。」

あぁ、これが嫉妬か・・・。

最近ライブの受付をして、打ち上げにも参加している私が気に入らない過激なファンたちが嫉妬して、店から出てきた私を突き飛ばしたのだ。
騒ぎを聞きつけたメンバーと店主が店から飛び出してきた。

「大丈夫?」
「膝から血が出てる!」
「おい、お前ら!これ暴行だぞ。警察呼ぶぞ!」
「今度からライブ会場への出入り禁止な。」

口々に過激ファンたちを叱ってくれるメンバーたち。
その中で私の背中を優しくさすってくれる手があった。

「大丈夫?ごめんね。」

彼の目が私にだけ向けられていた。
擦りむいた膝と捻った足首はズキズキと痛むけど、どこか遠いところに痛みを感じていた。

「ごめんなさい。心配かけて。」
「いやいや、こっちこそ巻き込んでごめん。あいつら、出禁にするから。」

メンバーたちが出禁を言い渡し、戻ってきた。

「一回店に入って。消毒しよう。」

店主が提案してくれた。

「ありがとうございます。皆さん、ほんとにごめんなさい。」
「謝るのはこっちだよ。こんな目に合わせてほんとごめん。」
「立てる?」

彼が優しく背中に手を当て、もう片方の手で私の手を握ってくれた。

大きい・・・。

彼の大きな手はとても頼りがいがあった。
ずっと寄り添っていたい、そんな安心感があった。

「俺が送ってくから、みんな帰っていいよ。」

彼がそう言って、みんなはそれぞれに心配と謝罪の言葉を口にしてバラバラと帰っていった。

店内に戻ると店主が救急箱を持ってきてくれた。
彼がすばやく手当てをしてくれる。
転んだ拍子にタイツが破れてしまっている。
手当てをしてくれている彼の手が時々、破れたタイツの隙間から覗くむき出しの足に触れる。
私の中の何かがギュッと疼くのがわかった。

「とりあえずはこれでよし。足首も捻ってるから、明日病院に行ったほうがいいけど。一人で大丈夫?」

大丈夫じゃないと言えば、彼は付き添ってくれるのだろうか・・・。

そんなことが一瞬過ると、それを見抜いたかのように、

「やっぱ俺、ついてくわ。明日、車で迎えに行くよ。こうなったのも俺らにも責任あるし。」
「いや、そんな悪いですよ。」

心にもないことを言う私。
むちゃくちゃ嬉しいくせに。

「いやいや、病院ついてくよ。ほんとごめんな。」
「タクシー呼んだから。今日は送っていってやってよ。」
「もちろん。先輩、ほんと今日はいろいろすみませんでした。」
「人気がでるのも大変だな。とにかくしっかり安静に。あいつらの連絡先は控えてるからさ。ちゃんと病院代とか請求しないと。」
「ありがとうございます。」

ほどなくしてタクシーが来た。
彼が奥、私が手前に乗り込み、運転手さんに住所を伝えると静かに発進した。
私のアパート前につくと彼も一緒にタクシーを降りてきた。
驚きとドキドキで言葉を失っていると、

「家まで大変でしょ?」

ヒョイッと荷物を持ち、私を支えてくれる彼。

あぁ、彼の手が今、私の腰に回されている・・・。
もっとダイエットがんばっておけばよかった。

彼の息遣いが近い。
無防備な首筋に彼の息がかかる。
さっきの疼きの波がまたやってきた。
彼にバレたら嫌われるかもしれない。
こんなに急に彼と密着することになるなんて。
こんな急展開、想像してなかった。

あんなに憧れた彼の大きな手が、しなやかな指が、
今私の身体を支えている。
彼の手と私の素肌の間にある洋服が邪魔だ。
このまま離れたくない。
彼の息遣いを全身に浴びたい。
こんなことを考える私はやっぱりいやらしい女なのだろうか・・・。
どうやったらこの疼きを止められるのだろうか。

玄関の前についてしまった。
このまま彼を引きずり込みたい。
だってどうせ明日、一緒に病院に行くのなら今別れる必要なんてないんじゃないか?
朝まで一緒に過ごして、一緒に病院に行けばいいんじゃない?

いや、ダメだ。
今日のブラ、あんまり可愛くない。
高校生のときに買ったお気に入りのブラだけど、大学生の今になってはちょっと幼稚なデザインかもしれない。

「明日9時くらいに迎えに来てもいい?」

彼の優しい声で我に返る。
近所迷惑にならないように小声で話す彼。
耳元に囁くように聞こえてきて、また私の中が疼いてしまう。

「あ、はい。ありがとうございます。」
「じゃ、俺はこれで。ほんとごめんね。しばらくは大変だろうからできるだけ送り迎えするからさ。何かあったら遠慮なく言ってよ。」

そう言ってふわりとした笑顔を残し、彼はエレベーターへ乗り込んだ。
彼が帰っていた方をしばらくボーっと眺めた後、何とか家の中へ。

捻った足首を引きずりながら、部屋着に着替える。
ふいに鏡に映った自分の下着姿。
彼はどんな下着が好きなんだろう。
おっぱいは大きい方が好きなのかな。
そっと自分の胸に触れてみる。
そっと、最初はそっと、弾力を確かめるように。
少しずつ指を胸に喰い込ませてみる。
私の胸を彼の大きな手が鷲掴みにするように。
大きく深呼吸して、時々やってくる大きな疼きの波を沈める。
固くなった乳首を人差し指で弾いてみる。
彼のしなやかな長い指がギュッと乳首をつまみ、私は乳首から伝わる鈍い痛みに耐える。
首筋にかかる彼の息遣いを思い出し、身体の奥から疼きの波が押し寄せる。
そっと目を開けると鏡には欲望のままの私が映っていた。
こんな姿、彼には見せられない。
パンティーに手が伸びる。
そこはダメ。
守らなきゃ。
でも・・・。

それは初めて感じる欲望の疼きだった。

(つづく)

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