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キックの赤い薔薇

可憐に咲く薔薇には棘がある。
甘いマスクに隠された優れた身体能力は、鋭い棘で相手を凌駕し、観客を魅了する。

目黒ジム

時の野口修氏が打倒ムエタイを掲げて設立したキックボクシング。修氏が運営する野口プロモーションのお膝元、目黒の権之助坂や目黒雅叙園の近傍に所在する目黒ジムは、かつて故沢村忠氏、故藤本勲氏、富山勝治氏、伊原信一会長など、名だたる選手を世に輩出した名門中の名門です。
私がMA日本キックボクシング連盟や日本キックボクシング協会(何れも当時。目黒ジム所属団体。)を知った頃は、新妻聡選手、小野寺力選手が目黒ジム所属選手として最前線で活躍していました。
余談ですが、父の実家(祖父の家)が下目黒で、私が幼少の頃に実家に行った際には、川沿に立地のお城の様なホテルエンペラー(ラブホテル)に行きたいと、両親を困らせていたことが思い出されます。

多彩な技術、唯一無二のコンビネーション

当時、群雄割拠のフェザー級戦線。その中で一際輝きを放っていた選手こそ、「キックの赤い薔薇」こと小野寺力選手です。
攻撃のみならず、防から攻のコンビやブロッキング、カット一つ一つが、華麗であるとの一言に尽きます。
ダッキング、ウィービングにスウェーバックからパンチ、蹴り、ヒザやヒジなど、多彩な攻撃が放たれ、好機がくれば、ストレートやハイキックで的確に相手をしとめる。
これにより、佐藤孝也選手や前田憲作選手といった有名どころを沈めてきました。記者会見で、立嶋選手と並んだ時のことを改めて思い返すと、フェザー級最強決戦の実現に大いに期待したものでした。

私がはじめて小野寺選手を観たのは、(新?)日本キックボクシング協会の興行のメインで、外国人選手でした。

カルミナ・ブラーナ

誰もが一度は耳にする有名なオペラ。その冒頭、私の気分が一気に高まります。そして、ジャンル(テクノなのかトランスなのか)はわかりませんが曲が変調し、そのリズムに乗って、後楽園ホール最上段から、フードを被った赤い薔薇が入場してくるのです。
誰もがリズムに乗り、ファンに拳を合わせる中、颯爽とリングに向かう堂々たる姿は圧巻です。
入場から戦術まで、全てが異次元であり、決して届かない領域なのは自明ですが、小野寺選手のスタイルは私の理想として、47歳となった今もなお心の奥に根付いています。
NO KICK NO LIFEのドライTシャツでのトレーニングは、その現れです。

キックボクシングへの拘り

日本のトップクラスの選手を他団体が放っておくわけはありません。当時、重量級に加えて中量級まで射程を拡げていたK-1も然り。
フェザー級トーナメントの開催に打って出たのです。
当時のフェザー級では、全日本キックの立嶋選手、前田選手、佐久間選手、NJKFの鈴木選手、MA日本キックでは佐藤(堅)選手、SBの村浜選手、日本キックでも大塚選手、佐藤(ツ)選手など、選手層は相当厚かった時代です。当然、小野寺選手にも白羽の矢がたちました。
ただし、3分5Rヒジ有ルールに拘った小野寺選手は、出場を断ったのです。そして、新日本キックボクシング協会から出場停止処分を言い渡されるのでした。

NO KICK NO LIFE

独身時代と異なり、毎試合観に行く事が叶わなくなったのですが、復帰後、日本人の他、タイ人との激戦が繰り広げられており、勝負ごとに絶対はないので敗れることもありましたが、その闘いを専門誌やインターネットで拝見していました。
そんな中、2005年10月に小野寺選手が引退するということが囁かれていました(直接の原因は、拳の怪我でしたでしょうか。)。目黒仕込みの華麗な技は、引き続き、石井選手や松本選手、緑川選手などが、引き継いでいましたが、一線で活躍し、立嶋選手と並んで一時代を築いた選手の引退は悲しいものです。

気付けば(きちんと家族に説明し、我が儘を聞いてもらいましたが)、2005年10月29日、既に薄暗い蒲田の街をチケットを持ち、歩いていました。どんな思いで大田区総合体育館に向かったかは、今となっては思い返すことはできませんが、相手がタイの強豪だったことは覚えています。白地に赤い薔薇が棘を刺すイメージのポスターをイメージしながら、きっと、最後を勝利で飾ってほしいというより、華麗な技を少しでも永く観たいと思っていたのでしょう。

湘南乃風のライブや武田選手と佐藤ルミナ選手がMMAのエキシで会場を盛り上げ、後輩達が激戦を繰り広げる中、自身は強豪タイ人を相手にKOと残念な結果となりました。
その後、後進の育成、NOKICKNOLIFEを主催するなど、小野寺選手のKICKLIFEは継続中です。相当な覚悟の上だと思いますが、立場は違えど、一つの道を突き進むのは、素晴らしいと思います。

キックボクシングに出会えて、感謝です。

※記憶により記載しているため、事実と異なる部分があるかも知れませんが、悪しからず。
#キックの赤い薔薇 #小野寺力 選手 #キックボクシング

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