4分小説 『ここがスタートライン』 #シロクマ文芸部
「走らないで!」
見知らぬおじさんが叫ぶも私のことだとは思わずスルーする。現に私は電車が来るのを待っていただけだから。
「君のことだよ」
と、肩を叩かれて振り返り、ギョッとする。おじさんが着ているのは単なるスーツではなく、礼服だったからだ。
訝りながらも今日が連休の中日だと気付き、もしかしたら結婚式場に向かうところなのかもと思い直して、恐る恐る口を開く。
「……私、走ってませんよ?」
「まあ、今はそうなんだけどね」
どうにも会話が噛み合わない。
「勘違いだった