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早い者勝ち

思いやりのつもりだった。冷蔵庫の扉を開けた時に目に入ってきた、二つの菓子パン。ひとつはまだ未開封で、もうひとつは乱雑に開けてほとんど食べられていた。

ほとんど同じだけど、ちょっとだけ違ったチョコホイップロール。昨日、「妹と二人で話し合って決めなさい」と母親から言われていたものだった。私は律儀に「わかった」と返事をした。でも、そのやり取りを見ていた父親からは「アイツどうせ勝手に食べ始めるから早い者勝ちで取っていいぞ」と言われた。私は『もしも』を考えた。選択肢も与えられずに姉に勝手に食べられたら妹は怒るかもしれない。そう考えて、手に取るのをやめたはずだった。

結果。父親の言う通りだった。同じことを言われていたはずなのに、妹は私に選択肢を与えることなく自分の好きな方を選んだ。妹が選んだのは残されたチョコホイップロールより、ちょっとお高い方だった。奥に詰め込まれていた残り物を見た。早い者勝ちが得をするのは必然だ。私もそうすれば良かったんだろうか。

妹はまだ帰ってきていない。私は嫌味を言うべき相手がいない。けど、不思議なことに嫌味を言う気は全く無かった。上手い言葉を選ぶなら、「好きな方が選べて良かったね」とでも言えばいいのかもしれない。それでもそれを言う気にもなれない。私は冷蔵庫の奥から残されたチョコホイップロールを取り出した。そんでもって、部屋にいる。まだ手をつけられていない。ふと、チョコホイップロールの消費期限が目に入った。3月21日午前3時。今は22時近く。切れてた。

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