StatCastを駆使した中日ドラゴンズ新助っ人アキーノの徹底分析
【22年12月追記】
12月1日に大手スポーツ情報サイトのスポーツナビにこちらの記事が掲載されました。
大変嬉しく思います。ありがとうございます。
そのほかにもnote公式のスポーツ記事をまとめたコーナーや他の記事でも紹介して頂き、より多くの方に読んでいただく機会を皆様のおかげで得ることができました。繰り返しになりますが、本当にありがとうございます。
↓ここから記事
もう始まりだよ…この球団…!
次の日が月曜なので早めに寝た自分がバカでした。 本日午前2時ごろ、なんとなんと中日ドラゴンズがあのアリスティデス・アキーノを獲得の報道が!! !
朝一番でこのニュース見て大変でした。 震えて朝食のサンドイッチが喉を通らないし、遅刻しかけるし…。 Twitter開いたら興奮しすぎたフォロワーさんから深夜3時に「起きろ!」っていうリプが送られてきてるし…。月曜の午前3時に起きてるわけないだろ!
近年は特に大物助っ人候補の参加が増え、昔とは毛色が変わってきたドミニカWL。
そこからついに中日ドラゴンズが2億円を超える大物助っ人をはじめて獲得したというのは、今後のスカウティングが変わる節目になるかもしれないような出来事にも思えます。 そのような意味でも非常に興奮する出来事です。
アキーノ選手は今回の報道前からかなりSNS等で騒がれていた助っ人候補で、報道を見た際「あのアキーノか!」となった人も多いのではないでしょうか?
今回の記事ではそんなアキーノ選手をMLBの公式データサイト「Baseball Savant」や「FanGraphs」を駆使し、強みと弱みをこの興奮が冷めないうちに徹底的に丸裸にし、辱めていきます。
ちょっと興奮してるのでところどころ文章おかしくても暖かい目で無視してください。
私はこの記事書くために先ほど夕飯を食べながら、風呂に入りながら、今年のアキーノの打席結果映像全部見てきました。
・”モンスターフィジカル”と呼べるスペックと守備
彼を語る上で欠かせないのが、MLB級でも「Punisher(パニッシャー)」と呼ばれるほどのえげつない打球を放つパワーと身体能力の高さです。
この表は今年のアキーノ選手の各部門別のパーセンタイル値を示したものです。
パーセンタイル値とは、計測値を小さい順から大きい順に並べ、パーセント表示することにより、全体(この場合はMLB全体)でどの位置にいるのか示す数値です。
Max Exit Velocity(打球速度)、Sprint Speed(スプリント速度/走力)、Arm Strength(肩の強さ)、Outfielder Jump(投球後3秒の外野守備の動きの効率の良さ)は、すべてにおいてMLBトップクラス。 走力、パワー、守備力を高いレベルで備えた”モンスターフィジカル”と呼ぶに相応しい身体能力を有していることがわかります。
パワーは言わずもがな、特に肩の強さはパーセンタイル100%を記録したこともあるほど凄まじく、今季は外野から約162キロのレーザービームを披露し話題になりました。
守備範囲は高いスプリントスピードと反応の良さを生かして今季はRngR(守備範囲) 2.7と高水準。UZRは今季+10.1、MLB通算で+8.0を記録するなど、いい意味でドミニカン離れしたものをもっています。
しかし、守備指標ででこれほど高い数値を記録したのは今年度が初で、RngRも19~21年は平均ややマイナスをいずれも記録しており、アーム貢献も今年度が頭一つ抜けて良いものとなっています。
本人の上達は無論あると考えられ、守備が上手くないとは記録できない数値であるのはたしかです。
しかしこれらはあくまで相対評価です。 当然、年度ごとの揺らぎは少なからず存在するため、期待を高めすぎるのは見る上で良くないかもしれません。
さらに映像確認を行った際、捕球やバウンド処理の面で若干の不安を感じるプレーが見られました。
ここら辺はドミニカンらしさの残り香と言えるかもしれません。 外野守備は国民性でるよね(分かる人にはわかる)
来季はセンターを守ると考えられる岡林選手と合わさり、もう来季の中日ドラゴンズは2塁から走者の生還を許すことはない・・・カナ・・・^^;
・打球傾向と優秀なバレル
○打球傾向
次に打球傾向を探っていきます。 今シーズンの安打のスプレーチャートは以下のようになっていました。
アキーノ選手は巨体から繰り出す長いリーチを生かし、内外角問わずすべてのコースの球を引っ張る強烈なプルヒッターです。
特に今年のホームランはほぼプル方向へのもので占めています。チャートからはその傾向を強く感じ取ることができますね。
アキーノ選手のMLB通算の打球方向の割合を見ても
『プル方向46.2%(MLB平均36.8%)、センター方向33.1%、逆方向20.7%』
となっており、プル方向からセンター方向への打球が非常に多いことを明確に表しています。
ところで、19年デビュー年のアキーノ選手は、あのダルビッシュ有投手をも驚愕させた、「インサイド気味のボールを詰まるような素振りで逆方向に長打、HRを放つ」というまるで落合博満のような打撃を複数回披露していました。
しかし、今シーズンはスプレーチャートの通り逆方向への長打が0。 19年に見られたこの”変態長打”は影を潜めてしまいました。
チャートのライト前付近に散りばめられたシングルヒットは、いずれもインコースの詰まったあたりがライト前へのポテンヒットとなったもので、決してハードヒットしたものではなく、来季に向けた不安要素の一つであると言えます。
レッズの本拠地は打高球場のため、この打球を日本で取り戻したとしてもバンテリンドームナゴヤでアキーノのインコース変態逆方向がスタンドインするかは怪しいですが、この打球が放てるというのはかなりの強みなので再度取り戻してほしい彼の大きな能力です。
フライヒッターの少ない中日ドラゴンズには珍しく、GB%(ゴロの割合)はMLB平均を大きく下回り、FB%(フライの割合)は大きく平均を上回るフライヒッターのアキーノ選手です。しかし、今シーズンは甘い球を仕留め損ねてポップフライになるシーンも多く一概に良い要素とは言えませんが、この後分析する「鋭い打球(バレル)を放つ割合」は優秀なものを持っています。
○バレル
近年注視される指標、バレル率はどうなっているでしょうか。
このバレルという概念は「最も得点に繋がりやすい打球速度(158キロ以上)と角度の組み合わせ」を指し、この条件に合致するゾーンを「バレルゾーン」と呼びます。
例えば、時に190キロを超す打球を放つアキーノ選手が仮に190キロの打球を放った際、バレルゾーンに該当する打球角度の範囲は190キロ以下の打球と比べると広くなります。
打球速度が158キロから大きくなるにつれ、バレルに該当する打球角度幅は広くなる、つまり打球速度に応じてバレルゾーンに突入する角度幅が決まるという仕組みで決定されているものです。
そして全体の打球のうち、このバレルゾーンに入った打球の割合を一般に「バレル率」と呼び、打者の得点を生み出す能力と強い相関があり、フライボール革命の指針となった指標です。
私がいつも参考にしてる新外国人候補有識者のゆきちなさん(@zombie0010)が以前、新外国人候補の成功の可否もバレル率に多少相関がある的なことをたしか述べており(あやふや)そこから私も候補を探る際、注視するようになった指標です。
アキーノ選手の各年のバレル率は以下のようになっています。
一般的にバレル率が15%以上のプレーヤーは、屈指のエリート級と見なされ、10〜15%からは良好、6〜9%は平均と評価されます。
これはあくまでMLB級での話ですので、近年の何人かの既存NPB助っ人外国人野手から、MLBで多く打席に立った選手を抜粋し、比較していきましょう。
このように比較するとアキーノ選手の「11.3%」という数値の優秀さが際立ちます。
個人的にはこのバレル率の高さがアキーノ選手を買っている大きな要因です。
MLBレベルでこれだけの確率でバレルゾーンに突入する強さの打球を飛ばせるのであれば、ナゴヤドームを苦にせず本塁打を放つことができると考えられます。
非常に期待が高まる大きなデータです。
・簡易的なゾーンチャート分析/球種別傾向分析
○ゾーンチャート分析
後述するゾーン管理の分析の前座として簡易的なチャートと先ほど見た映像の主観的な感想と折り合わせ、分析していきたいと思います。
アキーノ選手の22年ゾーンチャート(打率)は次のようになっています。
主にインサイドから真ん中外目に強く、高めはかなり弱いことがわかります。
特にインサイドは高めを除いたストライクゾーンに、内は低めボールゾーンにスポットがあり、持ち前のオープンスタンスでボールを呼び込むように捌きます。 (外角もデビュー当初は苦にしていませんでしたが、近年はブレーキングボール攻めが多くなったのか、悪化の傾向があります。)
映像を見る中でアキーノ選手の打ちとられ方の多くを占めていたのが「ストライクゾーンからボールゾーン含めた外角への攻め」でした。次のチャート(三振率)をご覧ください。
三振率が50%を超えるコースが5つ存在します。 これは映像を見た印象そのままでした。
まず、外角高めのストライクゾーンからボールゾーンにかけてですが、ここのコースで三振を喫する多くの球種はフォーシームであるのは間違いありません。
アキーノ選手のスイング軌道がバットが下から出てくるような軌道のためか、少しでも真ん中より高く来る球を総じて苦にしており、中でも外高めの速球は空振りまくりの三振しまくりです。
特にこの外のコース全般は明確なボールゾーンの速球であっても手を出してしまう傾向が致命的で、大きなゾーン管理面の課題と言えます。
しかし、打てるポテンシャルが全くないわけではなく、今シーズンもLADのビューラー投手の93マイル高めのボールゾーンの速球をセンターにはじき返しHRにしていたシーンもありましたので、NPBにおける平均球速の低下により良化する可能性はあると考えます。 空振りする速球も総じて94マイル(約152キロ)前後出ているものが多かったです。
次に目立つのは外低めのストライクゾーンからボールゾーンですね。 これはいわゆる外スラ含めた外に逃げるブレーキングボールです。
空振りはもちろんボールゾーンを追いかけすぎて引っかけてゴロアウト、左投手のインサイドに食い込むボールをひっかけポップフライ等の打ち取られ方が多数見られます。
詳しくは次の球種別成績で明らかにしていきます。
○球種別傾向分析
まず、各年度の球種別の打率を右左別に見ていきます。
パッと見た印象でわかるのは「対左OPS.491 対右OPS.684」という簡単な数値からもわかるように、左投手より右投手の方が得意ということです。
対左投手の変化球(ブレーキングボール、オフスピードボール)の打率は19年の数字が嘘のように悪化し苦悩が伺えます。 映像を確認しても、左投手のインサイドへのブレーキングボールに詰まるシーンや、外から真ん中低めのオフスピードボールを空振りするシーンは多くみられました。
逆に対右投手のオフスピードボールは3割を超える打率を記録し、過去最高水準。ファストボールへの対応も悪くなく、この点は球速帯低下も合わさり、かなり期待が持てます。
そんな右投手相手でもブレーキングボールは苦にしていて右左問わずブレーキングボールへのアプローチ&見極めは彼の大きな課題と言えるでしょう。
しかし、ブレーキングボールは、率自体は低くともそれなりのISOを記録しており、コンタクトできた時の長打力の高さを伺うことができました。
・壊滅的ゾーン管理力
彼の最大の弱点が「ゾーン管理力の低さ」です。MLB的に言えば「Plate Discipline」と言われる要素ですが日本的に言うのは「ゾーン管理」で浸透しているみたいなので本記事では風潮にならい「ゾーン管理」とさせていただきます。
ここでは単に選球眼を見るのでなくストライクゾーンをどれだけ振り、ボールゾーンをどれだけ振らないかというデータから分析を行います。
以下データはFanGraphsより引用したものです。
ストライクに関してもボールゾーンに関してもコンタクト率が低いのはまだしも、ボール球を平均より多く振る傾向があるのにもかかわらずボールゾーンのコンタクト力は著しく低いということが伺えます。
これが彼の最大の弱点です。
このことは先ほど前座として記したゾーンチャートともリンクしていきます。
注視すべきはすべてのボールゾーンに対して30%以上のスイング率を記録している点です。 よく言えば悪球打ちとも言えますが、今シーズンは特にストライクとボールの見境がついてないことが映像やデータからも読み取れます。
ボールゾーンでも本塁打にしてしまうだけのリーチとパワーがあるが故の積極的すぎるアプローチなのでしょうが、この「ボール球を振らない」ということができないと日本人投手の変化球に翻弄され続ける結果になることは明確です。
つまり、
本塁打にできるコースはボールゾーン含め多くありますが、彼に求められるのは自分が真に得意なコースを明確にし、カウントを有利に進めることでストライク球を呼び込み、尚且つチャンス球を逃さず仕留める「好球必打」の姿勢です。
ここをドラゴンズで磨くことができるかが、長く日本で活躍できるかできないかの分かれ目になるのではないかと個人的には踏んでいます。
・まとめ
最後に記事の内容を簡潔にまとめていきます。
・MLBでも屈指の身体能力を持ったアスリート型外野手。今季守備面でも優れた数値を残し、総合力の高い活躍が期待できる。
・センターからプル方向にトンデモ打球をカチこむ正真正銘のフライヒッター。 インサイドにスポットあり。外角もデビュー当初は良く打ていたが近年悪化傾向。
・特に19年見られた変態的な逆方向への当たりも大きな魅力。今年は影を潜めているか。
・バレル率は非常に優秀。助っ人候補としては際立つ数字で活躍を期待させられる大きな要素。
・外の高めの94マイル前後の速球に難あり → リーグ平均球速低下で良化十分にあり得る
・右投手のオフスピードボールへの対応は今年度良化。速球もそこそこ良好。しかし左投手の変化球への対応は辛い。
・ブレーキングボールへの対応が投手の左右/投球コース関係なく悪い
・ボール球の見極めが悪すぎる/手を出す球に見境がない
最大の関門は最後の二つであると私は睨んでいます。かつてMLBでフリースインガーだったビシエドを矯正したメゾッドを生かし、なんとか磨き上げてほしいです。
最後に全体を通して言いたいことがあります。
それは、これらの内容はあくまで、すべてMLBクラスにおける話であるという点です。
当然MLBクラスで弱点をモロ出しにし、結果が出ずに苦労してきたから来日するのであり、その苦労してきた内容を分析するため多少ネガティブな内容が多くなってしまいますが、逆に言えばMLB級でここまでデータが揃うだけ出場できてる時点で非常にポテンシャルが高いということです。
一部のCIN系列の記者はアキーノ選手が今季DFAされる前に「CINの外野手プロスペクトの突き上げが弱く、今季打撃は低調であったが、高い守備貢献を見せたアキーノはノンテンダーされない可能性も大いにある」とアキーノの立ち位置について見解を出していました。
来年もMLBにいるかそうでないかという立ち位置以上の外国人助っ人候補など言うまでもなくいないので、獲れる範囲の中で最高級クラスを獲ってきたという認識は間違いありません。
AAAでもK%こそ高いもののここ数年ずっと無双状態を継続している点や、2年連続でMLBで二桁本塁打を記録している点などからも、そのスケールは通常来日候補になる「マイナーリーガー」の域を越え、立派に「メジャーリーガー」の域に達していると言えます。
おそらく、来季のNPBで彼ほどパワフルなプレーをできる身体能力をもった選手はいないでしょう。
先ほど述べた「手を出すコースの明確化」と「好球必打」を成し遂げ、球団史に残る活躍を大いに期待しています。
がんばれ!パニッシャー!!
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