NOT TOO LATE #9: なにがみてるゆめ
文:Jumpei Sakairi
小山田孝司 作品集: なにがみてるゆめ
スタイリストの小山田孝司さんは2023年8月、出版社のDogYearsから写真集「なにがみてるゆめ」を発売した。2020年1月〜2023年5月にかけて、22名の写真家が小山田さんの友人・知人である287名を撮影した。ロケーションは被写体の生活する地域など。その日の服装に、小山田さんのアイテムを足した姿を写した。
この写真集は、国内の雑誌を中心とした「物撮り」的なファッションの写真に対するアンチテーゼになっている。日本では商品をいかにきれいに見せるかが重視される。それが一般的に消費者の購買につながりやすいとされているからだ。その結果、どの媒体でも掲載される写真は同じようなものばかりになってしまう。現状そうした媒体に求められているのは、個性の強くない写真家やスタイリスト、モデルだとさえ言えるのではないか。
「なにがみてるゆめ」ではどうだろうか。被写体は所謂モデルではない人々だ。彼・彼女らの日常着に小山田さんがアイテムを1点足したその姿には、どこかちぐはぐな印象さえ受ける。その足したアイテムへの違和感こそが「物撮り」的な写真との決定的な違いとなる。
パッと見たときに生じる1点のアイテムへの違和感を皮切りに、写真の中に捉えられた他の要素も気になり始める。目立つアイテム以外に着ている服はなんなのか、場所はどこなのか、そもそもこの人はだれなのだろう…。
消費者の視覚的な情報を、売りたいアイテムに限定するような「物撮り」的アプローチとは結果的に正反対になっている。この情報の広がりや奥行きがこの写真集の魅力であり、作品・仕事を問わず小山田孝司のスタイリングの魅力だと言えるのではないだろうか。
私はこの写真集の発売イベントに参加した後、その足で「モードの悲劇」へ向かった。偶然、店主の北田さんが被写体として写っており、小山田さんとの思い出話や他の被写体の方とのエピソードも語ってくれた。より一層写真集が面白く読めるようになった気がした。今後そうした情報も得られる機会があると良いなと思う。
執筆者
Jumpei Sakairi
早稲田大学法学部卒
フリーライター
写真、ファッションについて。
編集の仕事がしたいです。
Contact: nomosjp@gmail.com
サポートされたい。本当に。切実に。世の中には二種類の人間しかいません。サポートする人間とサポートされる人間とサポートしない人間とサポートされない人間。