NOT TOO LATE #3
文:Jumpei Sakairi
ARI VERSLUIS & ELLIE UYTTENBROEK: EXACTITUDES
Title designed by Shingo Yamada
オランダのロッテルダムに拠点を置く、写真家アリ・ヴェルスルイスとスタイリストのエリー・イッテンブローグが、1994年~2014年にかけて取り組んだプロジェクトをまとめた写真集。
プロジェクトの内容は、人々が属するそれぞれの社会集団における服装の類似性を記録するというものだ。
様々な国の街中で、似たような服装をしている人々に声をかけてスタジオへ招き撮影した。人選の際には服装の類似性だけではなく、彼らのルーツや属するコミュニティーを重要視しており、より厳密に社会集団ごとに分類できるようコミュニケーションが積極的に取られた。
撮影された写真は、ジャンルごとに12個の枠内に並べられ、まるで図鑑のような作品となっている。2017年のVETEMENTS・AWコレクションでは本作品の世界観が用いられ、会社員やフーリガンといった社会集団ごとに、ランウェイを歩いた。
また、ユーモアを感じるコメントがページごとに添えられており、それもまた本作品の見どころになっている。コメントからは、被写体になった人々の背景についてよく理解しており、偏見や差別からは程遠い人間に対する興味や愛情があるような印象を受けた。科学的とさえ思える形式の本作品が、実際には芸術的プロジェクトであるとされるのはこうした要素も一因としてあるだろう。
全ジャンルの人々の服装と、その背景を深掘りしたくなるほど興味深い本作品。
その中でも、他ページとの対比という観点からひと際目についた「ホームレス」について書いていきたい。
この作品では、同じ服装をしている被写体はポーズまで統一して撮影されている。もはや、見分けが全くつかず、思わず笑いがこみあげてくるようなページも多い。だが、ホームレスのページだけは「全員がホームレスである」という点以外、服装や人種、性別などすべてが一見異なっているのだ。もちろんポーズも統一されていない。他ページとは全く異なる形式であえて掲載したのはなにか理由があるはず。そこで異なっている点ではなく、彼らの共通点を探してみたところ、「重ね着」がひとつのヒントになった。
常に外気にさらされるホームレスが寒さをしのぐためには、とにかく重ね着をするしかないことは想像できる。この重ね着が私には非常に格好よく見えた。「重ね着」というよりはむしろ「レイヤード」と呼びたくなってしまうほどだ。
ではなぜ格好よく見えるのか?
彼らはおそらく洋服を拾ったりもらったりすることがほとんどで、ショップで購入することはあまりないはず。他ページに写っている人々が手放したであろう、サイズも系統もバラバラな洋服を拾い集め、次々に身に付けていった結果、総合的にみるとどのジャンルにも属さないスタイルになった。そして、そのジャンルの「不明さ」が私の眼には新鮮で格好よく映った。
ホームレスにおしゃれさを感じたことがある人も割といるのではないか。実際にホームレスのレイヤードから着想を得た、ホームレステイラーというブランドが日本で2019年からスタートしている。
少し話はそれたが、服装もポーズもバラバラなホームレスのページには、共通点がないように見えて実際には存在する。表面的な「重ね着」という共通点をもう少し掘り下げると、拾っては重ねて着るという偶然性の強い行為がもたらす、服装のジャンルの不明さ。そして、彼らがホームレスであるが故の社会的所在の不明さ。こうした何にも属さないという「不明さ」が、彼らのバラバラな服装やポーズに隠された共通点なのではないか。そして、アリとエリーがホームレスのアイデンティティを尊重し、他ページの人々と同等に社会集団として認知しているからこそ、他ページとは異なった形式であえて掲載したのだと考えられる。
ここ数年間でSNSの発展に加え、ファストファッションが世界的に流通するなど、社会やファッション業界が目まぐるしいスピードで変化している。1994年~2014年までのデータを収集した本作品と現在では、また大きく状況が異なってきているはずだ。
現在もプロジェクトは進められており、写真集の発売やホームページの更新も行われている。今後もこうした変動をアリとエリーがどのように受けとめ、表現していくのか非常に楽しみだ。
参照
Exactitudes ホームページ
https://exactitudes.com/collectie/?v=s
ExactitudesとVETEMENTS
https://www.dazeddigital.com/fashion/article/34528/1/photo-book-inspired-vetements-aw17-exactitudes-ari-versluis-ellie-uyttenbroek
VETEMENTS 2017 AW collection
https://www.fashion-press.net/news/33385
執筆者
Jumpei Sakairi
早稲田大学法学部卒
フリーライター
写真、ファッションについて。
編集の仕事がしたいです。
Contact: nomosjp@gmail.com
サポートされたい。本当に。切実に。世の中には二種類の人間しかいません。サポートする人間とサポートされる人間とサポートしない人間とサポートされない人間。